あらすじ
アジア通貨危機が地球を駆けめぐり、日本では山一証券など大手金融機関がバタバタと倒れた「1997年」。気鋭の国際経済学者がこの年に着目したのは、97年をきっかけに世界の資本の流れが一変したからだ。未曽有の金融危機は、なぜ起きたのか。過度の悲観主義が世界を覆った時、人間心理はどう動くのか。息詰まる「経済ドラマ」を注目の経済理論「ナイトの不確実性」を駆使して分析、失敗の原因を検証する。
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Posted by ブクログ
今(2014年)になって改めて1997年のアジア通貨危機の勉強をしようと思って本書を手に取りました。竹森さんの著作は数冊読んだことがあり、毎回感銘を受けていたので、竹森さんなら大丈夫だろうとは思っていましたが、予想以上にためになる本でした。まず本書が書かれたタイミングが2007年で、翌年にリーマンショックを控えている中、本書の中でも、サブプライムローン危機については示唆されていますし、グリーンスパン前連銀総裁がとった積極的な金融政策が株式バブルを住宅バブルに置き換えて、はたしてこれが吉とでるか凶と出るか?というまさにそれ以後起こることを予言しているような本でした。
内容的にも新書とは思えないほど充実しています。私はアジア通貨危機だけが記述されているかと思いましたが、加えて日本の景気後退(山一証券、北海道拓殖銀行などの倒産をきっかけとした)についても要因分析がなされていて、日本の景気後退の原因は外国資本ではなく、日本の組織的な闇(隠蔽体質、ルールなき対応)だと指摘されており、極めて納得できます。また本書を通じて紹介されるシカゴ大学教授フランク・ナイトの「不確実性」の定義も説得力があります。
本書を読んで思ったこと、それは21世紀の世界経済は自由な資本流通が当然だった19世紀後半から20世紀前半に似通うことが多く、いま我々が必要なのはその時期に生きていた経済学者の思想を学ぶことではないか。巷ではケインズがまたもてはやされていますが、ケインズだけでなく、ナイト、そしてハイエクなどもう古典だと思われている人たちの主張を真摯に勉強すべきではないかと思いました。本書おすすめです。
Posted by ブクログ
[内に外にと翻弄の年]日本国内では大型金融機関の相次ぐ破綻、海外に目を転じれば東アジアでの通貨危機と、金融関係で大きな変動を経験した1997年。なぜこの年に危機が集中したのか、そしてこの年を境にしてどのように金融の世界は変貌したのかを記しつつ、キーワードとなる考え方である「ナイトの不確実性」について掘り下げた作品です。著者は、読売・吉野作造賞を受賞した『経済論戦は甦る』などを執筆されている竹森俊平。
現実に何が起きたかという世界と、その背後にある理論の世界を行ったり来たりしながら1997年という年を眺めていく手法はお見事。「ナイトの不確実性」という言葉は本書で初めて目にしたのですが、その考え方が近年の金融危機とどのように関わり合っているか、そしてどれほど大切かが丁寧に記述されており、数字関係に弱い自分にも「なるほど」と思わせてくれる作品でした。
そして内容に加えて素晴らしいのは竹森氏が使用する記述が非常にわかりやすく、常に読者の視点に立っての説明を心がけてくれている点。「あ、ちょっとそこわかりづらいなぁ......」というところで具体例や噛み砕いた説明がサッと差し挟まれているということが本書を読む間に何度もありました。
〜「バブルか、バブルでないか」は、所詮、「ナイトの不確実性」だ。それを判断する客観的な根拠などありえない。〜
いわゆるリーマン・ショックの少し前に発刊された作品ですが内容の素晴らしさは変わらないかと☆5つ
Posted by ブクログ
アジアの隼を読んで、
アジア通貨危機に興味を持ったため。
ナイトの不確実性とは、結果についての確率分布が未知なもの。
人は不確実性を前にすると、過剰に悲観的になってしまい、流動性を選択する傾向がある。
それが、1997年のアジア通貨危機、また今回のサブプライムの原因である。
これの対処法としては、最後の貸し手である中央銀行が流動性をふんだんに市場に供給することが重要となる。
Posted by ブクログ
現在になって、経済学の分野で注目されるようになってきたフランク・ナイトの不確実性という概念に触れています。
フランク・ナイトは、彼の著書「Risk,Unsernity and Profit(危険、不確実性及び利潤)」で、確率によって予測できる「危険」と、確率的事象ではない「不確実性」とを明確に区別し、「ナイトの不確実性」と呼ばれる概念を構築しました。
不確実性とは、著者の極端な例を借りると、北朝鮮が日本にミサイルを撃ち込んでくる確率です。このように計算できない、起こるかどうかわからない未知のことが、不確実性です。
金融工学は、この不確実性を考慮に入れていないため、どうしても不完全なところがあります。
このようなことと、アジア通貨危機前後のお金の流れの変わり具合について触れています
Posted by ブクログ
新書だから楽に読めると思ったら意外と難解だった。入門書のつもりで読むと面食らう。でもしっかり理解するとかなり勉強になる。1997年の通貨危機以来、世界は「不確実性」の時代に突入し、投資は冷え込み、危機の蔓延を防ぐために連銀は金融を思い切って緩和し、そしてそれが現在のサブプライム問題に…と金融史のパズルが頭の中でいっきに結合して快感を味わえた。キーワードはナイトの不確実性とアラン・グリーンスパン。
Posted by ブクログ
あのアジア金融危機は何だったのか?
