あらすじ
司と逸子がふたりで営むスナックには夜な夜な、さまざまな客が訪れる。
ときには、この世ならざるものも……。
ちょっと不思議でしみじみ沁みる、大人のための物語。
読売新聞好評連載。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
何の前情報もなく、川上さんの新刊!って手に取ったらまさか幽霊系の話だと思わず読み進めたけど最後までそれ系だったのにはびっくりした。ところどころに言い回しや表現が川上弘美らしさが散らばりまくっててやっぱ好きだなーと。MISIAのアイノカタチの賭けの結果知りたい!のんとなくだけど続編あったら嬉しいなと思うような作風
Posted by ブクログ
スナックふたり
著者:川上弘美
発行:2026年7月10日
中央公論新社
初出:『読売新聞』2025年3月12日~12月18日
司と逸子が経営するスナックが舞台。どっちがママか?という話題が、何年かに1回か話題になって盛り上がる。2人の年齢は、話の内容によって30代~70代まで、いろいろと答えが返ってくる。常連客もいろいろで、基本的にはみんな仲良し。全6話のそれぞれに一見客が登場する。それが幽霊なのである。普通の人間のように思えるし、お金もちゃんと払っていくけど、実は幽霊。それで、話の締めくくりになると消えて「あの世」に去って行く。
3話ぐらいになると「スナックふたり」は幽霊界で有名な店になっている状態。そのうち、もう鎮魂はやめろと言ってくる正体不明の客まで来るように。
新聞連載を単行本化した小説で本文420ページ余りだが、このスナックを舞台に6回の区切り(締め)がある連作短編形式になっている。とても読みやすく、楽しい。川上弘美は今では大物作家と言ってもいいし、もっと重い小説をイメージしがちだけれど、これだけ軽快に、しかも新聞連載で読んでも登場人物が思い出せないような状況でなく分かりやすく書いているところが、さすがの技術力だと思えた。連載で読んでも、きっと楽しかっただろう。
1.北酒場
ある日、20代~30代前半の一見客が来た。冬だとういうのにTシャツ、半ズボン、ビーチサンダル。2時間3500円だと言うと、それでいいと言って氷多めの焼酎の水割りを飲む。普通に飲んで帰った。無口だった。常連客ともなにもなかったが、ただ、奥から2番目の席に座ったので、みんな黙ってはいたが気になっていた。その席は、週1で水曜日の9時頃に来る常連客しーやんがいつも座る席だったからである。水曜日にしか来ないが、なぜかみんなそこを水曜日でなくても空けておく。満席でない限り。
2回目に来た時、ビーサン半ズボン客は焼酎をキープして飲んだ。名前を聞くと、しーやんだという。本名はシノノイだった。それで、本家しーやんと呼ぶことになった。ボトルには本家と書かれている。
暫く姿を現さなかったしーやんが来た。なんだか元気がない。いつも「おかえりなさい」というと、「まだぼく帰ってないけど」と返す常套句も言わなかった。なにかあったのかと聞いても、なにも言わない。しーやんは歌が非常に上手かった。ある日、初めて歌った曲が非常に難しい曲で、それを聴いた常連客は驚いた。なんでも、父方の叔父がプロの歌手だったらしく、しかし、少し売れ始めた時に調子にのってファンの人妻に手を出し、抗議を受けた際に当たり所が悪くて死んでしまった。しーやんも非常に歌が上手くて好きなので、歌手を目指そうとしたが、その叔父のこともあってか父親に強烈に反対された。
