あらすじ
“事故”により日本列島が居住不能となり、日本人は世界中の国々に設けられた難民キャンプで暮らすことを余儀なくされた。チベットのラサから2000キロ離れたここ、メンシイにも日本人の難民キャンプがある。国連職員としてキャンプを訪れた“私”の目に映ったのは、情報から隔絶され、将来への希望も見いだせないまま、懸命に「日本人として」生きようとする人々の姿だった――。3・11に先駆けること10年、破滅的な原発事故で国土を失った日本人を描き、日本人のアイデンティティを追究した予言的傑作「ディアスポラ」をはじめ2篇を収録。
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Posted by ブクログ
入院した身内の見舞いに行ったら長時間待つ羽目になったので、待合の「院内文庫」にあった本のうちこれを手に取ってみた。チベットの地の鮮やかな描写に惹き込まれてよくわからないままに読み進めると、設定が次第に明らかになってくる。
原発事故で日本の全土が居住不能レベルに汚染されたとしたら―この作品は小説の形をとった思考実験なのである。
表題作はディアスポラ(撒き散らされた者)となりチベットの地に難民として暮らす日本人、同時収録作「水のゆくえ」はダム建設予定地だったとある地に残留する村人が仮定されている。
こんないい小説なのになぜあまり話題にならなかったのか不思議だなと思うくらい。著者のガラの悪さがために軽く見られてしまっているとしたらもったいない。それとも、著者は20年前の臨界事故に着想を得てこの作品を書いたらしいが3.11以降中途半端なリアリティになってしまったからだろうか・・・もっと読まれていい本だと思う。
P9 あの、日没時に分厚い大気を透過してやってくる夕日の叙情はこの地ではありえない。そのために万物は途方もなく長い影を持つ。
P71 ダライ・ラマはこの風の中にいる。土地にでもない、血統の中にでもない【中略】チベット人がいる限り、ダライ・ラマはその中に生まれる。そしてカイラスがあそこにあるように、風はなくならない。
P94 死ぬのに理由はいらない。しかし、死は理由なく訪れてきて、家族の永遠を断ち切るのだ。
Posted by ブクログ
コーマック・マッカーシー「ザ・ロード」に負けない日本の文学。スケールも大きいし悲しみもかけています。テレビの印象があるのかもしれないけれど置いて読んでほしいな。質の高い文学作品だと思います。日常についていろいろ思ったり日本酒が飲みたくなったり原発の向こう側の作品です。福島原発事故前に書かれた作品で踏まえて書いてない中で、これを書いたのはすごいなと思う。ただ、そういうの抜きにして日本に住んでいる文学好きには多く手に取ってほしい作品。
Posted by ブクログ
10年以上前に書かれた現在の日本を暗示するかのような純文学的な小説。表題作の『ディアスポラ』の他に『水のゆくえ』を収録。
『ディアスポラ』とは民族離散という意味のようだ。ある事故で日本列島に居住不能となり、チベットの難民キャンプに暮らす日本人の物語…
『水のゆくえ』も原発事故後の日本を舞台に杜氏の一家を中心に物語が展開する…
二編のいずれも、日本人なら悲しみを覚えるような小説である。
Posted by ブクログ
読み出す前からあの勝谷誠彦の作品というわかっていたので、チベットが舞台とわかって彼らしいなあとか勘ぐってしまった。どうも原発事故かなにかで日本人が離散した世界でのチベットに逃れた日本人たちのお話というディープな設定だが、淡々と描かれていて文学チック。もう一篇の「水のゆくえ」も寒村に放射能が降った世界の話だが、人々の生活に焦点を当てた文学チックな作品。
Posted by ブクログ
東日本大震災前に、原発事故を予言したかのような内容は、その事だけでも話題性があるだろうが、日本という国において原発事故をシミュレートした物語を創作するのは、そこまで奇跡的な事では無いような気もする。寧ろ、事故を切り口に中国やチベットの関係に絡めながら抜き出したトリミングが、勝谷さんならでは、だろうか。しかし、純文学に寄せている分、ノンフィクション性が薄れたのは勿体ない。