あらすじ
「恋は世界でいちばん美しい病気である。治療法はない」女子高生が一番いやらしいと断言できる訳について。結婚について。ご老人のセックス。いやらしいパパになる条件。清潔と身だしなみについて。親の心について。などなど。恋愛の至高の一瞬を封印して退屈な日常を生きる「恋愛至上主義者」中島らもの怒濤のエッセイ集。
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Posted by ブクログ
中島らもハマってます笑
「その日の天使」
…暗い気持ちになって、冗談にでも、"今、自殺したら"などと考えているときに、とんでもない知人から電話がかかってくる、あるいは、ふと開いた画集か何かの一葉の絵によって救われるようなことが。それは、その日の天使なのである。
恋づかれ
結婚してからいくつも恋をした。…「不倫」という実にいやな言葉があるが、指をさされて「不倫!!」といわれればたしかに不倫以外の何物でもないのだから、一言もない。
一言もないけれど、一言だけ言わせてもらえれば、そういうことを言う人は、結婚というシステムや、モラルという、種族にとっての安全バルブの味方であって、決して斬れば血の出る人間の味方ではないような気がする。
一言もないけれど、もう一言だけ言わせてもらえれば、恋におちてしまうのは僕の責任ではないのだ。
そいつはいつも、まったく何の予兆もなくいきなりやってくる。
チャイムでも鳴らしてくれれば逃げる手もあるのだが、散歩に行こうとドアをあけると、いきなりそこにヌッと立っているのだ。アッと思ったときはもう遅い。
自分勝手だと思う一方で、わかる気持ちもあるからどうしようもない。
稲垣足穂は、かつて恋愛と結婚のことについて、
「結婚するということは、恋愛という『詩』から日常という『散文』へと下っていくことです」と述べている。…
極端に言えば、恋愛というのは一瞬のものでしかないのかもしれない。
唇と唇が初めて触れあう至高の一瞬、そこですべてが完結してしまい、それ以外は日常という散文への地獄下りなのだ。
ただし、その一瞬は永遠を孕んでいる。
その一瞬は、通常の時間軸に対して垂直に屹立していて、その無限の拡がりの中に、この世とは別の宇宙がまた一つ存在しているのだ。
「昨日テキサスで始まった恋が、四千年前のクレタ島で終わる」
というのはトマス・ウルフの言葉だけれど、今夜、街のどこかで向かい合っている唇と唇の間の何センチかの中に、永遠の時間と、無限の距離と、そして無数の激痛をともなう夜々がうずくまっているだろう。
…
闇の中で、「想い」だけが僕の姿を照らしてくれているような気がする。それ以外のときは僕は一個の闇であり、一個の不在でしかない。
その辺、恋は灯台にも似ているようだ。
恋するΩ病
「好きだったら、どうしてわたしを大事にしないの?わたしと、わたしの生活と、わたしのしたいことを踏みつぶしてまわるの?どうして好かれるようにしないの?」
…
僕らはただの水の袋に過ぎない。美しい水と濁った水の。小さな針がひとつあれば僕らは混ざりあうことができる。僕はとても小さな針をひとつ持っている。
Q&Aセッションの
お互いの無知で傷つけあって、それでもお互いを許しあって、いやし合いながら苛酷な時の流れにいっしょにたちむかっていくのが愛というもので、無傷なツルンとした愛などは「愛」の名に値しないと思います。
は痺れました。
あとがき
…だからこそたまさかに耳にする一種神話的な恋愛談に我々は心をひかれるのだ。それは自分の中のどこか遠いところにある天上性への淡いデジャビューのようなものかもしれない。
夜々に鳴く犬の遠いほえ声に似ている。
あれは、
「時よ止まれ」
と鳴いているのだ。
Posted by ブクログ
「結婚するということは、恋愛という『詩』から日常という『散文』へと下っていくことです」(稲垣足穂)
「唇と唇が初めて触れあう至高の一瞬、そこですべてが完結してしまい、それ以外は日常という散文への地獄下りなのだ。」
なるほどねーと思った