あらすじ
今、西洋で起きていることは数年後の日本の姿か?
私たちが日々飲み込む言葉を解剖し、社会を紐解く。その鋭い警鐘に、背筋が伸びた。
――小川彩佳(キャスター)
「名を正す」孔子の精神の実践書だ。正しく名指すことこそ、混乱した政治を解きほぐす道である。
――國分功一郎(哲学者)
極中、クラス・シーリング、テクノ大衆、リマイグレーション……
今、西洋で起きていることは、すぐそこにある日本の姿か?
・個は責任を問われ、為政者は説明責任を逃れる「責任格差」
・イデオロギーを捨て、権力奪取を目的とする「極中」の倒錯
・貧困層が“身の程を知る”よう呪われる「階級の天井」とは?
・テクノ領主たちが仕掛ける「プラットフォーム・ポリティクス」
・「リマイグレーション」という名のソフトな民族浄化の正体……etc.
本書を書いているうちに、「リマイグレーション」のような恐ろしい言葉も取り上げざるを得ない状況になってきた。これは、白人以外の民族(移民、市民を問わず)を人種的祖先の地へ大量に送還するという意味の政治的なスローガンだ。民族浄化の「言い換え」と言われるこの表現は、欧州の極右勢力やトランプ政権が使うものだ。(…)
自分たちだけは、ここだけは大丈夫などということは、もうない時代なのだ。その覚悟をもってこの本を書いた。この本に出てくる言葉は、どの国でも語り始められ得る。それはどこでも起こり得るのだ。
――「はじめに」より
ベストセラー『他者の靴を履く』から5年――
「個の力」(power of)を取り戻す革新の書!
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Posted by ブクログ
ブレイディみかこの著書を読むのは、本書が初めてである。書評で目に留まり手に取ったが、英国で長年暮らす著者の、現代社会に対する見識と洞察の深さに、蒙を啓かれる思いがした。
特に印象に残ったのは、エクストリームセンター(極中)、リマイグレーション(移民の送還)、民のリスポンシビリティと政治家のアカウンタビリティ、テクノ封建制(Technofeudalism)、バラモン左翼、クラスシーリングとメリトクラシー、家産制国家(Patrimonial State)、The Fifth Estate、Ordo Amoris(愛の秩序)、アナキズム、スチュワードシップなど、これまで十分に理解していなかった、あるいは異なる意味で捉えていた概念が、欧米、とりわけ英国を中心とする政治・社会情勢を背景に、明快に定義されていく点である。個々の概念が単なる知識としてではなく、相互に関連しながら現代社会を読み解くための視座として提示されていることに、大きな知的刺激を受けた。
欧米では、移民の増加に伴う文化的・民族的対立が日本以上に顕在化しているが、外国人労働者が人口減少を補い始めている日本でも、ブレイディみかこの描く政治状況の土台は徐々に形成されつつあるのではないか、と警鐘を鳴らしているように感じた。一方で、日本には政治権力が極端な方向へ傾こうとする際の制度的・社会的な抑制が比較的多く、著者が懸念するような、偽善すらまとわない権威主義的な政治家が、民族や世代間の分断を利用して急速に台頭する可能性は、欧米ほど高くはないのではないかという印象も抱いた。
本書を通じて、欧米、特に英米社会が直面する政治的・社会的危機の構造を俯瞰する視点を得ることができた。政治への関心が決して高いとはいえない自分にとっても、本書は現代民主主義の課題を理解するための格好の導入書であり、この分野についてさらに学びを深めたいという知的好奇心を強く喚起してくれた一冊であった。