あらすじ
ふらりと東京を出て、北の地方都市へと流れついた来杉隼人。そこに未だ息づく「お殿様」の存在に驚き、ばかばかしいと嘲って町の人たちから眉をひそめられるが、彼らが慕う若様――高校生の野衣湊にはどういうわけか懐かれてしまう。あまりにまっすぐな湊に苛立ち、どこかであわれみ、面白がっていた隼人は、いつしか湊を大切に思い始めて……?
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Posted by ブクログ
だらしない根無し草×且つての殿様の子孫である若様
思いのほか良くて引き込まれ、切なさに涙してしまった。読む前は思いもしなかった星5…!多分一穂さんの文章好きなんだと思う。
こういうふうに受けと攻め交互視点で描かれると感情移入しやすい。登場人物は脇キャラまでちゃんと血肉が通っていて、ついつい彼らのことを好きになって応援したくなってしまう。
隼人が湊の両親と接したときに湊の境遇に安心する場面、隼人が乗る電車を湊と犬蔵が追いかける場面、湊が隼人に会いたいと言って慎に訴える場面、で泣いた。列挙してみるとどれも隼人と湊、互いへの想いをすごく感じる場面だった。
最後の『共犯者のゆくえ』までとても良かった。
Posted by ブクログ
話の内容はまさにおとぎ話というか、ちょっと浮世離れしていて、
さすがにうちみたいな田舎にも、そこまでの風習は残ってないよ、
というレベルの現実味のなさなんですが、気がつけばその現実味の
なさが妙にリアルになっていて、もしかするとそんなこともあるかも、
と思わされてしまいました。
小難しい描写もなく、淡々と読めます。
城持ち大名の子孫、若様と呼ばれる天然良い子ちゃんな受と、
全てを持たない世捨て人のような攻という、ちょっと一見どうしたって
かみ合わないような組み合わせです。
普通じゃ絶対に価値観があわなくて、交わることさえなさそうな設定
なんですが、それゆえに強烈に惹かれ合ってく様が小気味よい。
かみ合わないふたりにも、共通する孤独感を思うとき、なんだが
胸がぎゅーっと締め付けられるような気持ちになり、涙ぐみます。
Posted by ブクログ
世が世なら一国の城主になるべく生まれて、今でも『若様』として大切に扱われている湊。一穂さんは大好きなのだけど、ちょっとトンチキもとい奇想天外なその設定になかなか手を出せずにいました。
そんな昔の因習がしっかり残った田舎町に、ふらりと現れた隼人。住所不定無職、天性の要領の良さだけで世の中を渡り歩いてきたような正真正銘のロクデナシです。
一見なんの関わり合いもない物質同士がある時出会って、思いも寄らない結果が生まれる…みたいな、どこかケミストリーっぽい恋愛反応。
隼人は決して悪人ではないけれど、いっそ清々しいほどのろくでなしライフを送っている。人がこっそり胸のうちにしまいこんでいるような感情を、動物的な本能であっさりと嗅ぎ当ててしまう。
だから、常に『若様』を演じることを義務づけられて、生まれた時からそう躾られてきたことに疑問こそなくても、自己アイデンティティとの狭間で葛藤を抱えている湊にとって、何にも縛られず、そうした因習に一切リスペクトもない隼人の自由さに心惹かれるのは、ある意味必然とも言える。
そんな湊の真っ直ぐ胸元に切り込んでくるような無垢さが恐ろしくて、抗えないほどの強い引力で吸い寄せられそうになるのと同じぐらい強い力で自分を引き剥がして、湊の元から去った隼人。
真綿でくるむように湊を大切に大切に扱ってきた周りの人間の悪意のない優しさと期待。
聡いから、息苦しくてもそこから逃げ出せない湊。そんなみんなの宝物を欲望にまかせて踏みにじるほどの悪辣さも持ち合わせていないから、逃げ出すしかなかった隼人。みんなが善良で少しずつ悲しい。
きっとどんなエンドでも納得できない気がして、読んでいた。でも拍子抜けするくらいにキレイに終わってしまった気がする。まぁ…おとぎ話だからしょうがないか。
隼人の『好きだよ』のたった一言に集約された想い。特にエレベーターのシーンがすごくすごく良くて、さすがうまいなぁと思う。