あらすじ
舞台は明治30年代後半。鄙びた甘酒屋を営む弥蔵のところに馴染み客の利吉がやって来て、坂下の鰻屋に徳富蘇峰が居て本屋を探しているという。
なんでも、甘酒屋のある坂を上った先に、古今東西のあらゆる本が揃うと評判の書舗があるらしい。その名は “書楼弔堂(しょろうとむらいどう)”。
思想の変節を非難された徳富蘇峰、探偵小説を書く以前の岡本綺堂、学生時代の竹久夢二……。そこには、迷える者達が、己の一冊を求め“探書”に訪れる。
「扠(さて)、本日はどのようなご本をご所望でしょう――」
日露戦争の足音が聞こえる激動の時代に、本と人との繋がりを見つめなおす。
約6年ぶり、待望のシリーズ第3弾!
【目次】探書拾参 史乗
探書拾肆 統御
探書拾伍 滑稽
探書拾陸 幽冥
探書拾漆 予兆
探書拾捌 改良
感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
目次
・史乗(徳富蘇峰)
・統御(岡本綺堂)
・滑稽(宮武外骨)
・幽冥(竹久夢二)
・予兆(寺田寅彦)
・改良(斎藤一)
目次の後の括弧書きは、弔堂が本を売った相手。
ただし、寺田寅彦が弔堂に依頼したのは斎藤一が探していた本であり、最終話では斎藤一本人が弔堂に来るが、話の主人公としては斎藤ではなくこの本の語り手であった弥蔵こと堀田十郎である。
後々の自分のために記しておく。
明治三十五年となり江戸は遠くなってしまったが、今回の語り手は甘酒屋の弥蔵。
幕末に人を殺すことを生業としていたようであり、積極的に死を望んでいるわけではないが、生きることに禁欲的な生活をしている。
狂言回しは近所の酒屋の次男坊で、高等遊民(絶賛就活中)の利吉。
利吉は操觚者(そうこしゃ・新聞や雑誌の記者や編集者)になりたいと思っていくつか会社を受けてみたり、いろんな仕事を試してみるのだが、どれも長続きしないのだ。
しかし、物おじせず、チャンスをつかんで成功したいと思っているので、思わぬ有名人が利吉との絡みでお間酒屋にやってきては、弥蔵に書楼弔堂へ連れて行ってもらうことになる。
私は弥蔵の正体は新撰組の誰かなのではないかと思いながら読んでいた。
特に、そのストイックな生活ぶりから斎藤一?とも思ったのだけど、彼が甘酒屋だったことはないと思い、誰かなーとずっと思っていたのだが。
作中では日露戦争を控え、世の中は浮足立っているようでもある。
弥蔵は、どんな大義名分があろうと、殺しはいけないと心の中で常に思っている。
幕末からこっち、自分の心と折り合いがつけられていないのである。
人を殺してきた自分を、恨みがあるわけでもない相手を殺した自分を、許すことができないのだ。
”勝つためにゃ殺さなくちゃいけねぇ。負けたなら、死ぬんだぜ。いいや負けたら国を取られるんじゃねえか。(中略)戦争ってな、平民の命とこの国の地べたをカタにした、博打みてぇなものじゃないのかい”
自分の国のことはもちろん大切だ。
しかし、愛国とは何だ。
異国を敵視することが愛国なのか。
なら、自分は愛国者ではない。
家族を捨て、思い出を捨て、過去に蓋をしながら過去に囚われ続ける弥蔵。
新撰組隊士として、苛烈な戦いを続けた斎藤一が、戦後一市民として生きてきたようには生きられなかった弥蔵。
彼が抱え続けた闇は、最後にその姿を現すのだが、ちょっとびっくりでしたわ。
あと、永倉新八の話が出てくるのは、作者が小樽出身ということでサービス出演だったのでしょうか。
前巻の最後に亡くなったことが明らかにされた勝先生が、相変わらず人々の口にのぼるのが嬉しい。
Posted by ブクログ
徳富蘇峰、岡本綺堂、宮武外骨、竹久夢二、寺田寅彦そして斎藤一。各章に実在の人物が登場するので、読みつつ「これは誰?」と推測するのが楽しい。残念ながらここに出会うまでは竹久と斎藤しか知らぬ浅学で、世間では知られた御歴々にて有難き引き合わせ。明治のジャーナリスト、小説家に俳人たち。ほぉ、彼ら文筆家を操觚者と称するのですか。宮武だけは本の買い手ならず売り手でという捻りあり。日本の急速な西欧化、近代化とともに戦争の傷。作中で反戦を貫きながら、歴史の節で彷徨う彼らに理を与える。語り手弥蔵と利吉の掛け合いがまた愉快。
