【感想・ネタバレ】軍都を歩く 基地と住民の地域生活史のレビュー

あらすじ

帝国日本の軍事施設が置かれていた街・軍都。
東京から郊外、地方へと徐々に拡散した軍隊は、地域に被害と利益をもたらした。

本書は身近に基地がある日常の実相を生活者の目線から描く。
下宿先との親交、料亭での大騒ぎ、弾丸を拾う子ども……戦前・戦中の記憶は、戦後のまちづくりや自衛隊誘致につながる。
藤沢、新宿、霞ヶ浦から呉、江田島、南西諸島まで。
学術研究に現地取材を加え、現代の課題に接続する歴史まちあるき。


■目次■

はじめに―列島津々浦々に軍都あり

序章 軍用地の分散化の近現代素描
旧城郭の軍都/郊外に拡大する多様な軍用地/「新型軍都」の建設/地方軍用地の戦中戦後の連続性/自衛隊のアウトリーチ/経済成長と補償型政治/分散化の帰結/基地を受容する文化/まちかどの地域生活史

第一章 湘南海岸に眠る海軍と米軍の記憶〈神奈川県藤沢市辻堂〉
地図に見出す旧軍用地/横須賀海軍砲術学校の演習場/民家への分宿/利益を伴う交流/藤沢の軍都化/幻の東京侵攻作戦/SFCで米軍を迎撃/旧軍用地の開拓/米軍演習場チガサキ・ビーチへ/大惨事となった駅の爆発事故/冷戦下の上陸訓練/不発弾暴発による子どもの犠牲/高まる返還運動/背景としての住宅地化/湘南はマイアミに、米軍基地は沖縄に/基地県としての神奈川

コラム・歴史の歩き方1 街の歴史調査インフラを活用する

第二章 公園化する演習場〈軍都東京・新宿戸山ヶ原〉
軍都新宿の群像劇/皇居周辺から西への分散/演習場は遊び場/屋内射撃場/怪人二十面相の隠れ家/子どもたちにとっての戸山ヶ原/不気味な科学研究所/軍人の街/東京名所/軍用地が自然を残す逆説/文人が愛した戸山ヶ原/空襲から逃げる/避難場所としての演習場/現在の戸山を歩く/演奏場から演劇場へ/戦後も遊び場に/まちかどに残る痕跡
コラム・歴史の歩き方2 生の声と文字の声を聴く

第三章 「空都」と自衛隊のスペクタクル〈茨城県・霞ヶ浦〉
土浦市の飲食店に残る歴史/飛行場建設業者/飛行機と花火のスペクタクル/国際交流さかんな「空の港」/航空隊は観光地/歓楽街の今昔/「海軍さん」の「芋掘り」/「空都」の英雄礼讃/戦争下の花火大会/軍隊による水害救援/屏風に描かれた等身大の心情/占領期の秘話/「空都」から学都へ/自衛隊誘致による復興への期待/御用商人と軍艦マーチ/自衛隊のパレード/埋没する経済効果/戦後も水害救援

コラム・歴史の歩き方3 自転車で土地の歴史をつかむ

第四章 旧軍都の平和都市と海軍・自衛隊の街〈広島・呉・江田島〉
歴史の最先端としての現在/広島の隣町には自衛隊/軍都広島の郷土部隊/ヒロシマの自衛隊パレード/軍港観光地・呉/市・商工会議所・自衛隊の三位一体/「平和産業港湾都市」か「軍港」か/製鉄所跡地を防衛拠点に/南西シフトとの関連/海軍・海自の町を歩く/江田島の海軍兵学校生徒/倶楽部とは何か/家につまった思い出/蜜柑と子馬/「下宿あります」―戦後も続く交流/軍人と御用商人の娘の結婚

コラム・歴史の歩き方4 軍用地をつなぐ道―国道一六号線・国道五八号線

第五章 過疎化のなかの自衛隊誘致〈沖縄県八重山・与那国島〉
南西シフトの現場/台湾が見える日本最西端の島/巨大墓/空襲/マラリア被害/各集落の真新しい官舎/密貿易の繁栄から過疎化へ/国際交流と自衛隊誘致/自衛隊=企業論/住民投票/賛否の背後にある声/配備後の細やかな配慮/コミュニティ活動の担い手/移住者としての自衛隊員/日米共同訓練/ミサイル配備計画の衝撃/島外避難計画

コラム・歴史の歩き方5 碑を読み解く

終章 歴史のフィールドワーク
ギャップに驚く/日常の空気感に分け入る/軍事化と都市化/見慣れたものと不気味なもの/身体知としての歴史/街を歩いて歴史に浸る

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Posted by ブクログ

 軍事施設と共存する街・人の関わりをよく知ることができた。関わりと一言で言っても経済による結びつきや過疎化対策、信条など多種多様でマイナス面だけが強調されがちなこの手の話題に対して視野が広がる。戦前・戦後でも事情が違うが、演習場で地域住民が活発な文化活動をしていた点が多々見られ驚いた。やはり戦前は現代より軍隊との関わりが深いと感じる。

