あらすじ
いかに相手国の人びとの「心と精神を勝ち取る」か-。政府要人同士の伝統的外交と異なり、相手国世論に直接働きかけるパブリック・ディプロマシー。世界各地の反米主義へのアメリカの対抗策として急速に広まったこの文化戦略は、対外広報、人物交流、国際放送など多彩であり、日本でも「クール・ジャパン」といった形で取り入れられてきた。欧米中韓が積極展開する中、文化と外交の融合戦略の実態と思想を明らかにする。
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パブリック・ディプロマシー(文化・広報外交)について書かれた本で、経済・軍事力といったハードパワーと対比される文化・国際交流のソフトパワーについて、各国の事例・日本と外国との対比を交えながら解説した良書。
そもそも文化・広報外交やパブリック・ディプロマシーという言葉自体に一般のなじみは薄く、British Councilを知っている人も日本に国際交流基金という日本の文化・国際交流を担う組織が存在していることはあまり認知されいないように思う。
中国が孔子学院という名で日本の大学の中に中国語教育センターを増やしていることへの言及もあったが、私自身中国語を勉強しようと思ったときに検討していた学校でもあり、かなり身近なところにもこういった各国の活動は浸透しているんだな、と思いました。
短期的な成果をもとめるのではなく、文化の交流とともに長期的な実を結ぶことを目標に活動していくには、やはり営利目的や短期的な成果を必要とする民間企業でカバーしきれない部分を補う役割があるのではないだろうか。民間にできることは民間にというのが昨今の時勢ではあるが、各国も国をあげてのパブリック・ディプロマシーへの注力と公的組織のネットワークの広がりを見ると、日本も再びこの分野についてどうあるべきか、と考えざるをえない。
クールジャパンに代表されるような民が主導になるべきところや、一方で公が広げていくべき分野はどうかといったような様々な文化・広報外交の議論の前提となる背景・基礎知識を勉強するには最適の書です。
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文化・外交ということを考えた時の、いかに自国の道義性や存在感を示し、国際世論の「心と精神を勝ち取る」ことの重要性を認識した。
日本はここが圧倒的に弱いことも痛感。
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日本のパブリックディプロマシーに投ずる予算は先進国の中で圧倒的に低い(国際交流基金の展開力も含め)。にも関わらず、日本への関心を高めるなど漠然とした目標がずっと掲げられている。もっとターゲットを絞り、具体的な目標にフォーカスしたアプローチこそ必要。また、メタ的な要素としては自国に都合の良いところのみ移さず、自分の国のオープンさ・器の大きさを示す方がよっぽど効果がある。結局、相手の心と精神を掴むことが重要で、伝統的外交とは異なり、相手国国民に直接アプローチできるこの分野の可能性は日に日に高い。日本文化論の焼き直し(自然との共生・伝統と最新の融合など)の点に対する批判はとても納得しました(笑)
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ソフトパワーを活用した外交、パブリック・ディプロマシー(PD)について書いてある本。2011年発行なので最近の情勢が反映されている。特に東日本大震災と中国との関係の変化は大きい。
大まかな流れはPDの今、歴史、具体例、批判、日本のPD、となっている。ソフト・パワーはジョセフ・ナイが提唱したものとして知っていたがこの本はアメリカだけでなく世界各国でソフト・パワーがどのように機能しているのかが解説されている。
重要なことは、外交という点からすれば効果が無ければ打ち切られてしまうのもやむを得ないが、PDは確かに効果が目に見えにくいが効果は確かにあるということだ。狭い国益に縛られればかえって国益を損ねかねない。日本は特に中国との関係改善のためにPDを活用したい。しかし現状はPDの規模は驚くほど小さく、まずはPDの重要性を認識することが必要である。
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パブリックディプロマシーの意義について、他国の例も挙げながら非常にわかり易く説明。ナイのソフトパワーを如何に実務的に国策として展開していくか、まさに今の日本に必要とされている。
縦割り的(国内、国外)に取り組むことで、その効果は望まずにどんどん他国に流されるのでなく、マンガやAKB、相撲などフルに活用して、親日の波が市民レベルで拡がるきっかけ作りを国としても取り組むことを期待したい。
ODAなども、貧困削減なども大事であるが、ある程度の新興国に対しては、パブリックディプロマシーを事業計画に取り入れながら進めることも必要ではないかと思う。
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「クールジャパン」を活用することで達成しようとしている政策目標は極めて曖昧で、働きかける対象も不明瞭。省エネ・リサイクルの取組み、環境や公衆衛生への取組み、復興・平和への取組みなどは、「もう一つのクールジャパン」を十分形成しうる。
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本書はソフトパワー(文化、サブカルチャー)の発信が外交や国家のイメージに与える影響力について、日本、欧米、中国等の成功例、失敗例から、その価値について考察したもの。
パブリック・ディプロマシー(文化外交)、プロパガンダの歴史や概念の説明もあり、文化発信の基本を理解できる良書。国際マーケティング等、海外展開において文化の役割や利用方法を学ぶ入口としても有用だろう。
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パブリックディプローマシーとは、相手国の政府ではなく相手国の国民に働きかけて、国際社会における自国の存在感やイメージを向上させ、自国についての理解を高めて行く外交政策である。