本家しーやんについて、どこかで会ったことあるような気がしないか?とみんなで言っていた。本家しーやんは歌わなかったが、ある日、ついに歌を披露した。その日もビーサンと半ズボンだったが、いつものように氷多めの焼酎水割りではなく、お湯割りだった。そして、それまで歌わなかったカラオケを、初めて披露した。みんな静まり返った。完璧に歌い終えた、テンポ、高低の切り替え、英語の発音。曲は「ボヘミアン・ラプソディ」で、10年前に高校教師のしーやんが初めて歌ったのと同じ曲だった。
本家しーやんに出身地を聞くと、海の近くだという。それ以後、来なくなった。
しーやんが来た。いつものように元気に「おかえり」「まだ帰ってないけど」とのやりとりもした。そして、海の近くの出身か?と聞くと、山だと答えた。ただし、父方は海の近くだ、とも。
本家しーやんと父方の叔父(歌手)ってなにか関係あるのか?調べてみようか、レコード出しているかどうか、というようなことも一瞬、みんなで口にしたが・・・
司:来店客のことをノートにつけている
逸子:料理がうまくお通しづくり担当、経理担当、幼い頃に父親の商売が破綻して一家で夜逃げを経験、2度結婚し最初の時に娘が1人(成人して子持ち)、年2回生存確認の連絡をする、スナックを始めてから沖縄に1年間駆け落ちした経験あり、
ヒデ:商店街でクリーニング店、元村秀樹、
ショウコ:夫婦、いつも2人で来店
一見客:男性、20代~30代前半、冬だがビーチサンダルと半ズボン、シノノイ、本家しーやん、野生のシメジちゃん
しーやん:週1で水曜日に来る、高校教師、奥から2番目の席に座る、シノノイ、眼鏡、男、40-50代、クラマノジャガイモタケ
青ちゃん:2年前から来るように、
小料理屋サカエのママ:独身、スーさんとタカハシちゃん二号がおかぼれ、一度つかみあいの喧嘩になりかけたことも
スーさん:
タカハシちゃん二号:
タカハシちゃん:地元で焼き鳥「鳥よし」経営、5年前に70代半ば過ぎ痛風悪化で閉店、高橋三郎
ミタしゃん:
2.四月の乳歯
「鳥よし」を5年前に閉めたタカハシちゃんが来店した。82歳の誕生日だった。そして、連れが来るけど少し厳しい人だけど勘弁してと言った。えり子という女性は、確かにはっきりとものを言うタイプだった。例えば、タカハシちゃんが煙草を出すと、ダメだとぴしゃり言う。えりりんが愛称になった。2人の関係はよく分からない。タカハシちゃんは酒に弱くちびちび1杯、えりりんは4杯飲んだ。
次に来た時、えりりんは7杯飲んだが全然酔ってないように見えた。2人はいつも早い時間に来るが、えりりんは初めて来た時以外は、全く酔っているふうではなかった。そのうち、タカハシちゃんが涙ぐんでいることがあったし、逆にえりりんがそうだったときもあった。声も出さず、涙を拭う動作もせず。だから、司と逸子だけが気が付いた。
エガちゃんは、以前、どこかでえりりんに会った気がするという。
逸子も、どこかで顔を見た感じ、と言う。
司と逸子が掃除をしていると、小さな物をみつけた。歯のように見えるが、入れ歯ではなさそう。歯だとしても、乳歯ほどの小さいものだった。一応、ティッシュに包み、箱に入れて保存。
常連のマイマイが歌いまくったあとに言う。この前、元鳥よし近くの喫茶店で友人とランチしたら、なにかが来ていると言われた。友人は霊感が強い。恐いからそれ以上は聞かなかったという。
10年ぶりぐらいにエガさん(二代目)が来た。タカハシちゃんたちが来るより早い、7時ごろだった。なぜ10年ぶりに来たか、それはタカハシちゃんが連れてくる女の正体が分かったから。昨日、三代目が思い出したという。彼女はタカハシちゃんの母親だった。どういうこと?あの若い女性が母親だなんて。
タカハシちゃんは3人兄弟の末っ子、戦争中の生まれ、食糧難のなかで母親は自分の食べる分を削って体を壊し、終戦数年後にかなり進んだ結核が判明し、昭和30年代の初めに死亡していた。どうやら、その母親らしい。
