あらすじ
車椅子の少女と物言わぬ従者。 互いの他に、信じるものなどない二人。◆極寒のロシアを舞台に沙村広明が描く、戦慄の歴史ロマン。◆1933年、ソビエト連邦カレリア自治共和国。とある別荘(ダーチャ)の管理人であるイリヤ・エヴゲーニヴィチ・ブイコフは、車椅子の少女・ビエールカと物言わぬ従者・シシェノークに出会い、奇妙な賭を申し込まれる。なぜ彼らはこの地を訪れたのか、どこからやってきたのか。そして互いだけを頼りに生きる二人が背負う、密かな宿命とは――。とある名家にまつわる、喪失と奪還の物語。
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『無限の住人』作家の描くロシア激動の時代――。
舞台は1930年代ソビエト連邦。素性不明の車椅子の少女と、謎の病を負った無口な従者は、とある別荘を訪れる。当局に見つかれば即刻、連行される危険もありながら、そこへ来た目的とは…。
第18回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞作。ロシア的専門用語を多用する台詞に中二病心をくすぐられ、『無限の住人』の作者らしい露悪的描写には癖になるような不快感を催すも、謎が謎を呼ぶストーリー展開はさながらミステリー映画のようで、頁を捲る手も早る。そもそも舞台が帝政ロシア最後の皇帝・ニコライ2世一家の処刑や五カ年計画といった、耽美・狂気にあふれた共産主義全盛の時代だ。最高である。
とはいえ、作品名の「スネグラチカ」とは、「雪娘」の意。冬にしか存在し得ない雪娘と、「春」を組み合わせたタイトルに象徴されるように、残酷な舞台装置ではあるが、詩情ある世界観を魅せてくれる。
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Posted by ブクログ
一つの思惑を抱いている主人公によって様々な人間が二人に関わっていくストーリーは、時には人の容赦のなさを、時には人の優しさを二人に与えていきます。
危険と隣り合わせの潜入は、都合よく二人を救ってはくれません。家に置く代わりに体を差し出すことになったビエールカは絶望した顔を見せても逃げることはしませんでした。
簡単にはいかない。何かを失うかもしれない。それを引き換えにしても手に入れたいものがある、ということが分かるこのシーンが一番好きです。決死の覚悟が見事に描かれています。
実在の人物をフィクションとして扱ううえで出てくる、「この人物には実はこんなことが隠されていたのではないか?」というならではの面白さが詰まっています。
時代ゆえの残酷さと厳しさが表現されていてるのも魅力の一つです。
Posted by ブクログ
凄まじい完成度。
彼が誰なのか、彼女が誰なのか、は薄々わかったが、
個々の設定を超えて互いの関係および感情まできっちり描き切り終える。
手本のような作品。
Posted by ブクログ
モノクロのロシアを舞台に描かれるツンデレの物語―
但し、主人公である車椅子の少女はツンデレではない(え?)
共産党による粛清の嵐が吹き荒れる旧ソ連。車椅子の少女・ビエールカとシシェノークはとある別荘の管理人に済ませてほしい、と話を持ちかける。
明らかな偽名、出所の怪しい報酬…彼らは何者で、どこからきて、何が目的なのか。
寒々しく厳しい生活の中、奇妙で謎に満ちた彼らの宿命が描かれます。
と、静寂と抑圧が似合う世界の中でスリリングなやり取りが行われるのですが…どうにも地味な印象は否めません。というか派手にはならない。
しかし、ロシア、そしてソ連という国の歴史や生活をしっかりと、かつ魅力的に描いており(住んでみたいと思うには厳しいけれど(苦笑))、興味をそそられます。また、登場人物たちは皆それぞれ秘密を抱えており、それらが少しずつ表にでてくるのが面白い。じわじわと引き込まれます。
重ね重ね、地味な話なのですが、その分ジワリと染みる読み応え。
少女と従者、ロシア、歴史…この辺が気になる人にオススメです。
Posted by ブクログ
沙村広明著作・初読。
最初は謎めいた大人っぽい美少女として登場した主人公が、
ページをめくるごとにどんどん年相応に可愛らしくなっていくのが不思議。
「肩の線が女らしくなった」なんて言われて頬染めてるページなんて、カワイイのなんの。
アレで萌えなきゃ男じゃないね、オジさま(笑)
ロマノフものといえば、「アナスタシア」が主人公、というのが定番だけれど、あえてそれを外して大正解。
素直に面白かったです。
でも「お父様」(お義父様じゃなくて実父の方)の
この作者の描写がもうちょっと見たかったかな。
で、お義父様。
ステキです。スピンアウトしてもう1冊分描いていただきたいくらい。