あらすじ
19世紀末のアジアに突如現れた謎の国、大日本帝国。
その国はまたたく間に中央集権体制を作り上げ、富国強兵のスローガンのもと、怒濤の勢いで成長を続けた。そして誕生からわずか30年で、当時、アジアの盟主の座に君臨していた清国を打倒。その10年後には、ヨーロッパ最強の陸軍を有する大国ロシアをも打ち破ってしまった。
大日本帝国は、いかにして作られ、成長し、そして倒れていったのか。
『ナチスの発明』の著者、武田知弘が日本史のタブーに迫る。
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Posted by ブクログ
大日本帝国というと、「軍国主義の時代」「アジア中が日本の戦争のために犠牲になった時代」など、暗黒時代の象徴として語られることが多い。"War Guilt Information Program" (連合国軍最高司令官総司令部が行った自虐的歴史観を植え付ける洗脳計画)に毒された公立学校教職員(日本教職員組合)や、憲法9条を守れば平和が維持できると深謀遠慮に欠く平和愛好者の間では特に顕著である。
今でも「軍部の暴走により日本が第二次世界大戦に突き進んだ」というのは、日本人の間では常識のように語られるが、これだけを盲信していては、過去の経験を日本の未来に生かすことができない。この書は、教科書では語られない、また教育現場で教師が教えようとしない、戦争に至った複雑な過程を分かりやすく解説している。そのひとつ、第二次世界大戦に至る「軍部の暴走」を取り上げてみる。
この問題を考えるとき、国民は軍部の台頭を熱狂的に支持していたという事実を忘れてはならない。だから、帝国議会は抑えることができなかった。ではなぜ、国民は熱狂したのか。いくつかの理由を本書から列挙してみる。
・戦前は凄まじい格差社会(巨万の富を得る財閥と農村の荒廃)であった。
・世界恐慌等で不況にあえぐ日本の景気回復を満州国に期待した。
・大手新聞社は言論統制が敷かれる前から、売上を伸ばすため好戦的記事を書いていた。
・当時の二大政党は足の引っ張り合いに終始し、政治が大混乱に陥った(いわゆる「統帥権問題」(1930年、ロンドン海軍軍縮会議)を持ち出し、政府の軍に対するコントロールを否定しまった)。
・普通選挙が結果的に国民の政治不信をもたらした(普通選挙は莫大な選挙費用がかかる割に得票数が読めない。必然的に財力のある財閥と政治家との関係が強まった)。
このような財閥や政治家への国民の不満を吸収したのが軍部であった。1932年の五一五事件や1936年の二二六事件を起こした首謀者たちも、貧しい農村の次男以下が多く、姉妹が身売りに出されるなどの状況を目の当たりにした者も少なくなかった。つまり多くの国民からすると、自分たちの生活を守り、腐敗した政治を立て直してくれるという期待があったのだ。
簡単ではあるがこのような背景を理解しないと、歴史の真実は見えない。シビリアン・コントロールをしていれば、軍部の暴走は止められるというのは誤りである。そもそも大日本帝国の「統帥権」は、軍部の暴走を止めるための仕組みだったはずだ。すべては政治がうまく機能しての話である。
以上は主として、第二次世界大戦を前提にした内容だが、本書には、日本の独立を守るための明治政府の国家つくりから、日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦へと向かい壊滅的打撃を受ける日本の(教科書では分からない)本当の姿が(紙幅の関係で部分的ではあるが)見えてくる。そこには、栄光と挫折がある。大日本帝国から学び、近代国家つくりとして誇りとするところ、あるいは反省すべきところを冷静に考えなければならない。その入門書として、本書は良書であると思う。