【感想・ネタバレ】日本文化の論点のレビュー

あらすじ

情報化の進行は、二〇世紀的な旧来の文化論を過去のものにした――。本書は情報化と日本的想像力の生む「新たな人間像」を紐解きながら、日本の今とこれからを描きだす。私たちは今、何を欲望し、何に魅せられ、何を想像/創造しているのか。私たちの文化と社会はこれからどこへ向かうのか。ポップカルチャーの分析から、人間と情報、人間と記号、そして人間と社会との新しい関係を説く、渾身の現代文化論。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

マンガ・アニメ・ゲームなどのサブカルチャーを代表とする「周辺領域」であった〈夜の世界〉の想像力が、政治や経済といった〈昼の世界〉を書き換えていく・・・
すでに『PLANETS vol.8』を読んでいたので、すんなりと読めてしまう。『P8』での多くの刺激的な議論から抽出されたさまざまな論点が、この「〈夜の世界〉からの社会変革の戦略」を帰納的に論証していくかのように、新書としてまとめられている。

論点①クールジャパン:日本が世界に輸出できるもの
それはソフトそのもの(作品)ではなく、ニコ動やコミケといったコミュニケーションのインフラである。消費と創作の主体が一致してしまうような(二次創作)、現実と虚構の境界があいまいになった「中間の空間」にこそ、輸出されるべき「日本的想像力」はある。

論点②地理と文化の関係は分断された
地理が文化を決定するのではなく、文化が地理を決定する。そして祝祭の場としての現実空間に文化が要求するのは、建築の機能、とくにその規模=サイズの問題だけである。あたらしいホワイトカラー層の出現と、鉄道網に支えられたいままでの〈昼の世界〉とはべつの「夜の東京」とは・・・

論点③価値はコンテンツからコミュニケーションへ
情報化の進行によって、コンテンツの単価はゼロに近づいていき、コンテンツを媒介としたコミュニケーションこそが価値を帯びる。カラオケや初音ミク。楽曲自体の価値をその作品の内部だけで批評することには意味がなくなっている。

論点④ゲーミフィケーション化する社会
従来は不可視的といわれてきたコミュニケーションにおけるあいまいな「雰囲気」や「空気」のゲーミフィケーションによる可視化・数値化。「市民」と「動物」の二項対立から、双方向的で「中動態」的な(ほんらいの)人間へ。人間観の解体と更新。

論点⑤反現実の歴史構造とファンタジーの作用する場所
戦後的想像力、そして「虚構の時代」「終わりなき日常」の終焉。現実と虚構の境界が崩壊したのちにこそ作用する、あたらしい想像力の生成。〈ここではない、どこか〉へ連れていくのではなく、〈いま、ここ〉を異化させていくものとしての想像力。

論点⑥すべての論点を包摂する論点としてのAKBシステム。
〈劇場という現場とソーシャルメディア(夜の世界)〉が、〈マスメディアやヒットチャート(昼の世界)〉を席巻していく。楽曲そのものの価値よりもコミュニケーションの価値。「推す」という感情が社会を作る、社会に作用する。秋元康自身による二次創作、彼とファンとの循環的なn次創作。

少数派たるサブカルチャーそのものが発信できる想像力に限るよりも、コミュニケーションのありようを変容させていくようなテクノロジーのもつ経済力や想像力を広く動員していくほうが、具体的な社会変革のモーメントを産み出すのではないだろうか。

とはいえ、日本的な想像力や経済力・動員力、そしてさらに「百合」的なエロティックな欲望を兼ね備えた存在がAKBなのだ、という主張は説得力がある。

ただし、性的な文脈や巨大な経済(現金収集)システムとしてのAKB批判をやんわりかわそうとすればするほど、日本社会を変革するうえで避けられない論点である〈性(と家族)〉と〈金(再分配と循環)〉についてなにか奥歯に挟まった言説にとどまってしまう、というジレンマを抱え続けてしまうと思う。

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2013年04月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 経済的、社会的に日本は疲弊・衰退してしまったが、本当にすっかりだめになってしまったのか、という問い立てに対し、筆者が「オタク文化が育んだ想像力にこそ、現実を変革する力があり、現代の日本が武器とするべきはそこだ」というようなことを論じていく、というような内容。「昼の世界」(経済力など)が衰退した「失われた20年」の裏側では、「夜の世界」が着実な成長を遂げていたのだ、という感じ。

 面白く読んだ箇所も決して少なくはないけれど、論じ方としてはやや荒っぽい印象を受けた。言葉の定義が雑(インターネットという言葉が、ネット上のコミュニティを指すのか、提供するサービスを示すのか、どのサービスまでを含むのかなどが曖昧)な一方で、(ないしそれゆえに)異なる文脈においても、言葉の中身を再定義しなおすことなしに議論を進めていくので、結局言葉遊びに過ぎないように思えた。
 個人的には、実証主義的な方法論が取り入れられていないところに、不満を感じる。全てに根拠や資料を示すべきだとは思わないけれど、何かしら確かな情報に依拠している訳でもないのに、断定調で意見を述べることが多すぎる。推論をあたかも事実であるかのように提示しながら、そこに推論を重ねていくので、言っていることのところどころは頷けても、諸手を挙げて賛成できない場合が多い。もっとも、これは学問によって作法が異なるのかも知れないけれど。
 また、筆者のいう、現実を変える力を持つような「夜の世界」の想像力は、インターネットを筆頭に様々な例が登場するけれど、実のところ一番言及したかったのはアイドル(特に、というより厳密にはAKB48)についてなのではないか、と感じる。一章まるまるAKBについて、特にそのシステムに関して熱く語っているけど、それだけにとどまらず、その影は別の章でも時折ちらつかされる。読み終わってみれば、「日本文化の」論点といっておきながら、AKBに収束するような構成になっていたのではないか。場合によっては少し無理にアイドルに言及するせいで、少し各章の軸や論理展開がブレてしまっているように思った。

 更にもっともっと個人的な関心に基づいた話をすると、AKBについて言及する箇所で軽く触れられる百合への解像度が低すぎる。別にそこが「女性が女性を性的に消費した(この表現がそもそも引っかかるけど)」決定的な契機でも代表例でも特例でもないし、AKBで二次創作をした女性が「普段はBLを受容していた」とは一概には言えないだろうと思う。二次創作を楽しむ女性をBL読者にひっくるめてるのか、ちゃんと書き手(読者は無理だろう)がそれ以前に描いた作品を精査した上でいっているのか。前者なら定義が雑だし、ちゃんと精査したのであれば、せめてその旨を書くくらいはして欲しい。1ページにも満たない文量だけれど、自分はここでもげるほど首をひねった。

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2022年05月25日

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