それを知ることができる有用な1冊。
ま、私は当時は高校生で何をそんなに騒いでるの?って思ってましたが・・・。
Posted by ブクログ
2007年秋頃(サブプライム問題発覚、安部首相辞任後)に書かれた本ですが、今日の金融危機へ至るメカニズムを見事に洞察しています。名著に推す人が多いのも頷けます。,後半の97年以降の世界経済安定化の内容が難解で読み返しましたが、非常に示唆に富みます。,,■ポイントとなるワード,・ナイトの不確実性,・エルスバーク・パラドックス,・中央銀行はゴールキーパー, バブル後こそ活躍の場ある。強気の企業家のように振舞わなければならない。,・97年の危機の本当の意味→中国の地位強化,・ペイルアウト、ペイルイン,・量的緩和=非不胎化介入, →円安にさせず、ドルの価値を上げる(少々わからない),・日本の不確実性は常に組織 → 住専問題、年金問題,・ブッシュは、経済面でも最低の大統領となってしまった。,・グリーンスパンの功罪(「罪」はやはり生じてしまいました…)
Posted by ブクログ
2016/04/19 読み終わった
全部読んだけど、金融の事は難しくてよく分からない!きっともっと勉強したり経験したら、この本の内容が分かるようになるだろう、その時にまた読もう。その時によく理解できたら、それも含めて全部読書体験。
Posted by ブクログ
世界的な貯蓄過剰状態にある。
不確実性を負う傾向。
中央銀行の最後の貸し手としての役割=バジェットルール=相手が望むだけ、高めの貸出金利をつけて、貸す。=自分がカネを持っていることを示すには、惜しみなく使う必要がある=最後の貸し手の役割を果たす
IMFへの批判=最後の貸し手にならない。
ナイトの不確実性=確率分布の描けるリスクとそれ以外の不確実性=真の不確実性
真の不確実性を前にすると臆病にも楽観的にもなれる。
楽観的になった部分に企業収益がある。
臆病の連鎖によって、バブルが弾ける
フリードマン、サベージは主観的確率を考えることで、真の不確実性はないと考えた。その結果、経済が予測可能と考えた。
エルスバーグ・パラドックス=反戦家 主観的確率分布を想定できないことを実験経済学によって確かめた。
ナイトの不確実性には、扱いが困難な事柄も含まれる。情報がまったく存在しない中での判断も含まれている。
アジア通貨危機などの危機は、マキシミン原理によって説明できる=最悪のシナリオの中の最善手を打つ。
流動性の枯渇=最後の貸し手が、バジェットルールに従って貸し出すことで解決する=IMFへの批判。
合成の誤謬=マーシャルによる論文
ドルの信用が失われないのは、国際通貨であり貯蓄過剰のため低インフレだから。
通貨危機への対処は、外貨準備をふんだんに持つこと。IMFはあてにならない。今や、IMFの資金量は雀の涙ほど。
民間による危機対策=ベイルイン=債権者が多すぎると不可能=LTCMの救済は、民間での拠出によったもの=ベイルイン
Posted by ブクログ
1997年のアジア通貨危機や日本の金融機関の倒産を「ナイトの不確実性」をキーワードに分析しています。
そして、話は、サブプライムローンにまで及びます(この本が書かれたのはリーマン前)。
納得のいく話が多く面白かったです。
特に、「ナイトの不確実性」についてよく理解できる良書だと思います。
Posted by ブクログ
ナイトの不確実性、経済というのは本来わからないものであり、客観的な予測の成り立つ領域は限られるという論理を元に、97年のアジア通過危機、日本の不良債権問題を解説した本。説明としては平易でわかりやすいが、この手のものを読むともっと詳しく突っ込んだ本当を読みたくなる。まあ最近忙しいのでちょっと置いときますが。
Posted by ブクログ
[ 内容 ]
アジア通貨危機が世界を襲い、日本の大手金融機関がバタバタと倒れた1997年。
金融危機が深化したこの年を境に、世界のマネーの流れが大きく変わった。
「不確実性」に支配された市場を、どうコントロールするか―。
1997年の動きを検証し、次なる「危機」への処方箋を探る。
[ 目次 ]
プロローグ 「1997年」に何が起こったのか
第1章 危機の内実―「質への逃避」を生んだ市場心理(日本の不良債権問題はなぜ深刻化したのか アジア危機を読み間違えたアメリカとIMF 絡み合う日本とアジア)
