あらすじ
「東京バンドワゴン」の著者が描く感動長編。小学六年生のカホはある日、屋上から飛び降りようとする少年を見つける。彼は半年前に親友を「殺した」相手だった。苦しみながらも前を向く人々を描いた感動作。(講談社文庫)
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Posted by ブクログ
うつくしいお話、というのが読み終えたときの印象。
両親に愛されずに育った少女と、人を死なせてしまった少年と、彼らを見守る大人達。
最初はもっと重い話かと思っていたのですが、人が人を思い、助け、そのために出来ることをする様子は、心が洗われるような清々しさがありました。
Posted by ブクログ
≪内容≫
暗い過去を持つ少年ハルは、自殺をする寸前にカホという少女と出会う。心に傷を持つ少年少女と、彼らを取り巻く大人たちの物語。
≪感想≫
大人が子供を守るということ、家族のあり方、人に対する優しさなど、どこまでも道徳的で規範的な、そんな正しさがストレートに書かれている小説だと思う。重いテーマを取り扱っているにもかかわらず、ハルの事件の真相など、暗い記述などは意識的に排除されていて、ただ事件によって生まれた苦しみや悲しみと、その先に見える少しの希望がそっと描かれる。
登場人物はみんな善良で心優しく、どこかひねくれていてもその心を覗けば不器用な優しさで溢れている。どんなに辛い過去を持っていても、優しさが連鎖し、力になり、人も自分も救われていく。とても優しく健気で温かい物語である。
ただ、そういった世界の中では、自殺未遂も殺人未遂も結局は子供の過ちとして、何もかもが許され、受け入れられていく。それぞれの心に傷は残れど、大人が正しい方向に導いていけば、きっと正しく乗り越えていける。
きっとそれは間違っていないのだと思う。ただその一方で、やはり綺麗事だけでは人は生きられないことも僕たちは知っている。寛容であることだけでは、人と向き合うことにはならない。性善説が必ずしも受け入れられる世の中ではない。そういう黒い部分を捨象した素直すぎる内容には、煮えきれなさというか、物足りなさを感じてしまう。
この物語を温かいと感じるか、ヌルいと感じるかは人それぞれだと思うが、いずれにせよ、中高生にはとてもいい影響を与える物語だとは思う。そしてその純朴さこそが小路幸也の持ち味なのだろうな、とも思う。