【感想・ネタバレ】日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビのレビュー

あらすじ

「日本の技術力は高い」――世間では、何の疑いもなくこう言われています。しかし、もしそうなら日本の半導体業界はなぜ壊滅的状態になったのか? ソニー、シャープ、パナソニックなどの電機メーカーはなぜ大崩壊したのか? 京大大学院から日立に入社し、半導体の凋落とともに学界に転じた著者が、零戦やサムスン、インテル等を例にとりながら日本の「技術力」の問題点を抉るとともに、復活再生のための具体的な処方箋を提示します。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

日経新聞のレビューの評価が高かったので買った。実に面白かった。粗筋を急いで追って斜め読みしたので。二周目はじっくり読みたい。

なぜ日本の半導体産業は凋落したのか?が日立の技術者としての筆者の経験を交えて語られ。読みやすく、スピード感もある。敗北の要因は多岐に渡る。しかし、際立つのは日本全体に蔓延る「病理」とも言うべきものだ。それは、世界のマーケットを無視したガラパゴス気質であったり、高度技術に拘泥した、戦略と決断の欠如でもある。冒頭、「半導体の敗北はゼロ戦の敗北に重なる」と著者は指摘する。しかし、読み進める内に、その敗北はむしろ、太平洋戦争の敗北それ自体とも重なってくるように思われた。「リーダーシップの欠如」「戦略なき組織」。メーカーが事業提携、統合を繰り返し複数の頭が衝突し合う様は、陸軍と海軍の抗争と重なる。日本軍は、空軍という新しい組織を作ることができなかった。陸軍と海軍がどんなに戦術や開発を進めても、空軍の設立という全体最適は生まれてこなかった。日立やNEC、東芝といった大企業が各々の開発を進めても、時代の要請に応える大胆な戦略は生まれてこなかったのはそれに似ているように思う。各々の強みを組み合わせれば勝てたかも知れないが、それは叶わなかった。各社が迷走する内に、サムスンの大胆な投資戦略の前に敗れたのである。

日本企業の迷走に纏わる挿話は、悲劇の極みだ。ルネサスは「絶対に壊れないマイコン」をトヨタに納めた。しかし、その無謀な要求に応えた対価は、価格と利益率の猛烈な下落だった。トヨタが完全に「価格決定権」を握っていたからだ。まさに、下請の構造である。猛烈なエネルギーが、全く収益に貢献しなかったのだ。あるいは、生産性の話。「歩留まり」と呼ばれる生産性の指数を日本メーカーは限りなく100にすることを求めた。一方で、サムスンは80程度で妥協し、別の開発エネルギーを注いだ。80を90に上げるのは、80まで引き上げる労力と比べ途方もなく労力がいる。企業の目的は匠になることではない。効率性の追求と、それに基づく収益の追求である。戦略などという言葉を持ち出すまでもなかったのかもしれない。それは、優秀な学生が、相対評価のクラスの中でA+を狙って潰し合う様にも似ている。そうした優秀な人々が、再び企業の中で出世競争と開発競争に凌ぎを削って潰しあっていたのかもしれない。狹い会社、日本のマーケットの中で壮絶な自滅合戦を繰り広げていたのだ。

マーケティングの話も面白い。サムスンがインドで販売したのは、「鍵付き、予備バッテリーつき」の冷蔵庫だった。盗難と、停電がインドで多かったからである。サムスンは、それを日本の冷蔵庫の半額で販売した。聞けばなるほど、そしてとても単純なアイデアである。技術も要らない。鍵とバッテリーを取り付けただけなのだから。日本が負けたのは、こうした戦場だ。戦艦ヤマトが大砲を撃ち合う決戦ではなく、山岳地帯のゲリラ戦である。太平洋戦争の構図と全く一緒だ。世紀の技術の結晶は、戦場に投入されるまでもなく敗れたのだ。

他にも興味深いテーマは尽きない。例えば、半導体復活のために立ち上げられた数々の国家プロジェクト。何十、何百億という国税が投入されたが、それは尽く失敗した。参加企業の貴重な人員が非効率なプロジェクトに費やされた。本書に寄れば、開発テーマ自体がグズグズだったという。予算が下りたがテーマが決まっていない。一度決めたら変更できない。茶番の極みである。

