【感想・ネタバレ】越境の古代史 ――倭と日本をめぐるアジアンネットワークのレビュー

あらすじ

諸豪族による多元外交、生産物の国際的分業、流入する新技術……。古代の列島社会は、内と外が交錯しあうアジアのネットワークの舞台である。倭国の時代から、律令国家成立以後まで、歴史を動かし続けた「人の交流」を、実証的に再現し、国家間関係として描かれがちな古代日本とアジアの関係史を捉え直す。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

日本古代史は「日本」という固定的な単位の成長物語ではなく、常に東アジアの動乱やネットワークに規定されてきた。本書の特色は、渡来人の「身体」をめぐる駆け引きや、新羅商人の船に乗って密航する僧侶など、教科書的な「日中交流」のイメージを覆す生々しいエピソードが豊富な点にある。

渡来する身体が主要論点の一つ。技能や知識は「身体」という箱を介して運ばれるため、渡来人は最新技術を列島に定着させるための「更新される身体」として期待されたとする。

天皇制と中華思想も重要な論点。「天皇」号や「日本」国号は、百済滅亡後の孤立した危機状況下で、国内勢力に対し文明的優位性を回復させるために導入された「小中華」の表現であるとする。白村江の戦いでの敗北という空前の危機に対し、倭王権は亡命百済人らの知識を総動員して防衛体制を整え、中国由来の中華思想と律令を導入することで「天皇」と「日本」という自立した中華国家を創出した。

管理交易の矛盾については、国家は対外関係を独占しようとしたが、実際には地方官や有力者が国際商人と個別的に結びつくことで、管理体制に「穴」があけられていたと論じる。

天智期関連では、中大兄皇子(天智)について、百済滅亡と白村江の敗戦を受け、亡命百済人(沙宅紹明・鬼室集斯ら)の技術を用いて水城や朝鮮式山城(大野城等)を築かせ、防衛体制を整えたとする。白村江の敗戦という「絶望的な敗北」が、いかにして「日本」という国家の誕生を促したかの動機が鮮明に描かれる。

天皇制の創出については、白村江後の孤立した危機の中で、天智〜天武期にかけて「天皇」号や「日本」という自立した中華国家の枠組みが準備されたとする。

帰化制度については、百済亡命者らを戸籍(庚午年籍等)に編入し、天皇の民として固定化する「帰化」の仕組みを整備し始めたとする。渡来人は、天皇の徳を慕って帰順した「帰化人」として再定義され、国家の籍帳に登録されることで恒久的に囲い込まれた。

王辰爾(おうじんに)は、百済から派遣された中国系技術者。文字の読み書きを武器に外交実務や「船賦」の数録で活躍した。

筑摩書房のちくま新書で、基本的な古代史の用語(遣唐使、白村江など)を知っていれば、スリリングな国際政治劇として読める。渡来人が単なる「文化の教師」ではなく、本国の意図を隠し持った「駐在官」として暗躍する姿はキャラ造形に有用。

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2025年12月29日

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