あらすじ
奥多摩の山村、媛首(ひめかみ)村。淡首(あおくび)様や首無(くびなし)の化物など、古くから怪異の伝承が色濃き地である。3つに分かれた旧家、秘守(ひがみ)一族、その一守(いちがみ)家の双児の十三夜参りの日から惨劇は始まった。戦中戦後に跨る首無し殺人の謎。驚愕のどんでん返し。本格ミステリとホラーの魅力が鮮やかに迫る「刀城言耶(とうじょうげんや)」シリーズ傑作長編。(講談社文庫)
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Posted by ブクログ
久しぶりに5点をつけたいと思った作品。
刀城言耶シリーズはミステリーでありながらホラー要素が最後まで効果を発揮する好みの作品ばかりなのだが、本作はホラー寄りのようにミスリードしながら本格的なミステリーの解が用意されている秀作。
素晴らしい点は、なんと言っても、最後の100ページの種明かしに尽きる。
この終盤の推理の部分は、私の全然ダメな予想とほぼ同じ内容の”読者からの投稿”から始まり、ようやくにして登場した刀城言耶が古里鞠子が犯人とする多重入れ替わりの推理を展開する。この首無し殺人を複数人の入れ替わりによるとする発想は驚かされ、完全に予想外の展開だった。
作中で「首無し殺人の目的は被害者と加害者の入れ替わりだ」と敢えて述べているのに、それを上回ってくるのが心憎い。
それだけでも充分に面白かったのだが、その後に幾多斧高が犯人とする別の解釈(それも無理がない)を持ち出し、それをあっさり棄却する(;正解は古里鞠子犯人説の方)という、作者の力量を見せつけられるような、読者を弄んでいるような展開に楽しい驚きを覚えた。
とどめは、作中のある時点から著者の高屋敷妙子と古里鞠子が入れ替わっているというもの。入れ替わりがバレた時点から明らかに文体が変わることも背筋がゾクッとするような感触を覚え、作中にもあるように”名前を言っていない”というミスリードの仕方にも感心する。
最後には刀城言耶すら本人であるか定かではないという徹底的に入れ替わりに掛けた気色悪さを残し、
エピローグ部分でもその余韻を残し「(本書の)編者の刀城言耶はだれなんだ?どうやって原稿を手に入れた?アレが本人でもナニカでも、気味の悪い感触が残る・・」という、ホラーとしてのスッキリとしない(でもイヤじゃない、薄ら寒さのある)後味を残している。
この最後まで残るホラーの感触と、驚きとスッキリさを持ったミステリー部の共存は他の作品では味わったことのない、むしろ味わいたくても味わえなかった部分であり、私の真に欲していた部分でもあった。
論理を持ったホラー、論理を持った理不尽こそが我が好みなのだろう。
Posted by ブクログ
115ページ時点の考察。
殺されたのは鈴江。
344ページ時点の考察。
蔵の中に隠されていたのは長寿郎で、外で長寿郎として生活していたのは妃女子。2番目の死体は長寿郎で、長寿郎として生活していた妃女子と顔が違うことを誤魔化すために首を切断し、少し時間をおいてから首を発見させた。というのはどうだろう。
390ページ時点の感想。
意外な結末だった。江川蘭子(偽物)の鞄の中くらい警察が絶対に調べてると思ったからそこに首を入れていたという先は消えたと思っていた。怪しい人物と思われていたのに、まさか鞄の中すら見ていないとは。
最後まで読んだ感想。
よく最後の最後にここまでひねりを効かせるなと、本当に驚いた。一部は当てられても、この結末の全てを当てることはできないだろう。何か違和感を感じながら、それがなぜかは良くわからないというのが解決編の初めから最後までに続いた。
Posted by ブクログ
正直幕間があるせいで没入感がなく退屈でした。しかし、最後の50ページですさまじい伏線回収、そして最後の20ページでもう一度度肝を抜かれる展開があったのでそれまでの所在なげにしていたのが一気に目が覚めました。最後を見るためだけに本書を読む価値がこれにはあります。
Posted by ブクログ
複雑に絡み合う事件を読んでいくのは骨が折れるが、ラストの謎解き部分がやはり面白かった。読みながらなんとなく予想していた推理は悉く外れていた。