そうした失敗への反省もなく、ルネサスは再び経産相の手に落ちた。産業革新機構で有る。ルネサスのマイコン技術を流出させたくないトヨタを、産業革新機構が国税を投じて支援する構図だ。ある意味、仕方のないことなのかもしれない。故障しない神のマイコンが敵の手中に落ち、価格が上がったらトヨタの競争力は失われるに違いないし、それは、確実に日本の経済を悪化させるだろう。もう、あと戻りできないのかもしれない。執念の技術を易く買い続けたツケが、彼らの怨念が牙を剥いているのかもしれない。アイロニーである。そして、そのツケを払っているのは、トヨタのユーザーではない人々までもが知らず知らずの内に払わされているのだ。

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2013年11月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

日本企業のDRAM全盛期時代に日立製作所に入社、その後エルピーダメモリに出向、日本の半導体産業に警鐘を鳴らし続けている湯之上隆氏の著書。

一言:サムスン強え(いろんな意味で)。ヤクザかよ…。
おもしろかった。以下学び↓

・日本の「イノベーション」=「技術革新」という認識が、イノベーションのジレンマに陥ることにさらに繋がる。
・サムスンは「売れるものを作る」。日本企業は「作ったものを売る」。
・インテルはイノベーションのジレンマに陥り、iPhoneの市場拡大を見誤り、iPhone用のプロセッサへの投資を断った。

サムスンは模倣で伸びた企業。NECからDRAM、iPhoneからスマホのノウハウ。そこにはグレーな点もあるが…。

はじめて知ったんだけど、サムスンとAppleは訴訟沙汰になってたのね。

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2020年09月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

冒頭に著者の経歴が披露されている。京都大学大学院を卒業後、日立製作所で半導体の開発に従事し、その後日本の半導体産業の崩壊により、日立を希望退職した。
本来の自分の能力からしてこんなハズではなかった。自分は優秀だが、半導体に関わる経営者・政府がバカだから、こんな結果になってしまったという出だしに、違和感を感じるが、その後の話の展開はそれなりに面白い。
サブタイトルには「ゼロ戦・半導体・テレビ」となっているが、殆ど著者の体験に基づく半導体の話が中心である。

日本の半導体企業は高性能大型コンピュータで養われた高品質のモノづくりに、こだわり過ぎて、安価に作る事を忘れた。
サムソンは高品質を追究するのではなく、パソコン対応の汎用製品を安価に作る事を追究し、その結果が現在の日韓の差になっていると。

面白かったのは、半導体の製造工程について詳しく述べている箇所でした。
半導体製造装置は、よりミクロンの世界へ行くにしたがって、同じメーカーの製造装置でさえ機差(機種による差異)がかなり出るので、設計行程と量産工程との機種が違っていると、量産に移行するのにかなりの時間を必要とし、また歩留まりに影響する。

日立とNECの合併会社のエルピーダメモリは、それぞれ製造装置のメーカーが違っていたので、現場では大混乱を起こして、歩留まりが全然上がらなかったというのは、現場にいた人間ならではのレポートです。
また、半導体製造装置の露光装置で機差が少ないのはオランダのASMLで、今や完全にニコンに代わりトップシェアだそうです。

ただ、半導体各社がいくら発注者(この場合トヨタ等の自動車業界)の要求とは言え、コストや歩留まりを無視して、赤字でも欠陥ゼロにこだわったというのは、本当にそうなのだろうかという疑問が湧く。製造業に携わった者であれば、コストダウン・歩留まり向上は必須の命題で、著者の説明には納得がいかないのではないだろうか。

私は歴史的な円高が汎用製品でのコスト競争力をなくし、高付加価値ではあるが、汎用品のように大量生産出来ない分野へ行かざるを得なかった悲劇ではないだろうかと思うのだが・・・

では、これからどうするか?
著者はサムソンのように模倣に徹して安価なものを作ることに専念せよと。
過去の日本企業がそうであったし、マイクロソフトや過去にはローマ文明しかり。人類の発展そのものが、模倣であった。
そんな単純だろうかと、疑問を感じるが、「模倣で成功した企業は、オリジナルを凌ぐ解決策を見つけ出している」というシェンカーの言葉の引用が印象的であった。

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2013年12月26日

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