【感想・ネタバレ】カポネ 下のレビュー

あらすじ

保険調査員として鬱々と日々を送っていたエリオット・ネスに、チャンスが訪れた。義兄の伝手で、司法省禁酒局の特別捜査官に採用されたのだ。折しも、アル・カポネがライバルを一掃した「聖ヴァレンタインデイの大虐殺」を受けて、FBIがカポネ逮捕に動き始めた矢先だった。改造ショットガンを片手にカポネに迫るネス。果たして攻防の行方は……? 西洋歴史小説の雄が、暗黒街の帝王を活写した傑作ピカレスク!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

上巻のレビューで「作者の主義主張がやかましくない」点を評価していたが、この下巻ではそれこそやかましいくらいに作者の声が聞こえてくる。

下巻では司法省禁酒局の特別捜査官、エリオット・ネスの視点で物語が進んでいく。上巻とは対照的な視点ということになる。そしてそこで取り上げられるのは、「正義とはなにか」「悪とはなにか」「アメリカン・ドリームとはなにか」である。

それらの問いには答えを示しているのだけど、ここでは伏せておく。

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2013年02月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

本書は、2部構成となっています。第1部はアル・カポネの立志から栄華をカポネの視点で描く。取るに足らない(しかし才はある)貧民街のイタリア系移民が、如何にして、不俱戴天の仇であるアイルランド系移民と闘争し、裏社会に身を投じそして頂点を極めるに至ったか。そして、多くの映画、劇、活字のイメージと異なるありのまま"人間"としての彼が、人々に好まれ羨望の眼差しを向けられるように至ったかが綴られています。

"イタリア人の誼でな" (引用:『カポネ 上』角川文庫、p.149)
"なあ、マーク、この俺も言わせてもらうぜ。「俺のために、いつか力になってくれとな」おまえの父ちゃんが力になってくれたように、おまえも俺を助けてくれとな" (引用:『カポネ 上』角川文庫、p.152)
極悪非道なイメージの帝王は、その実家族や仲間、地域市民の味方だった。敵対するオドンネル・ファミリーが、アル・カポネ属するトリオ・ファミリー傘下のソーダ・パーラー(禁酒法制下であるためソーダと冠しているが、酒を扱うバーである)を蜂の巣にしました。上記は様子を見に来たアル・カポネがその惨状を見、怪我をした店主の息子であるマークとの会話での台詞です。店の修理や治療費をアル・カポネが全額支払うと約束し、マークはさすがに申し訳ないからと断るのですが、アル・カポネは、イタリア移民は助け合うべきだという信念から、半ば強引に彼を説得するというシーン。アル・カポネの大人物ぶりがよくわかる印象的なシーンだなあと思います。
※このマークという人物、その後あるキーポイントで現れるが、ここでは割愛。

第2部はアル・カポネの向こうを張った、禁酒法取り締まり連邦捜査官であるエリオット・ネスの視点で彼の生涯を描いています。世人の言う何物にも屈しない"アンタッチャブル"の像から程遠い傲岸不遜なエリオット・ネスというもう一人の"人間"が、帝王を誰より憎み、また崇拝する複雑な心境の中で、彼と如何にして対峙するのでしょうか。

エリオット・ネスという人物、これがまた曲者で、幼い頃から一貫してわがまま放題。自分を中心に世界が回っているかのような傍若無人っぷりです。有名になりたい、自分は尊敬されるべきだ、、、etc。有能ではあるようなのですが、その性格が災いすることが多い。物語終盤で彼が立ち寄るバーのバーテンダーの台詞ですが、彼は、"せっかくの幸運を自分で捨てているところがあり"(引用:『カポネ 下』角川文庫、p.253)ます。また、次の台詞もちゃんと聞いていれば、もう少しマシになっていたのではないかと思うほど。
"どんな仕事も楽しいばかりじゃありませんからね。つらいことも我慢して、それでも真面目に働いてこそ、ようやく認めてもらえるんです"(引用:『カポネ 下』角川文庫、p.254)

【総評】
まさか佐藤賢一作品で思わず涙が零れるなんてことは想定していませんでした。これは決して彼の作品がつまらない、という意味ではありません。私は、『ジャガーになった男』『傭兵ピエール』『カエサルを撃て』のような、血沸き肉躍る英雄譚が佐藤賢一の唯一無二の得意技だと考えていました。しかし、この傑作をエピローグまで読むに至り、"人間の泥臭さをテーマにした歴史小説"であるという点は一貫しているものの、それ以上に人間の繊細な心情を表現していると思います。その対象が理解しがたい悪人や変人であっても。

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2020年05月24日

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