人物の入れ替わりがここまで徹底して行われていたなんて想像もしていなかった!でもそうすると全ての辻褄が合うので納得。この一族の事情と、毬子の事情、斧高の事情を合わせると、こんなにも不可解で怪異めいた犯罪になってしまうのだ。
シリーズなのに刀城言耶がほぼ登場しないパターンなんてあるんだという驚きもあるし、そういう思い込みによって綺麗に騙された。最後の数十ページは見事などんでん返しだった。小説だからこその楽しみ方ができたと思う。
Posted by ブクログ
厭魅、凶鳥、山魔と読んだのですが、これはさすがにみぬけなかった!そして気持ちよく騙された。二転三転する推理パートも色々と提示したというよりも真実の炙り出しに一役買っていました。で、最後の終わり方もぞぞぞっとする薄気味悪い話で背筋が凍りました。
Posted by ブクログ
2008年の本格ミステリベスト10(国内編)第2位など,ミステリランキングで上位を総なめし,世間の評価も非常に高い作品。こういった世間の評価が非常に高い作品は,読む前にハードルが上がり過ぎてしまい,面白くてもそれほど満足度が高くならないのが難点
三津田信三の作品は,やや文章が読みにくい作品が多い。文章そのものが読みにくい上に,構成も様々な視点が入り乱れるため,更に読みにくくなる。この作品は,三津田信三の作品の中では,比較的読みやすい作品に感じた。
大きな構成としては,姫之森妙元という作家が,本名の高屋敷妙子として,かつて経験した姫首村を舞台とした2つの殺人事件について,迷宮草子という怪奇幻想系の同人誌に小説を連載しているという設定となっている。
4つの幕間と第1章から第24章までがあり,第1章から第24章までが,それぞれ毎月の連載という設定。「はじめに」の最後では「一連の事件の真犯人が私自身ではないかと疑われるのは,完全な徒労であり間違いでありますと,老婆心ながら最初にお知らせします。」と書かれている。これは伏線となっており,この「はじめに」を含む第1章から第23章の途中まで。そこから先は,事件の真犯人である古里毬子が書いているという構成になっている。
さらに,序文では刀城言耶が姫之森妙元が迷宮草子に連載していた原稿をもとに,その後加筆された遺稿などを整理したものとある。一部は作中の江川蘭子氏(作中の江川蘭子=古里毬子)が執筆していると真相を明らかにしている。こういった構成そのものに伏線を仕込んでいるのが三津田信三作品の特徴であり,こういった部分も高く評価されている。個人的にも好きな志向なのだが,やや過大評価されているようにも感じる。
この作品では,時代を隔てて,大きく2つの殺人事件が起こる。一つ目の殺人事件は,媛首村の秘守家の十三夜参りでの殺人事件。媛首家の女児として育てられていた「妃女子」が密室状態の媛首神堂から消えて,井戸から全裸の死体で発見されるという事件
二つ目の殺人事件は,媛首家の婚舎の集いで,「古里鞠子」が首無し死体が見つかり,更に長寿郎と二守紘弐が殺害されるというもの。この二つの事件とその周辺にはいくつもの謎がある。
この2つの事件とその周辺にある謎は,たった一つのある事実に気付けば綺麗に解けるという。その事実とは,生まれてきた子どもの性別を逆に告げたという事実。妃女子として育てられていたのが男子,長寿郎として育てられたのが女子だった。妃女子は一守家の女子にしては病身だったなど,この事実についての伏線も数々仕込まれている。妃女子を殺害したのは二守紘弐。紘弐は一守家の跡取りの座に兄の紘一氏を就かせ,将来,その弟である自分が甘い汁を吸うため。長寿郎が,性別の入れ替わりの事実を隠すためにとった行動により,いくつもの謎が生じてしまっていた。
2つ目の婚舎の集いにまつわる連続殺人事件の犯人は古里鞠子。婚舎の集いで殺害されたのは長寿郎だった。長寿郎が古里鞠子に殺害されていた。そして本当は男性だった江川蘭子を殺害し,首無し死体として発見させ,長寿郎に見せかける。そして古里鞠子は江川蘭子に成り代わった。紘弐は江川蘭子に成りすました古里鞠子を脅迫したために殺害された。
ミステリとしての仕掛けはこれで十分だが,最後に真犯人が誰かという部分でどんでん返しを繰り返す。
