あらすじ
「文弱の貴公子」という八百年来の誤解から実朝を解放する。政治状況の精緻な分析と、和歌への犀利な読み込みが明らかにする「東国の王権」を夢見た男の肖像。(講談社選書メチエ)
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Posted by ブクログ
源実朝の歌集「金槐和歌集」から実朝とその名付け親である後鳥羽上皇との友好関係、踏み込んで言えば、早くに父の頼朝を亡くした実朝が後鳥羽上皇に父性を感じた、との話がとても面白かった。実子を儲けずに後鳥羽上皇の親王を次期将軍に据えることも、源氏の血統よりも「父」たる後鳥羽上皇の関係者を重視したわけだと。一時はその路線で進みかけた。しかし実朝の将軍親政は北条氏、特に北条義時から反感を買った。
そして鶴岡八幡宮での右大臣拝賀の儀で甥の公暁に暗殺される。その黒幕を義時や三浦義村とする説もあるが、本書では若い公暁の単独犯行というフツーの結論に追いついている。そして親王の将軍を、との路線は後見人たる実朝不在により王権東西分裂に繋がりかねないとして撤回される。後鳥羽上皇と義時と、つまりは朝廷と幕府との関係が悪化してゆき、承久の乱へ至ることになる。
「幕府政治に背を向け、公家文化に耽溺して和歌や蹴鞠に没頭した文弱な正宮、源氏と北条氏、幕府と朝廷との狭間で懊悩しつつも、個性的で雄大な『万葉調』の和歌を詠んだ孤独な天才歌人、こうした従来の実朝像をくつがえすことができたのではないかと考える。(エピローグp. 265)
歴史にあまり詳しくないわたしには、この「従来の実朝像」が無かった。そのために著者の論はとても飲み込みやすかった。しかも従来説や他の研究者の説なども随時取り上げている点も、本書を信頼できるものとして読み進めることができた。
今年(2022年)のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の時代考証担当者でもある著者は、本書や中公新書「承久の乱」などで描いた鎌倉時代初期のリアリティーを上げるのに大いに貢献していることと思われる。(が、2月下旬の現時点で私はまだ未見である…w