【感想・ネタバレ】社会思想史を学ぶのレビュー

あらすじ

九〇年代以降、明日への不透明感は増す一方であり、人びとの抱く閉塞感も高まるばかりだ。社会思想史を学ぶとは、まさに、過去の思想との対話を通じて現代世界を眺める座標軸を獲得することにほかならない。近代啓蒙からポストモダンまで、重要思想の核心をクリアに一望する入門書決定版。

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Posted by ブクログ

本書は、社会哲学を専門とし

現在は、東京大学教授であるである著者が

近代以降の社会思想史について紹介する著作です。


著者は「近代主義の見直し」という問題意識の元に

まず、80年代以降の思想界における混乱をコンパクトに解説。

続いて、ヘーゲル、アダム・スミス、ダーウィンなど

啓蒙・近代を推し進めた思想家たちを紹介し

その「正の遺産」を振り返ると同時に、問題点も指摘します。

その上でアドルノ、ハタミなど

近代を見つめなおそうとした思想家や

「西欧」「啓蒙」に立脚しない思想家たちを紹介。

さらに、ガダマーや井筒俊彦らの成果を参照し、

対話と相互理解を通じた社会思想の見直しを提唱します


日本の現代思想に対する手厳しい評価

ネオコンによるレオ・シュトラウスの誤読

対話を進める理念としての「和」(≠「同」)の再評価

・・など興味深い記述は多いのですが

そのような個別の記述以上に印象深いのは

幅広いジャンル・時代の思想家を

一つのテーマの下に論じる本書全体の試みと

そこから伝わる、思想史のダイナミズム・醍醐味です。


簡潔・平易ながらも偏狭な復古主義にも、夜郎自大な賛美に陥ることなく

社会思想の現在と、未来へ向けた壮大な道筋を示す本書。


公共哲学に興味がある方はもちろん、

一人でも多くの方に読んでいただきたい著作です。

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2010年06月27日

Posted by ブクログ

なぜか積読になっていた一冊。同じく積読になっている、ちくまの「名著30」シリーズを片付けるのに合わせて読み終えた。

まず、本書は2009年にリリースされた点を考えて読む必要がある。その10年近いズレが気になり、それほど期待しているわけでもなかった。

だが読み始めてしばらくして、ハンチントン、ウォルフレンをばっさりと片付けたあたりで「おや?」となる。S・J・グールドの科学と道徳性の関係についての記述のあたりからはもう読むのが止まらなくなる。

読み終えていろいろとおもうことは山ほどある。ちょっと場面転換が早い気もする。
たとえるなら、バイク仲間に「ざっと流そうか?」と誘われてついて行ったら、知ってる道なのに全く追いつけない、という感じか。新書とはいえ、かなり集中して読まないとあっという間に置いていかれる。

アマルティア・センも、ディルタイもたしかに読んで「知っている」はずなのだが、理解したことを本書のように言葉にできないのは諦めるほかないのか。

金曜の夜とか疲れた状況でなければもっといろいろ書けたとおもうのだけど。

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2018年11月22日

Posted by ブクログ

本屋さんでは色々な自己啓発本やハウツー本が並んでいますが、不透明な時代のいま、哲学や歴史が見直されていることには同感ですし、ついついこの本に手が伸びてしまったのもそんな理由からです。

本書は、私のような社会思想の初心者にも平易に書かれており、非常に読みやすい良書です。

近代啓蒙、リベラル思想にはじまって、かの有名なサミュエルハンティントン教授の文明の衝突、グローカル。こういった具体的なテーマから紐解いて、様々な社会思想がうまれた時代背景がつかめます。

とっつきにくいテーマにも関わらず、非常に分かりやすくコンパクトにまとまっており、他に読んでいた本ともクロスして、より深く読んでみたい一冊がこの中から見つかりました。

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2010年09月12日

Posted by ブクログ

本当に軽い書物。
これでもかというくらいの人数の学者を盛り込みながら、近代後の社会思想の見取り図を示してくれる。最後の参考文献の量は圧巻である。この薄さであの量の思想を紹介するのだから、一人一人の記述は本当にごくあっさりしている。
これから入学する大学一年生などに勧めたい。

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2013年02月09日

Posted by ブクログ

社会思想についての入門としては非常にいいと思いますが、これもある程度予備知識がないとついていけない部分がある。
新書なので、紙数に限りがあるためかなり駆け足。
わかりやすく書こうとしているのだろうが、思想史に詳しくない私などは、何度も読み返してしまった。

また、歴史的事実と、思想の発達を力説しながらも、間違った歴史認識が随所にみられたため、偏ったイデオロギーを基に書かれているのが残念。
もっと客観的な視点で書いて欲しかった。

近代の思想をコンパクトにまとめているため、思想史の入門編としては評価できるかなといった感じ。

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2012年01月17日

Posted by ブクログ

現代社会を捉え、未来社会を構想するための社会思想史という学問。欧米中心的な進歩史観からの脱却を目指し、多元的な社会を生きていくための社会思想を探る。
あまりにさらさらとした語り口調なので、引っかかりにくいかなあと思いつつ、扱っている主題からするとこのくらいの距離がちょうど良いのだと思います。

本書で紹介されている社会思想について、印象に残ったものを。

・集団的権利と集団に属する個人の基本権を共に保障する政策によって、文化の多様性と文化横断的価値(人権)の両立を目指す、多文化主義。これを唱えるキムリッカは、1948年の世界人権宣言を人権革命とし、その延長上に多文化主義を捉えている。
このキムリッカを、本書は「人権以外の諸価値についての関心に乏しい」と批判しているのが印象的だった。内田樹っぽいなと思った。

・そしてキムリッカより評価されているのがテイラー。個人の権利や自律性に基礎を置くリベラリズムには、一つの価値を絶対化する危険性が付随していると考え、個人の権利を多様な諸価値の中の一つとみなし、異なる価値や宗教間の対話の中で、重なり合う合意を見出していくことを提唱している。

・社会思想史における三木清の立ち位置。当時の極めて限界づけられた歴史状況の中で、彼が中国と日本の比較文化史的な研究を行い、三民主義を唱えた孫文を評価しながらも民族主義を超えようとしたこと。白人の帝国主義的侵略に対抗しながら、自らも中国へ侵略している日本の矛盾を告発したこと。彼が生きた時代の酷薄さと偏狭さを考え合わせると、信じられないほど先見の明に満ちたトランスナショナルな思想である。こんなにも賢い知識人を有しながらも開戦に踏み切り、さらに治安維持法によってこの知識人を投獄し、獄死させた日本という国を想うと本当にやりきれない。

・日本の「和」は比較社会思想の素材として世界に誇れるものである。「和して同ぜず」というように、和は、どこまでも文化や歴史の多様性や違いを承認したうえで、調和や平和を保つことを意味する概念といえる。

本書は、ユネスコ憲章の序文、「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和の砦を築かなければならない」を念頭におきながら、人類レベルでの公共的な価値に寄与する学問としての社会思想史の可能性を示唆する。社会思想史という学問の入門書として最適でした。

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2011年11月25日

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