あらすじ
東京は下町、向島の料亭に生まれた川田周一。十四歳。母はすでになく、父も別居していた。義兄が家を出て、二人の異母姉と周一だけになった。刑事や物騒な連中が来るようになり、店を嵐の気配が包む。そんな中、周一は煙草や酒を覚え、喧嘩を女を知っていく。しっかり眼を開けていろ、との板前・久我の言葉を胸に、男という向こう岸へ、泳ぎ渡りはじめた少年の成長を描いたハードボイルド青春小説。
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Posted by ブクログ
北方謙三の少年モノである。どうして女が描く少年は小学5年から中学2年までの大人一歩手前になって、男の描く少年は大人になるまでを描くのだろうか。
眠れなかった。躰の芯の方に痛みがある。佐野とやり合った時より、ずっとひどいようだ。一発一発のパンチがずしりと肚にこたえた。
やるだけはやった。久我とやりあって、勝てるはずも無いことは、頭のどこかでわかっていた。だからやめる。そうしなくてよかった、と周一は思った。最初からやめていれば、闘う前に負け犬だ。やりあって負けはしたが、それは第一ラウンドの負けのようなものだ。
寝返りを打とうとしたが、背中あたりがひどく痛んだ。顔も腫れているので、横にはむけられない。仰向けでじっとしているのが、一番いいようだった。
くやしくはなかった。やるだけやって負けたのなら、くやしくもなんともないことが、はじめてわかった。久我というのは、強い男だ。それを認めるような気持ちはある。(148p)
1986年「小説現代」初出。古いタイプの男たちが出てくる。最後は高倉健の様な男が怒りを爆発させる。雪は降らない。藤純子の代わりに、周一がそれを見守り、大人の世界に入る宣言をする。負けても負けても強くなる。それは、やがて岳飛の姿にも繋がっていくだろう。