最近、よく幽霊が来るわね、と司と逸子。
そこへタカハシちゃんとえりりんが来た。えりりんは顔をみるなり「ばれちゃったんだね」と言った。そして、エガさんを見るなり、もしかしてえがわ商店のミッちゃん?と言い当てた。
死んだ母親は、タカハシちゃんの乳歯の内、1本だけ残して袋にいれていた。それを仏壇に保存していたのをタカハシちゃんは知っていた。寂しくなり、呼び出したら来てくれたという。
母親は乳歯を受け取り、すっと消えた。もう、来ることはない。
えり子:タカハシちゃんの連れ、30代半ば?、えりりん、ネッタイイヌメリタケ
エガちゃん:酒屋「えがわ商店」三代目、鳥よしはすぐ近くにあった、60歳前
エガワさん:エガちゃんの父親、二代目、江川光夫(ミッちゃん)、
マイマイ:50がらみの会社員、スーツ、スニーカーが多い、10年前から来店
3.旅の仲間
ある日、ランドセルを背負った小学生が遠慮がちに入って来た。どうしたの?ここは子供110番の店じゃないけど、と言うと、客として来た、お金は払うと言う。焼酎のお湯割りを注文してきたので子供には出せないと拒むと、死んで幽霊になって30年生きてきたから大人だと、意味不明のことを言う。どうしてここに来たのかと問うと、旅の仲間を見つけにきたという。この店はそれなりに知られているから、とも。それは幽霊ネットワークのような間での噂だとのこと。幽霊である証拠として、その場で姿を消してみせた。それは、えり子がぱっと消えたのとは違い、じわっとした消え方だった。しばらく残像を残すように。戻った彼に、陶器の入れ物でお湯割りを出す。他の客からはお茶に思える。どことなく関西っぽい言葉。
来る回数もそれなりになってきた。タカと呼ばれるようになり、逸子の甥の子を預かっているということになっていた。昼間は消えているが、夜になると現れ、店を閉めてもまだいて、やがて消えることもある。
ある日、カトちゃんが来た。税理士事務所を経営する町内会長。彼が、猫を飼う人は誰かいないかという。事務所に勤める女性が、隣の公園で子猫を見つけたとのこと。今は、ねぐらや餌を与えてなんとか凌いでいるが、誰か飼ってほしいとのことだった。司と逸子も飼いたいのだが・・・タカが飼いたいと言い出した。自分が面倒を見るという。飼うことに決めた。
そんななか、常連のマイマイも飼いたいような言い方をし始めた。実家で何匹か飼っていたが、一人暮らしになって飼える住まいでなくなってからは飼えていない。でも、今は飼えるところに住んでいる。実家時代は貰ったり、拾ったりした。
カトちゃんところの女性事務所員が、子猫を連れてきた。いよいよ猫が飼いのスタート。段々と猫は馴染んできた。タカも毎日姿を現して世話をするようになった。そんななか、タカと猫はなにか意思を通じ合わせている。決意がついたんだな、というような納得感。そして、タカは姿を消した。えりりんと同じでぱっと消えた。その後、マイマイが猫を飼いたいと引き取りに来た。
司のノートに、タカが書き残していた文章があった。書いた時は透明で見えなかったが、浮かび上がってきた。タカは30年前に地震に遭ったのだった(阪神・淡路大震災だと思われる)。そして、飼っていた猫のレオは死んだが、自分はちゃんと死にきれずに迷ってきたという。レオのきょうだいがどこかで飼われていたようだが、それはマイマイさんのところかもと勝手に思っている。そして、今回、ここで出会えた子猫のレオは、あのレオの生まれ変わりだと思った、とのことだった。レオは旅の仲間だったのかもしれない。
タカ:小学生、死んで30年になる幽霊、ハナオチバタケ
カトちゃん:鹿取税理士事務所、町内会長
