あらすじ
昭和51年に福岡県で発生し、日本列島を震撼させた「一家四人惨殺事件」。満州で生まれ、極貧のなかに育ち、あらゆる辛酸を嘗め尽くしたあげく事件に至った一人の男の姿は、読むものの心を揺さぶらずにはおかない。ミステリー界の雄が渾身の力で対象に肉薄し、その謎と背景とを解き明かした、日本版『冷血』ともいうべき大著。
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Posted by ブクログ
秋好被告は昭和17年、満州生まれ、その生い立ち、特に幼少期は貧困と苦労の連続です。まず、敗戦により帰国するまでの大陸での強烈な体験に始まり、無事帰国しても母の病により、小学1年生で母と乳飲み子・家畜の世話に家事全般と、学童とはいえない働きぶりです。当時はマッチもなく火打石を使っていたとか。「おしん」よりはるかに過酷な子供時代と思います。
優等生で模範生、家族思いの秋好少年は、周囲の大人の信頼も厚く、貧しいながらもすくすくと育っていくのですが…
進学の夢叶わず中卒後に働きだしてから、どうも人生の歯車が狂いだしていくような印象を受けました。
せっかくの海外赴任の話も父に取り消されたり、誤解による盗難で逮捕されたり、運がないというか間が悪いというか。ただ、秋好自身の弱さが引き起こしていることも多いのですが。都合が悪くなると、会社を無断退職してますし、あらぬ疑いをかけられても仕方ない面もありますから。
最大の運の尽きは、やはり富江と出会ってしまったことでしょうか。
とにかく川本一家が強烈。堀越主幹の言葉にもありますが、このような家族がついていては幸せは望めないと思います。それにしても、いい年した男女がどうしても結婚に家族の承認を求めようとすることには疑問を持ちました。両性の合意のみで成立するんですけど、やはり
地域性、時代背景、生育環境の影響が大きかったんでしょうか。
結局、昭和51年に川本一家殺害事件が発生してしまいます。秋好被告が殺人犯であることは明確であり庇うわけではないのですが、捜査と判決に問題あり過ぎと思います。富江も秋好逮捕後は保身に終始し、おそらく共犯と思われる節は数々あるのにお咎めなし?
冤罪事件は今でこそ表に出てくるものもありますが、これは氷山の一角で闇に葬られた冤罪はいったいどれくらいあったんでしょうか。
被害者のためにも、公正な捜査と裁判を説に望みます。
昭和という時代は、直接的・間接的に戦争の影響が時代にも人間にも及んでいたように思います。秋好にも富江にも川本一家にも。