第2章 危機を読み解く―「ナイトの不確実性」というブラック・ホール(世界経済を理解する鍵 ナイトの原議論 異端視したシカゴ学派 エルスバーク登場 流動性の危機と「質への逃避」 グリーンスパンが世界を救った? ドルは大丈夫か)
第3章 危機の教訓―世界経済の安定化は可能か(民間による解決を模索する世界 政府の積極性は効果があるか)
エピローグ 歴史は繰り返す
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
Posted by ブクログ
97年に日本とアジアで起こった経済危機をナイトの不確実性の理論をベースに解説し、今日の経済学における信頼性喪失の危険性を鋭く指摘した一冊。直接はあまり言及されていないが、サブプライムローン問題も根っこは同じ問題との指摘は非常に示唆に富む。専門的な本ではあるものの、難しいところはほとんど無いので、現代経済に興味のある方は是非。
Posted by ブクログ
「ナイトの不確実性」についてを中心に、1997年の危機とその後についてが詳しく書かれていた。
若干難しく読みやすい本ではないけど、中身はしっかりしていて最後まで面白く読めた。
Posted by ブクログ
竹森俊平の新書版。1997年のタイから生まれた通貨危機、思わぬ通貨の暴落があったが、この「危機」について「返済能力危機」の欠如あるいは、「流動性の危機」と認識するかによって対処の仕方が変わってくるとして「論述」しているが、これでは、ドルペッグという固定相場制、しかも資本の移転を禁止しない固定相場制と変動相場制の「質」的な差という理論的な視点が全く欠如したマクロ認識となってしまう。竹森はあえてその理論的な「差」を無視しているのだろうが、それが何故なのかは筆者には解からない。
貯蓄と投資のバランスから米国経済から世界経済についての「資金」がありあまっているという展開は、竹森ならではのマクロ的類推であるにもかかわらず、相場制ついての論述が全く無いのは期待していただけに、肩透かしにあったような気分を持った。しかしながら「バジョット・ルール」や「ナイトの不確実性」、「質への逃避」、など 竹森の著作には、キーワードを読みながら具体的な直近におきている経済事象を理解させてくれる手腕がある。これだけでも読む価値はあることは間違いない。
「貯蓄が投資を上回ることで生まれる不況圧力
この立場は(マクロ)経済の総需要と総供給のバランスに注目する。こういうことだ。いま、一国において500兆円分の財・サービスの生産、つまり総供給が実現したとする。その結果、500兆円分の収入が同時に発生するが、それは賃金や利子の支払い、あるいは利潤の配当という形で家計に所得として還元される。家計には、所得を消費に回すか、それとも貯蓄に回すかの選択がある。消費に回せば、そのまま総供給に対する需要となる。しかし貯蓄に回せば、そのままでは総供給に対する需要につながらない。このため、総供給の全額が家計に所得として還元されたとすれば、総供給に対する総需要は貯蓄の分だけ不足する。
しかし、話はまだ終わりではない。家計の貯蓄は銀行預金の形で、あるいは証券の保有の形で、資本市場への資金供給となる。もし、家計による資金供給に見合うだけの企業による資金需要があり、その資金需要が企業による投資に直結するならば、総供給は消費と投資を合計した総需要と一致する。それで景気の過熱も下降も起こらない理想的な状態が達成される。しかし、かならずしもそうなるとは限らない。
一つの問題がある。それはケインズの考えでは、投資と貯蓄は独立の原理で決まることだ。
つまり、貯蓄の計画は家計がする。その際、家計はさほど金利など考慮しない。他方で、投資の計画は企業がする。企業も金利だけを考慮するわけではない。そのため両者が一致する必然
性はなく、いわんや金利の調整で両者をマッチさせることも不可能である。したがって、「計
画された投資」と「計画された貯蓄」とはかならずしも一致しない。
しかるに、「計画された貯蓄」が「計画された投資」を上回る状況では、経済は不況圧力に見舞われる。両者のギャップの分だけ、総需要(消費プラス投資)に結びつかない総供給が発生するからだ。といっても生産したものは処分せざるを得ないから、企業はそれを在庫の積み増し(在庫投資)で処分する。だから在庫投資までを総需要に勘定すれば、やはり総需要と総供給の一致は成り立つ。しかし在庫の積み増しは企業収益を庄迫するから、企業は早晩、生産計画を縮小する。その結果、不況圧力が生まれる。