山口:鹿取税理士事務所員、猫を見つけた女性、山ちゃん、ハツタケ
4.丹波の甕
スナックふたりは、「来夢来人」というスナックの居抜き物件だった。傘立てに使っている甕も、もとからあるもの。ひび割れているのか、水が少し漏れる。折からの梅雨、買い替えようかと司。いいけど、なんかこれが好きだと粘る逸子。
猫を届に来てくれた、鹿取税理士事務所の山ちゃんは月に2度ほど来る常連になっていた。
雨が続く。初めての男性客が来た。ビールを注ぐと立ち上がり、「あれかな・・・うん、これだ」と甕を見る。座ってビールを飲み始める。ターさんと呼ばれることになったが、彼が来るとなぜか満員御礼の盛況、来ないと客が少ない。
ある時、表面的にさらさらと客との会話を流す逸子が、妙に思わせぶりにターさんに言う。「もしかして、やっぱり・・・」。ターさんもささやき返す。逸子はターさんがタイプなのか?二人きりにしようと司がすると、逸子は腕をつかんでそうさせない。
聞けば、最近、同じ夢を見るという。仏壇、甕、そしてターさんが出てくる。江戸時代っぽい。ターさんも同じ夢を見ているのではないか、と逸子。
ある日、開店の時間になっても逸子が来ない。スマホに連絡しても出ない。心配になって店に鍵を掛けて逸子の家へ。すると、歩いている逸子を発見。スマホは電池切れだった。そして、そこへターさんも来た。これはどういうことか?3人で店へ。
やはり、逸子とターさんは同じ夢を見ていた。逸子が甕の内部をチェックする。すると、破片のようなものを見つけた。熱くて、なにか言っている。
にひゃくねん。くらい。まえ。
やきたて。ほかほか。
やまなか。おやかた。
きんじょのこ。らんぼう。
2人が見た夢の中でも同じことを甕が言っていた。200年ぐらい前に自分は丹波で作られた、最初は焼きたてだったけど、今は冷え切っている。山奥に住んでいる親方が甕を作った。近所に乱暴な女の子がいた。
その甕は自信作だったが、世間で価値が認められずになかなか売れなかった。近所に住んでいる女の子は、売れないじゃないのと甕をけりつけてみたり、中に葉っぱやバッタを投げ込んだりしていた。しかし、ついに大阪にある商家に売れた。
その近所の女の子は大阪に奉公に出たが、なんと甕はそこにあった。いつもそこに井戸水を入れる仕事をしたが、みんな気味悪がって甕に近づかなくなる。真相はこうだった。甕を作った親方は、やっと高い価値を認められて売れて、少し調子に乗って手にしたお金を博打で使ってしまった。酒によっぱらい、足を滑らせて川に転落、死んだ。その霊が甕についているというのだった。
そして、その親方はターさんの前世、女の子が逸子の前世だと夢で判明したのだった。だから、この日、示し併せてあることをしようとしたのだった。自分だけのけものにされたようで少し拗ねる司。実は、甕は破片をひっつけてもらいたくてターさんを呼び寄せたのだった。他人がやると元の性(しょう)のようなものが変わってしまうので、前世が親方だったターさんにして欲しかったのだった。ターさんはアロンアルフアでしっかりと固定した。
*夢に見る、その人が来る→「来夢来人」の店名、クリーニング屋のヒデさんが冒頭に出て来て10万5千円を博打に使ってしまった罪滅ぼしが明けて久し振りに来店してくれた話、とくにそれの説明はないが、さりげなく事象を結びつけている小説のテクニックはさすが
宇能タカユキ:初めて来た客、ホウキタケ、ターさん、病院事務
ヨンさま:常連
ブンさん:常連
モーやん:近所に住む常連になりかけ客、30代、IT系
サリー:今年に入ってくるようになった、指田(さしだ)、背が高い
ワセちゃん:同上、尾鷲、学生時代の同級生、40絡み、2人は付き合っている?
