あらすじ
頭角を現していく同期生に焦りを覚えるダンサー・マリオ。彷徨する青年の心の軌跡をドラマチックに描く長編ロマン。
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Posted by ブクログ
初読。
■ローマへの道 202p
ベルギーの育ての父母たる叔父叔母のもとを離れてパリでバレエ修行中のマリオ。
叔母の葬儀で叔父から、死んだと聞かされていた実の母が、夫つまり実の父を殺したあとローマで生きていると教えられて動揺し、パリに戻っても恋人とうまくいかず……。
という筋だが、マリオが恋人のラエラを殴る(!)とき必ず母が父を殺した凶器の麺棒がよぎる……この描写が凄い。
いわば救いが描かれるわけだが、個人的には、描かれない今後も想ってしまう。
ドメスティック・バイオレンスと親子の繰り返しの問題。あとは日常の倦みについて。
漫画内で、読者の味わいをよくするためには、たとえば一回だけマリオがラエラを打って、何度も記憶に苛まれるという流れにしてもいいところを、結構執拗で飽きてしまうくらいに、何度も何度も何度も、マリオがDVする場面が繰り返される。
あ……これひょっとしたら「呪い」から「解放」されたあとも続くのかも……というやりきれなさを、個人的に読んでしまい、すっきりせず……しかしこの「すっきりしなさ」が大事だと思う。
「残酷な神が支配する」同様、一度ぶっ壊れてしまった人の、一回の出来事で救われない粘着性のようなもの。
またその日常性の毒には、才能やら妬みやらも係わって、表現者として陥りがちな陥穽も要素になって、もう業が深すぎて……。
*ルームメイトのレヴィはこの後「感謝知らずの男」で描かれる。
■青い鳥(ブルーバード) 50p
「世界が不条理でも、舞台だけは美しかった。舞台にだけは青い鳥が住んでいた」「誰も誰かの青い鳥にはなれない」
至言の連発。
■ロットバルト 50p
単純に「白鳥の湖」だから、ダーレン・アロノフスキー監督「ブラック・スワン」を思い出したが、ミステリの枠組みも似ている。
◇エッセイ―萩尾さんの髪の毛の南北問題:さそうあきら(漫画家) 4p
髪色について。黒髪と金髪と描き分けることで、説明なく人物の出身が北か南かを示している、という指摘。
これは素晴らしい着眼点だと思った。