以上は、国際取引をしない一国を念頭において説明したが、同じ原理は世界経済全体についてもそのまま当てはまる。重要なのは、世界全体として「貯蓄」が「投資」を上回る傾向があれば不況圧力を生む原因になるという点だ。しかるに、97年から98年にかけての極東での金融危機は、まさにそのような傾向を発生させた。なぜかといえば、日本や東アジアの多くの国々の投資行動が、この事件をきっかけに慎重になったからだ。つまり、これらの国は、「不確実性のもとでは人々は最悪のシナリオを考えて行動する」というエルスバークの原理通りに行動した。投資を減らして同時に貯蓄を増やしたのである。
経済危機で企業心理が様変わりすでに説明したように、どんなビジネスも「不確実性」を避けられないというのが、ナイトの洞察である。将来における生産の増加や効率化を見込んでの投資は、とくに将来の 「不確実性」と切っても切れない関係にある。その 「不確実性」 にしり込みをしないような人間が、もともと企業家という職業を選ぶ。しかし、さすがの彼らでも、それまでの 「楽観的な予測」 の誤りがはっきりと示されれば、考えを変えざるを得ない。東アジアでいえば、97年と98年の2年間は甘い見通しのつけが突き付けられた時期であった。アジアの企業家は自信喪失に陥り、以降は、むしろ「最悪のシナリオ」を想定してビジネスの計画を立てる。その影響を受けたのが投資である。投資とはそもそも将来を見据えて行うものだが、将来の見方が「楽観的」から「悲観的」 に変わったため、投資は大幅に削られたのである。
97年から98年にかけて危機を経験した後に、企業が慎重な態度に転じたことは投資の動きに如実に表れている。とくに東アジア通貨危機経験国の投資には、はっきりとした特徴がある。
第一の特徴は、通貨危機直後の急激な投資率の落ち込みだ。これ自体は、国際資本の逆流やIMFによる緊縮プログラムの押し付け、倒産や解雇の激増といった要因を考えれば当然と言えるだろう。しかし、第二の特徴として挙げられるのは、インドネシアを除き、これらの国の経済が軍に?字型回復を遂げてからも今日にいたるまで、投資率が軍以前の水準には回復しなかったことである。97年、98年の2年間の経済危機が契磯となって、東アジアの企業の心理が変わり、「ナイトの不確実性」を考慮してマキシミン原理に近い行動を取るようになった。
最近ようやく変化が見られるものの、日本でもひところは「企業の金余り」という言葉をよく聞いた。実際、日本の「貯蓄」は依然として高水準で、国内投資に使い切れなかった部分を海外に資本輸出するという傾向がますます顕著になっているが、最近はその貯蓄は家計ではなく、おもに企業から来ている。パブ〜の頃とは大きな違いである。パブ〜の頃の企業の投資意欲はきわめて旺盛で、国内市場から資本をじゃんじゃん取り入れ、家計貯蓄がその需要を満たしていた。ところが最近は高齢化の影響からか、家計貯蓄は急速に減少する妄で、金余りの状態の企業の貯蓄がそれをうわまわって増加している。だから、結果的には海外への資本輸出が増加している。
もちろん企業貯蓄の増加の背後にも、積極から消極への企業のビジネス観の変化がある。つまり、十分収益を上げても、企業は以前のようにそれをゴー・サインと受け取り、資金を調達してまで事業を拡大することをしなくなった。むしろ、いまの時代に現金ほど頼りになるものはないから、それをしっかりと握っておこうとする。上手に事業を拡張して収益の悪化をもたらす危険を冒すよりも、スリムな状態で高収益を維持しょうと考える。このような手堅いビジネス観への変化には、97年から98年にかけての「貸し渋り」の影響が考えられる。「貸し渋り」により辛酸を舐めて以来、企業は現金が必要な時にいつでも入手できるわけではないことを悟った。「流動性の危機」が企業の流動性選好を高めるという傾向が、通貨危機を経験した
東アジアだけでなく日本でも見られ、しかもその影響が長期に及んでいるわけである。
全世界への波及
企業の行動パターンの変化には、この他にも、1997年以降の外資歪融機関の進出や株
