あらすじ
五年前に夫を亡くし、更紗染にすがって生きてきた紀代。初の展示会は著名人が集い盛況だったが、新聞記者の丸尾に「更紗は道楽か」と問われ、紀代は自分の甘さや未熟さに気づく。年下だが頼れる丸尾に、紀代は好意を抱き始める。亡夫の友人、岩永も、彼女の作品をまとめ買いするなど陰で支えていたが、ある日――。ふたりの男性の間で揺れ惑う女心。切なく交錯する想いを描く、至高の恋愛小説。
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Posted by ブクログ
美貌の未亡人、紀代。
隠居した大実業家で、紀代をお気に入りの舅、玄助。
かつては紀代に思いを寄せていた、亡き夫貞一郎の親友で実業家の、岩永。
世間知らずの紀代に遠慮会釈ない意見を述べる、新聞記者の青年、丸尾。
紀代はしなしなとこの三人それぞれを頼りにしつつ、趣味で始めた更紗の着物作りを自分の仕事にしていけるのか、そして最後は誰と結ばれるのか……。そういう話であると紹介しても間違いではないが、「とにかくすごいもの読んだ…」という読後感に圧倒された。
出来事の説明や風景の描写と地続きに、静謐ながら感情が匂い立つような文章。激しさはないのに、読んでいると人物たちの想いがこちらの心にまで流れ込んできて溺れそうになるような感覚を覚えた。文章の美しさが紀代の人物像とも重なり、作品世界に惹き込まれた。
恋の顛末については、それだけで何時間でも語れそうなくらい言いたいことはあるが、きりがなくなりそうなので割愛。『更紗夫人』というタイトルが、最後には燦然と輝いているような、そんな印象を持ったことだけ書いておく。
また、これもどちらかというと脇道の感想だが、更紗を“作る人”に対して“着る人”がいるということに紀世が気付くシーンも好きだった(このシーン自体は“脇道”ではないが)。紀代は、のり子の着姿に、自分が作っただけでは到達できなかった“完成のかたち”を見たのかもしれない。作るという行為は実は孤独で、“受け取る”側が生む奇跡を待っているのかもしれない。
Posted by ブクログ
裏表紙のあらすじに、「至高の恋愛小説」とあり、有吉佐和子さんのまっすぐな恋愛小説読んだことないな、と思って手に取ってみた。
描かれる心の機微は、夏目漱石の「月がきれいですね」の世界で、ものすごく遠回しでさりげなく、昔は勘がいい人しか恋愛できなかったんじゃないかと思うほど。非常に奥ゆかしく、ときめきなんてないに等しいので、そういう期待はしない方がいい。
ラストには、物語はすっかり仕事による女性の自立小説に姿を変える。意外と予想外の動きをする男たちなんて、添え物でしかなかった!
有吉さんが描きたいのはいつでも、1人の人間として背筋を伸ばして立つ女性なんだ。しっかり芯もアクもある、かっこいい女になりたいと思った。