スーさん:
5.翡翠の色のネクタイ
初めての客が来た。初めてですよね?の確認に答えない。男性、30歳前後、うす緑色のネクタイ、店のボトル出し2時間3500円コースで焼酎のお湯割りを無口に飲む。税務署でも警察官でも役所の人間でもなさそうだが、どこか得体の知れないところがある。ヒーさんと呼ばれることになった。うす緑色が翡翠のような色だからヒーさん。
次に来た時には、お盆休みの話題となり、幽霊が出るのかここは?というような話をしてくる。Xで噂になっている幽霊が出る店のことを指しているのだろうか。自分は訳知りだというような表情もする。スマホで何かを見せてくるが、老眼だからと司たちは無視する。
その後、何回か来るが、相変わらず名乗らない。
ユッチが何か月かぶりに来た。彼は、以前、近くの交番に勤務していたが、仕事で立ち寄る以外に飲みにも来てくれるようになり、ついに距離のある西の方に異動になったが、それでもたまに飲みに来てくれる。今回は何ヶ月かご無沙汰だった。ヒーさんと同じタイミングの来店だったが、彼はヒーさんに近寄って声を掛け、話をし始める。そして、どこかでお会いしていませんか?と言い、プラモデル屋の話などをするが、ヒーさんはピンと来ていない様子だった。
やがて、2人ともが幽霊であることを認めあった。ユッチは自分が警察官のころから病気で、死んで、幽霊としてこの世にいることを最初から知っていたが、ヒーさんは自分が幽霊であることをつい先月知ったという。自分の名前も正体も思い出せないが、人からそれを聞かされてはいた。しかし、ピンと来ていないので自分の名前だとされているものも名乗らない。
お盆休み前の最終日、残った材料で食べる物を作ることになった。リクエストは、ユッチが挽肉に納豆を混ぜて炒めた料理、食べ盛り3人の子供を育てるのにお金がないなかで工夫をしたお袋の味だという。5年前に癌で死亡している。ヒーさんはクリームソーダをリクエスト。それを見て、喫茶「ブラジル」の話をユッチがすると、ヒーさんも知っていた。ブラジルのクリームソーダ。
ユッチはヒーさんのことを思い出した。3ヶ月前、自分の癌は一進一退だったなか、できるだけ長く交番勤務をしたいので勤務時間を短くしつつ、ブラジル近くの三差路にいると、妙に見通しがいいことに気づいた。近くで急ブレーキと鈍い音、駆けつけると、白い車と倒れている男性。救急車を呼び、所轄の交通科にも連絡。それがヒーさんだった。病院へ。駆けつけたのは妹と叔母だった。両親は早くに亡くしていたという。妹の名前は翡翠だという。
話しているうち、ヒーさんはまだ完全には死んでいないことが判明した。ユッチは一瞬、ゆらいだが、その間に病院に瞬間移動し、確認したところ、植物状態だった。戻れるはずだとユッチはいう。自分がそれを後押ししよう。それをするために自分もこの世に残っているのだと思う、と言ってその場で2人とも消えてしまった。停電状態になったと同時に(すぐに回復)。
ヒーさん:妹がいる、両親を早くに亡くした、タマゴタケ
翡翠:ヒーさんの妹
ユッチ:40歳前の交番勤務警察官、西の方(武蔵)へ異動したが飲みに来てくれる、5年前に母親が癌で死亡
6.十万五千円の効用
お盆休みの一件も落ち着いて9月に。体型もよく、男前の男性客が来た。30~40歳ぐらい。店には好き嫌いの多いヨンさまとも会話をしていた。代金はカード払い。常連になってくれたらいいなあと司は思ったが、どこかヨンさまに対して「あしらい感」があるように2人は思っていた。ツカモトと名乗ったため、ツカちゃんと呼ぶことになった。
ヒデさんが10万5千円を競馬に使ったという真相を話した。実は10万5千円はすっていなかった。一点買いで勝ち300万円になっていた。あるとき、父親の日記が出てきた。日記といってもメモ程度のもので、1冊しか残っていなかったが、現在の自分と同じ年齢の時の日記だったのでデタラメに開くと、4月に競馬で10万5千円すったと書いてあった。1995年(*震災と関係あり?)の日記だった。そして、ノートの最後のページにお前への唯一の遺言だとして、秀樹(ヒデ)、これを読んだら1回でいいからどうにか10万5千円工面して競馬で一発勝負をしろ、と書かれていた。それで、競馬へ行った。すると、父親の幽霊と出会い、3分で消えなければいけないとされつつ、かける馬(単勝)を指示された。それが当たって300万円になった。
妻に見つかりそうなので預かってほしいと言ってきた。というか、寄付したいと言ってきた。来るべきことに備えて。それに使ってくれという。来るべき事態というのがなにかは、聞けなかった。
ツカちゃんはなんどか来たが、会話する相手としてはヨンさまとだけだった。ある日、司と逸子に対して「もうおしまいにしてほしいんだよね」と言った。なんのことか分からない司。ツカちゃんは「鎮魂」をやめてくれという。死んだ奴らの魂を鎮めることをもうやめろという。自分たちはそんなことをしているつもりはないし、幽霊たちは勝手に来て勝手に消えていっただけだと説明しても納得しない。ツカちゃんは、幽霊はさまようのがこの世の定めだから、簡単に魂を鎮めてこの世を去らせてやったりしたらだめだと言う。
タカハシちゃんがエガワさん(二代目)と久し振りに来た。若い母親の幽霊と来て以来、スナックふたりを卒業していたのに来たのだった。何か困ったことはないかとしきりに聞く。ツカちゃんの話になった。常連による悪口タイムになっていた。ツカちゃんは、乾燥納豆を食べたら、人魚の匂いがすると言った。人魚を食べたことあるのか?人魚を食べたために800歳まで生きた八百比丘尼なのではないか?