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2026年09月26日

Posted by ブクログ

歴史をフィールドワーク的に捉える姿勢には大いに同意できる。身体知としての歴史解釈は、自身の考え方とも通じる部分があり腑に落ちた。
本書では軍都として藤沢、戸山ヶ原、土浦、呉、八重山が挙げられており、軍都と一言で言っても一方向的なものではなく、多様なあり方があることを教えてくれる。「軍都(この言葉自体、戦後にできたもののようだが)=悪」というステレオタイプな文脈に引きずられることなく、軍と住民の交流、遊郭や旅館における関係性や印象が善いこと悪い事含めて丁寧に描写されている。
個人的には土地勘のある戸山ヶ原や呉も興味深かったが、訪れたことのない八重山の記述が最も印象に残った。当初は「倒産しない大企業」の誘致という側面から始まった自衛隊の駐屯であり、決して大歓迎で迎えられたわけではない。しかし、地域住民に溶け込む中で、地域の催事などが自衛隊員におんぶに抱っこになってしまい、歓迎されつつも地元民自身による継承がなされないという矛盾した構造が生まれている。さらに、ミサイル配備をはじめとする基地化の現実まで踏まえ、自衛隊が地域に溶け込みすぎたからこそ生じる新たな課題を描き出している点は興味深かった。
なお文体に関して、インタビュー部分と歴史的事実を述べる部分とで若干の落差を感じた。地のインタビュー描写が巧みなだけに、歴史的事実の記述もそのトーンに寄せると、より没入感のある著作に仕上がったのではないだろうか。

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2026年10月06日

Posted by ブクログ

軍都というといかめしいが、むしろ軍施設がある街といった意味合い。戦前は日本各地,都市部から郊外まで多数の軍事施設があった。その地元では受益もあったが,受忍を求められることもあったし,長いこと続く交流もあった。戦後は,施設は民生に用いられたり、米軍の接収を経て、自衛隊の施設や民生用に転用された。自衛隊の発足にあたり,経済的なメリットを期待して,誘致されることもあった。これらについての、当事者や地元住民の証言がたくさん折り込まれている。最後に取り上げられた与那国島の自衛隊施設の誘致に関し、過疎化が進む地域で自衛隊を優良企業のように考えたところは、痛みを禁じ得なかった。一方,駐留する自衛隊隊員の努力に,自衛隊が置かれている微妙な立場を感じた。

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2026年09月10日

Posted by ブクログ

明治以降、日本各地に軍用施設が配備され、軍都が形成された。 

著者は、軍都が各地域にもたらした影響や関わり合いを追って、藤沢、新宿、霞ヶ浦、呉、江田島、南西諸島まで旅し、取材した。

各地の歴史を掘り起こし、軍事基地の特殊性を受容し、葛藤の中で生きてきた人々の生活のリアリティをあぶり出す。

そこからは、戦後のまちづくりや自衛隊誘致に至る経緯も見えてくる。

第一章で紹介されているのは神奈川県藤沢市辻堂の湘南海岸。ここは、戦前は旧日本海軍の辻堂演習場があったが、戦後は米軍演習場「チガサキ・ビーチ」となり、旧日本軍の廃爆薬の大量処理で住民に事故などによる被害が出た。地元は、返還運動を推し進め、自衛隊にも拒否反応を示した。背景には急速な宅地化の進展もあった。結果として、湘南海岸は「東洋のマイアミ」と称される観光地となり、軍事的起源は忘却され、アメリカの享楽的イメージのみ残った。

第二章は東京都新宿区戸山という都心にフォーカスし、明治期以来の軍学校や演習場、軍病院に囲まれた地域の日常経験を掘り起こす。昭和戦前期に建てられた屋内射撃場の流れ弾による被害もあったが、一方で、広大な演習場は地元の子どもたちにとって、身近な遊び場であり、自然の豊かさを残す東京の名所と見なされていった。また、大空襲の折には空襲の避難場所にもなっていた。

第三章では、霞ヶ浦湖畔の茨城県土浦市を取り上げ、隣接する阿見町に第一次大戦後に作られた海軍飛行場から話を進める。飛行場が先端科学文明のシンボルとして、期待感を呼び、地域に受け入れられ、兵員の消費活動や遊郭の隆盛が経済的な発展をもたらした。

第四章は、戦前は軍都だったが戦後、基地のない平和都市に転換した広島市と、戦前に海軍、戦後に海上自衛隊が置かれた広島県呉市・江田島市を取り上げる。両者の戦後の歩みは平和か軍事の二項対立的な対比では捉えきれない。広島市でも自衛隊の戦車を連ねたパレードが行われ、呉市は「平和産業港湾都市」を目指した。

第五章は自衛隊の配備が急速に進む沖縄県西部の与那国島、石垣島、宮古島などの南西諸島を取材。
特に最も早く2016年に駐屯地が開設された、日本最西端の与那国島にフォーカスする。見えてきたのは、過疎化に苦しむ島が自衛隊誘致に至った動機である。自衛隊員の移住による税収増は町財政を潤し、彼らは、災害時の復旧活動や、医療、コミュニティ活動の担い手として島の救世主となった。

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2026年10月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

<目次>
序章   軍用地の分散化の近現代素描
第1章  湘南海岸に眠る海軍と米軍の記憶~神奈川県藤沢市辻堂
第2章  公園化する演習場~軍都東京・新宿戸山ヶ原
第3章  「空都」と自衛隊のスペクタクル~茨城県霞ヶ浦
第4章  旧軍都の平和都市と海軍・自衛隊の街~広島・呉・江田島
第5章  過疎化のなかの自衛隊誘致~沖縄県八重山・与那国島
終章   歴史のフィールドワーク

<内容>
かなり具体的に地域をフィールドワークして、インタビューをして、まとめている。こうした歴史の知り方もあるのだ。辻堂には、戦争の影などないのかと思ったが、終戦時、日本がさらに抵抗を続けたら、米軍の上陸地点だったのだと思い出した。

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2026年08月01日

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