江川蘭子になりすました古里鞠子が犯人という推理をひっくり返し,幾多斧孝が犯人だという推理を展開。更にそれをひっくり返し,真犯人は,高屋敷妙子に成りすましていた古里鞠子だとする。
最後は,最後に推理していたのは刀城言耶ではなく,幾多斧孝か,又は謎の怪奇だと思わせ,真相を隠したまま終わる。エピローグでは高屋敷妙子と古里鞠子(江川蘭子)と思われる死体が発見されたこと,そして幾守寿太郎という人物が第三回新人賞を取っていることが分かる。
かなりよくできたミステリではある。妃女子と長寿郎の性別の入れ替わりという1点を軸としたシンプルな構成。かなりの伏線がこの1点のために様々な伏線が仕込まれている。しかし,長い。ほかの作品に比べると少しマシではあるが,やはり三津田信三の文章は読みにくい。最後のもやっとした終わり方も,スパッと終わらせた方がインパクトやサプライズを増せたのではないかと
思う。妃女子と長寿郎の性別の入れ替わりという1点を軸としたプロットを生かすためには,もっとシンプルな構成にして,最後はスパッと終わらせた方がよかったのではないかと思う。とはいえ,これは十分面白かった。★4で。
○ サプライズ ★★★☆☆
妃女子と長寿郎の性別の入れ替わりのトリックは,それなりに驚ける。しかし,そもそもサプライズを重視していない構成となっている。サプライズを考えるなら古里鞠子=江川蘭子が高屋敷妙子に成りすましていたという終わり方で十分だったと思う。それ以上のもやっとした部分がやや蛇足
○ 熱中度 ★★☆☆☆
三津田信三の文章は読みにくい。頑張って最後まで読んだら,それなりの満足感を得られるという雰囲気。もっと短く,シンプルで読みやすい構成にしていれば,傑作になり得る。しかし,この読みにくい文体が三津田信三の個性なので仕方ないだろう。
○ インパクト ★★★★☆
性別入れ替わりのトリック,古里鞠子の二重の入れ替わり(長寿郎→江川蘭子への入れ替わり),更に高屋敷妙子に成りすまそうとする展開などインパクトはある。
○ キャラクター ★★★☆☆
キャラクターの個性はそれほどではないが,人物はそれなりに書けていると思う。キャラクターを楽しむ小説ではなく,スジを楽しむ小説
○ 読後感 ★★☆☆☆
最後の最後で,ミステリなのかホラーなのか分からないモヤっとした終わらせ方。読後感はやや悪め
Posted by ブクログ
すごい大作、傑作。
切ない余韻も残る。
再読しました。
因習村の跡取り問題でこじれて…みたいなところで起こる惨劇、作中作スタイル。
「首のない死体」がいくつも出てくる。
どうやってこの広げた風呂敷を畳むんだろうと思ったら、「たった一つの要素」でちりばめられた謎が全部溶けてしまう。すごい!
謎ときターンの気持ちよさといったら。
読み終わってすぐ再読しました。
あれもこれも伏線だった。
じっくり読み返すとお話の全貌がまったく違うものに見えてくる。スルメのような本です。
いいから最後まで読むのです!
Posted by ブクログ
ホラーってオススメされたけどホラーじゃなくてちゃんとミステリーだった。主人は犯人じゃないですよ、と念押しされながら読み進め、途中から書き手の変わったその人が犯人であるなんてアリですか!?盲点ですね。一回やったら終わりのなんじゃこりゃネタがミステリーはありますが、これもまたそのひとつでした。メタ視点と言いますか、作者周りの話をやけにするなぁを伏線だと気づいてしまいたかったぜ…。
双子の入れ違いのあとの一体誰が最初に死んだのか、のところはえ!?結局誰が死んだん!?!と何回も読み直してしまいましたよ。しかもえーそういうことぉ…?となんとなく理解して進めるとまぁ犯人は別の人なんですけどね!を2回ほどやられてズッコケました。でも女の人でもやる気になれば斧で首を切断できるんですかね。わりと短時間で…。やった事ないので分かりませんが、普段肉体労働してなさそうな女性が何度も繰り返してやるにはすげ〜よな。うーん淡首様、後押しありがとう!ってことにしておこう?それともやっぱりよきたかくんが手伝ってたってことぉ?ここらへんイマイチよくわかんないんですよね。
それにしても、ミステリの最初に人物名簿書かれてると身構えません?そんなに名前覚えられませんけど?ってなりますね。こりゃぁ大変なミステリーを読み始めてしまったぞぉ…と思いますね。