あらすじ
昭和51年に福岡県で発生し、日本列島を震撼させた「一家四人惨殺事件」。満州で生まれ、極貧のなかに育ち、あらゆる辛酸を嘗め尽くしたあげく事件に至った一人の男の姿は、読むものの心を揺さぶらずにはおかない。ミステリー界の雄が渾身の力で対象に肉薄し、その謎と背景とを解き明かした、日本版『冷血』ともいうべき大著。
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時代に取り残された男の悲劇
満州で生まれ、家族と共に日本に帰り着いた秋好であるが、不運につきまとわれ、戦後の好景気に取り残されたために貧困のスパイラルにとらわれ、それが後の犯罪につながったのではないだろうか。むろん、全てが本人の責任ではないが。
その原因は主に病弱の(かつては神童と呼ばれた)母、次々と死んでいく弟妹、父の突然死など…。
無論家族が悪いわけではない。だが、これらのどれがひとつでもなかったら、真面目な性格だった秋好英明は、ごく普通に人生を送ることができたかもしれない。
とは言え、本人がいくら真面目に働いても、いい加減な親戚や周囲の関係者たちが足を引っ張る。(いい人間もいるが…)
そして本人の内気で断れない性格や、厳しく叱責されたことがなかった経験(この辺りは現代の人にも当てはまりそう?)から、謝罪や都合の悪いことは口にできず、また、それらから何度も逃げる。
そして、自分に借金があることを隠して金遣いの荒い妻を娶り、ようやく借金を返し終わったと思ったらまた金をピンハネされたり浪費癖のある妻が数十万もする時計を勝手に買ったりと、要するに彼の人生は貧しさと、流されやすい性格、また逃亡癖、逮捕、投獄により最愛の娘を失い…と、とにかく積もり積もって人生の坂を転げ落ちていく。
英明はしょっちゅう金をなくす。落としたり騙されたり立て替えたのを返してもらえなかったり、盗まれたり…。最終的にはスロットマシンに手を出し、のめり込んでしまいには借金に追われる羽目になる。(とは言え、借金は踏み倒さずなんとか返していこうというのが彼の真面目さを表しているが…)借金を誤魔化すために嘘に嘘を重ねていく。
そして…。
内縁の妻となった女性の家族を殺害したとして死刑囚となるが、未だ執行されないのは何か理由があるからなのか。
秋好英明の凄絶な半生も緻密に書いてあり、また、逮捕されてから裁判、判決までについて、実に1/4近くを費やしている。
この本に書いてあることが全て真実かどうかはわからないが、文庫にすると、全編800ページ近くもあるという。
推理作家の島田荘司にこのような著者があるとは知らなかった。
司法の裁きが妥当か、戦後頻発した冤罪については、もしやこれもそうなのか…と色々と考えさせられる。
興味があれば、是非一読を。
Posted by ブクログ
秋好被告は昭和17年、満州生まれ、その生い立ち、特に幼少期は貧困と苦労の連続です。まず、敗戦により帰国するまでの大陸での強烈な体験に始まり、無事帰国しても母の病により、小学1年生で母と乳飲み子・家畜の世話に家事全般と、学童とはいえない働きぶりです。当時はマッチもなく火打石を使っていたとか。「おしん」よりはるかに過酷な子供時代と思います。
優等生で模範生、家族思いの秋好少年は、周囲の大人の信頼も厚く、貧しいながらもすくすくと育っていくのですが…
進学の夢叶わず中卒後に働きだしてから、どうも人生の歯車が狂いだしていくような印象を受けました。
せっかくの海外赴任の話も父に取り消されたり、誤解による盗難で逮捕されたり、運がないというか間が悪いというか。ただ、秋好自身の弱さが引き起こしていることも多いのですが。都合が悪くなると、会社を無断退職してますし、あらぬ疑いをかけられても仕方ない面もありますから。
最大の運の尽きは、やはり富江と出会ってしまったことでしょうか。
とにかく川本一家が強烈。堀越主幹の言葉にもありますが、このような家族がついていては幸せは望めないと思います。それにしても、いい年した男女がどうしても結婚に家族の承認を求めようとすることには疑問を持ちました。両性の合意のみで成立するんですけど、やはり
地域性、時代背景、生育環境の影響が大きかったんでしょうか。
結局、昭和51年に川本一家殺害事件が発生してしまいます。秋好被告が殺人犯であることは明確であり庇うわけではないのですが、捜査と判決に問題あり過ぎと思います。富江も秋好逮捕後は保身に終始し、おそらく共犯と思われる節は数々あるのにお咎めなし?
冤罪事件は今でこそ表に出てくるものもありますが、これは氷山の一角で闇に葬られた冤罪はいったいどれくらいあったんでしょうか。
被害者のためにも、公正な捜査と裁判を説に望みます。
昭和という時代は、直接的・間接的に戦争の影響が時代にも人間にも及んでいたように思います。秋好にも富江にも川本一家にも。