タカハシちゃんは、スナックふたりに八百比丘尼が来ると言ってきたそうで、だから見に来たと言った。いまでも一方通行的に夢枕に立つことがあるという。下手をするとスナックふたりを滅亡させるかもしれない、と母親は言ったという。
ツカちゃんが現れた。若い女性をつれてきて、貸し切りにしてくれといい、勝手に表の看板を入れた。入り口には傘立ての甕を置いて入れないようにした。カウンターにはお札が10枚ほど扇状に広がる。よく見ると10万5千円だった。女はきれいな黒髪をしていたので、緑の黒髪から、ミドちゃんと呼ぶことに。彼女は幽霊だった。そして、あっちに行きたいというので連れてきたという。鎮魂しろといわれても、どうしていいのやら。接客ルーティンが安心させて鎮魂になっているのだろうね、と思っていると、ついにその時が来て、ミドちゃんは消えていった。
そらみろ、とツカちゃん。鎮魂したじゃないか、と。あんたは八百比丘尼だろうと逸子が聞くと、素直に認めた。佐渡あたりに生まれた。江戸時代に。300年前に。800歳まで生きなきゃいけないのに、幽霊が次々に居なくなると寂しいから、鎮魂はやめろと言っているのだった。
翌日、大型台風が来て店は休み。その翌日、店に行くと扉がなく、内部が大きく被害を受けていた。大変なことに。周囲の店はもう営業しているというのに、なぜ?これを機に廃業して引退しようかということも検討したが、改修して復活した。費用はヒデさんの寄付してくれた300万円と、他の人がしてくれた寄付でまかなえた。来るべき事態とはこのことだったのだ。
カトちゃんが新聞記事を持って来てくれた。実はスナックふたりは、以前、イトーくんという常連に11万円の寸借詐欺をされたという経験があった。若い常連でいつも千円のチップをくれた。計5回。そのイトーくんが店で緊急連絡を受け、実家で家族が倒れたので帰らないといけない、すぐに返すから11万円貸してくれと言った。貸したが、2度と来店しなかった。騙された。チップの5千円を差し引くと10万5千円の被害だった。
カトちゃんが持ってきた新聞記事には、18年前にあるスナックが放火により全焼した犯人が捕まったというものだった。糸瓜豊平(へちまとよへい)、35歳で、スナック詐欺の常習犯だとのこと。少額のチップで信用させ、10万円前後を騙し取っていたが、金を引き出せなかった腹いせか、放火を行ったらしいとのこと。糸瓜の糸からイトーか?あのイトーくんか?
これは厄払いなのかどうか。もし、お金を貸さなかったら、10万5千円の被害にはあわなかったが、火をつけられていたかもしれない、と。
ツカモト:ツカちゃん、30~40歳ぐらい、この9月に初めて来店、センボンサイギョウガサ(馬糞に生える幻覚キノコ)
イトーくん:11万円の寸借詐欺
Posted by ブクログ
今までの著者の作風とは違うなぁ。
とはいえ、不思議な話という点では繋がるのか・・・
さて、スナックの面々が個性的でこんな常連さんがいる場所なら行ってみたいと思う、ほのぼのとした昭和のドラマのようでした。
新聞連載で読むには面白いストーリーかと。
最新今一つ面白くない新聞連載を読んでるからの比較。