主の立場強化策の影響もあるかもしれない。危機の収拾に、日本政府も東アジアの政府も、外資系金融機関の進出を支援した。外資の進出が「改革」の姿勢を示すことに役立つと考えたからだ。株主保護の政策が進められたのも株価低迷に対する特効薬という意味がある。結果的には、投資家の視点から企業経営を見る習慣が、日本でも東アジアでも徐々に浸透していった。
投資家の観点からすれば、これまでの日本や東アジアの企業はあまりにも収益性を無視して、規模拡大に突っ走っていた。いまやそれが変わり、これまでの拡大路線に歯止めが掛かった。
そういう見方ができるわけだ。しかし、これは決定的な要因ではないだろう。なぜなら企業が投資に慎重になる箕、企業貯蓄が増加するという現象は、アングロサクソンの国も含めて、ほぼ全世界的に見られるからである。
(中略)
住宅「バブル」で景気回復
いずれにしても、「消極的」な態度が経済全体に浸透して、その結果、経済活動の萎縮が起
こっている時には、政府か中央銀行か、誰か「積極的」な行動を取るりリーフ役が現れなくては不況の悪循環が生じる。それがケインズ主義だけでなく、現代のマクロ経済学の根底にある思想だ。グリーンスパン前連銀議長が2001年以降に取った金融媛和策は、企業心理が「消極的」になることによって全世界的な経済の萎縮が発生する兆候が見えた段階での、ことさら「積極的」な行動という、まさにリリーフの役割を担っていた。
ともかく、議長が01年に1年間で政策金利を5パーセント近くも引き下げる類例のない強力な金融緩和策を実施した結果、家計の住宅投資と消費が盛り上がって、ものの見事に景気後退は短期で収束する。住宅投資と消費が盛りあがる様子はこうだった。もともと金利が下がると、住宅ローンを借り換えるのがアメリカの家計の習性である。しかし、この時は低金利による住宅投資の増加で「バブル」を思わせるほど住宅価格が上昇したので、家計はさらに積極的な行動を取る。つまり、住宅ローンの担保となる住宅の評価額が上昇したのを良いことに、以前より「プラスアルファ」だけ余計に借りたのである。もちろん、それで債務残高は増えるが、金利が低下しているので月々の支払いは以前と同じに維持できる。だとすれば、「プラスアルファ」は一種のボーナスである。そう見立てて、家計は「プラスアルファ」を消費に使った。
「バブルを思わせるほどの住宅価格の上昇」は、アメリカを起点とした全世界的な景気回復の鍵であった。アメリカにおける住宅価格の上昇ははたしてバブルだったのかという問題は、いまもよく議論されている。いずれにしても、この時、グリーンスパン議長は、住宅バブルという副作用の危険を顧みず金融緩和を貫徹した。バブル崩壊後、1992年からの景気の崩れを見てからの日本の金融緩和策が、バブル再発の恐れから不十分に終わったのとは対照的であるが、思い切った行動を取れたのは、議長がバブルに対する金融政策について長年考えた末、明確な結論を持っていたためである。
「ITバブル」の発生を警告して、彼が96年に「非合理な熱狂」という言葉を使ったことは有名である。しかし、この言葉を使ってから、議長はバブル予防のための金融引き締めをしなかった。むしろ、それはするべきではないという方向に考えが傾いていった。前例のないIT革命が、前例のない「株高(株価利益率)」を正当化するものなのか。これは所詮、「ナイトの不確実性」であり、客観的な基準で評価はできない。投資家は間違っているかもしれないし、間違っていないかもしれない。では、どうしたら良いのか。議長はこの問題に結論を下すことはやめた。99年の議会における証言で、それをはっきり述べている。」
Posted by ブクログ
小宮さんの本に紹介されていて読破。
知識があれば、もっと深く読めただろう1冊。
古本屋で見つけたときはうれしかったなぁ。
「ナイトの不確実性」のところは、いま読んでいる経済の入門系を一通り読んでからまた読み返したい。
Posted by ブクログ
●未読
◎「世界金融崩壊七つの罪」p.136で紹介。
【アメリカの経済学者ミルトン・フリードマン(2006.11.16死去)は師匠であるフランク・ナイトの「リスクには計算できる物と出来ない物の2種がある」という説を批判、「リスクは数値化できる」という立場をとっている。】