あらすじ
「した した した。」雫のつたう暗闇、生と死のあわいに目覚める「死者」。「おれはまだ、お前を思い続けて居たぞ。」古代世界に題材をとり、折口信夫(1887-1953)の比類ない言語感覚が織り上げる物語は、読む者の肌近く忍び寄り幻惑する。同題の未発表草稿「死者の書 続編」、少年の眼差しを瑞瑞しく描く小説第一作「口ぶえ」を併録。(注・解説=安藤礼二)
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Posted by ブクログ
姉御の歌う二上山。闇に眠る皇子が目覚める。
月が照らす峰々を見下ろし、鳥のように砂光る川へ下降する。当麻路へと続くその光景を声にして味わえば、中将姫の、郎女の、大津皇子に重なる天若日子への、尊者への彩画は曼荼羅となる。
なんと美しく狂おしい物語。中将姫へのオマージュ…
女人結界を犯した罪で当麻寺山陰の小さな庵室に籠る藤原南家郎女の、世に疎い純真さと賢さは何処からくるのだろう。
叔父である恵美押勝と大伴の話も絡めた事も面白く、俗世と郎女のストイックさの対比にも思えた。
郎女が織る命の蓮の織物
中将姫の当麻曼荼羅信仰に重なる。
中将姫が蓮糸で織った「当麻曼荼羅」
未完の死者の書続編が気になり仕方ない。
調べたら、安藤礼ニ 著 霊獣「死者の書」完結篇という本があったが古本屋の値段が七千円程だった。入廷した空海と、保元の乱の頼長をどのように絡ませるのか…とても興味がある。
飛鳥、奈良時代好きにとっては面白い小説だった。
Posted by ブクログ
死者の書の続編は際どさを通り過ぎるほどのホモセクシャル小説だが、死者の書本編のイツラメが折口自身であるとは、それだけ読んでいてもわからない。
口ぶえも濃厚なホモ小説だが、昔の大阪ことばの柔らかさと妙に調和していてこの国の同性愛の伝統みたいなものをなぜか実感させる。
Posted by ブクログ
「彼の人の眠りは、徐かに覚めて行った。まっ黒い夜の中に、更に冷え圧するものの澱んでいるなかに、目のあいて来るのを、覚えたのである。
した した した。耳に伝うように来るのは、水の垂れる音か。ただ凍りつくような暗闇の中で、おのずと睫と睫とが離れて来る。」
『死者の書』の冒頭。「彼の人」とは誰か? 謎めいた出だしにぐっと引き込まれる。次に、「した した した」という擬音音が、雫の落ちる音だと知って驚く。闇の中に、生者とも死者ともつかぬものが身を起こす不気味さ。第一章が魅力的だ。
他の章でも、独特な擬音語が登場する。「のくっと」身を起こす様、「こう こう こう」と魂を呼ぶ声、「つた つた つた」また「あっし あっし あっし」という足音、「はた はた ゆら ゆら」という機織りの音。異世界に連れて行かれるような心地がする。
ただ、筋立てが難解。ネタバレになるが、本来の筋立ては、「当麻寺を訪れた少女(郎女)からはじまり、「当麻のみ寺のありの姿」を模した曼陀羅を織り上げ、描ききることで、自身が目覚めさせてしまったこの世に「執心」を残して死んだ死者の想いを昇華させる少女(郎女)で終わる」(解説より)。
私には、「自身が目覚めさせてしまった」「死者の想いを昇華させる」の部分が読み取れなかった。丁寧な解説抜きでは、ほとんど理解できなかったと思う。
筋立ては理解できなくとも、郎女の見た俤人の神々しさ、一心に仕上げた衣の輝きが、胸に残った。また読んでみたい。