Posted by ブクログ
★4.5。
うーーん、良かった!終盤、弥蔵の畳み掛け方がヒトでなしのラストのようというか、絶妙な緊張感があって良かったなぁ。途中まで弥蔵さんは新選組だと思ってたし、なんだったら斎藤一か??とかも思ってたけど、ある意味時代の立役者でもあり、名も無き人殺しでもあるってその立ち位置が、いやーうん、好きだなー。斎藤さんがサクッと出てきたのは新選組オタとしては非常に嬉しい。ヒトごろしとのリンクも勝手に感じちゃうしね。龍馬暗殺の当たりとかどんな感じで書かれてたっけかな。
2冊目の炎昼の塔子さん視点が割とたるくて読みづらかったんだけど、弥蔵さんは読み進めやすかったな。ちらっと出てくる松岡さんもとい柳田さんにはにやっとしちゃったな。利吉には大泉洋みを感じたしいいキャラだからまた出て欲しい!龍典さんの武家疑惑とか出てきてたし、続きも楽しみだなー。でも暁→昼→宵ってなってるから、次夜とかでラストなんだろうか。寂しい反面、そろそろ鵺何とかしてくれ感もあるが笑
Posted by ブクログ
今までなら、利吉が語り手になっていたと思う。でも、今回は利吉→弥蔵→弔堂で、語り手は弥蔵。
弥蔵は、明らかに「何者でもないもの」ではなくて、誰…弥蔵さん誰なの…と気になって気になって…他の人のはなしがいまいち頭に入らず。もう一回読もうかな…
最後の弥蔵のはなし、「改めなくちゃ、良くならねえ」という言葉が刺さって泣いた。
改良…改めて良くすること。間違っていたから、改めなくちゃならない。改良、改善。たしかに、毎日何かをより良くしなきゃならないと、聞かされている気がする。「いま」を、全部間違いだと否定している気がする。その先には何があるんだろう。
弥蔵の一冊はないまま終わった。終わり方としてはちょっと物足りない…
Posted by ブクログ
歴史小説として読みました。
『書楼弔堂』シリーズ三冊目ですね。
時代は明治三十年後半。
この時代になると馴染みの人物が次々出てくるので、かなり面白さも増していきます。
シリーズの一作目からは、少し趣か歴史に片寄っているように思います。
ですから、京極さんとしては、かねてから描きたかった人物に焦点を当てた作品のように感じました。
魑魅魍魎、怪奇、妖怪、あやかしは、まったく出てきません。
講談のようでもあり、落語のような出足の綴りで六話の短篇連作作品です。
物語を引っ張るのは弥蔵と利吉。掛け合いで時代背景を浮かびあがらせます。
弥蔵は『弔堂』の近くの甘酒屋の設定ですが、かなりの影がある人物(実は凄腕の剣客だった)で、維新時のトラウマに囚われている。本作では無名の人物のように扱われるが、実は大変な歴史的人物であることが、最後に明かされる。
主要な人物は、徳富蘇峰、岡本綺堂、宮本骸骨、竹久夢二、寺田寅彦、齋藤一(新撰組)。
それぞれの人物のエピソードは、私も数々の本で周知の事実もありますが、物語の展開はさすが京極ワールドですね。
文章の巧みな誘導で、厭きさせません。そこは、ちょっとそこまで時代を語るか?、と思う場面もありますが、語らせたらこんなものでは済まないところの五〇二ページです。
このシリーズどこまで続くのか楽しみです。
Posted by ブクログ
シリーズも3作目。話の流れやお約束のようなものもわかっていたので、最後の話はそうきたか~という感想でした。
弥蔵さん、意外と長生きしたのかもしれませんね。
Posted by ブクログ
今回はなるほど、新撰組界隈がおいでなさいましたか。
あと竹久夢二さんはですね、昔文学館を拝見した時に『恋多き…というか多すぎだろうよ』と思った記憶がございましてねぇ…出てきた時にはちょっと『おぉ!?』と思ってしまいました笑
なんでしょうね。以前より読みやすかった気がします。
そして今回もしほるくんがかわいいです。
本当に激動の時代だもんな…。皆少なからず戸惑いますよね。文明はすごい勢いで変わる、今までの常識が常識じゃなくなる。
京極さんの本は、読んでいると温度や香りが伝わってくる気がします。
久々に濃ゆい時間を過ごさせていただきました。