しかし、ソフトパワーやクールジャパンといった掛け声は手垢まみれで、明確なターゲットの不在、情報の操作可能性への過信など、戦略の不在と過剰を問題視する。
むしろ自国の負の現実も含めて事実を伝える自己批判力のある発信が国際的発信力をもたらす、透明性や対話力が示す懐の深さが対外政策を円滑にする、という著者の意見に耳を傾けたい。
実際に、スイスがマネー・ロンダリングにより悪質な組織の運営を間接的に支援しているとのグローバル社会の批評に対処した例や、東日本大震災でのトモダチ作戦などの好例がある一方で、ベトナム戦争時の米国への批判をかわそうとして失敗したパブリック・ディプローマシーの例、が紹介されている。
外交は一部のエリートではなく、市民社会レベルでの相互理解の努力が必要であること。そして、ハードパワー、ソフトパワーの両面での外交努力が必要であることを学ばせてくれる。
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政府同士の外交ではなく、相手国の世論に働きかけるパブリック・ディプロマシー。現在のいわゆる韓流や、戦後の米国の対日政策が思い浮かぶ。マーケットの小さい韓国が外に向かざるを得ないのは国家の方針としてしょうがないが、ちょっと前の男優さんたちや女性グループの露出の多さで日本における韓国の好感度は全般的に上がっているように思える。(同時に反発もあるが)
日本を占領した米国も、その政策によって瞬く間に敵からあこがれの対象になってしまった。
「パブリック・ディプロマシー」という言葉自体は、意味合いこそ現在と違うものの、19世紀半ばには確認できて、その実践例ははるか昔のアレクサンドロス大王の対ペルシア人政策にまで遡るとのこと。
クール・ジャパンという言葉を聞くようになって久しい。しかし、そのポップカルチャーが日本発の文化と認知されていないところも多いようである。
国のバックアップを呼びかけたいところだが、ここがソフトパワー外交の難しいところで、政府の関与が露骨になるとその魅力が低減されてしまうという。著者は、ソフトパワーの原動力はあくまで民だとし、政府の関与は知的財産権の整備など最低限にすべきとしている。
「「美人コンテスト」ではない。好感度やブランドばかり気にするのでは、世論調査の浮き沈みのみを杞憂する政治家と何ら変わるところがない。むしろ、必要とあれば「美人」の概念そのものを変えてゆくこと、そして、そのために人びとの「心と精神を勝ち取る」こと。それがパブリック・ディプロマシーの要諦に他ならない」(193ページ)
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政府要人同士の伝統的外交と異なり、相手国世論に直接働きかけ、相手国国民の「心と精神を勝ち取る」ためのパブリック・ディプロマシーについて、その中国や欧米による最前線から始まり、その起源と今日に至るまでの概念的変遷、代表的な手法と事例、注目すべき近年の動向、それに対する懐疑や批判、そして、日本におけるパブリック・ディプロマシーの歴史と課題まで、幅広く論じている。パブリック・ディプロマシーについて考えるには最も適した一冊だと思われる。
ただ、いろいろな要素が詰め込まれているので、通読した後、「で、パブリック・ディプロマシーとは何だったか」と思い返そうとしても、あまり浮かんでこなかった。パブリック・ディプロマシーというのは、一言ではなかなか語り難い概念であることを感じた。他方、パブリック・ディプロマシーに対する著者のスタンスがいまいちよく掴めなかったことも、理解が十分に進まなかった一因であるように思う。
パブリック・ディプロマシーへの批判として、その「政治性」や「戦略性」への批判が取り上げられていたが、個人的には、プラグマティックに考えて、文化が政策遂行の手段となることにあまり抵抗はない。むしろ、現在の日本のパブリック・ディプロマシーには、明確な政策目的や戦略性が足りないことが問題だと思う。
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国益の最大化を図るための政治家や官僚による外交、さらには武力行使というハードな手段に対し、様々なソフトを通じた国際交流や文化の流布による対外戦略についてコンパクトに解説されてます。TwitterやSNSなどで個人による広範囲な情報発信が容易になった現在、もっと強く意識すべき観点を説いてくれる良書です。
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帯の軽い印象(カワイイ大使の女の子たち)に反して堅実な良書だった。各国の文化・広報外交の歴史的変遷と現況に関する話だけでなく、パブリックディプロマシーと文化人類学との接点についても勉強になった。
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著者は、文化人類学から国際政治を分析。
先日、リアルの講演会に参加したので、著書を読んでみた。
リアルの講演会は、大統領選予測など、報道ものが多かったが、この本は、パブリック・ディプロマシーという文化外交の部分に焦点をあてたもの。
例えば、最近中国が豊富な経済支援とともに、孔子学院を世界中に立地させているというような話。
ユニセフのような理想主義、各国の国民が高い水準の文化と知識を持つために活動するのか、それとも自国のための国益追求のためのソフトパワーとして実施するのか、著者はその中間領域があるとの立場。
自分は、端的にいって、国益を実現するためのソフトパワーとして位置づけた方が税金を支出する理屈がたつと思う。もちろん、相手国に対して、どうお化粧するかは別にして。
最終的には国益に資するような効果を生まなければ、政策と長続きしない。
アイドルをかわいい大使に任命したり、トムクルーズを観光大使に任命しても、結局、それが日本の国益にどう役立っているのか、説明できなければ、国の役所のやる仕事ではないと判断される。
そういう厳しいチェックに、別に事業仕分けであっているというよりも、税金を支払う国民の目からあっているという意識が重要。