【感想・ネタバレ】論文捏造のレビュー

あらすじ

科学の殿堂・ベル研究所の、若きカリスマ、ヘンドリック・シェーン。彼は超電導の分野でノーベル賞に最も近いといわれた。しかし2002年、論文捏造が発覚。『サイエンス』『ネイチャー』等の科学誌をはじめ、なぜ彼の不正に気がつかなかったのか? 欧米での現地取材、当事者のスクープ証言等によって、現代の科学界の構造に迫る。なお、本書は内外のテレビ番組コンクールでトリプル受賞を果たしたNHK番組を下に書き下ろされたものである。

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Posted by ブクログ

「ノーベル賞受賞確実」と言われた物理学界の若きスターが起こした「史上空前」の論文捏造事件がなぜ起きたのか?どうやって周りは気づいていったのか?が丹念に描かれ、一本のサスペンス小説のような面白さです。
研究内容や物理分野の研究の世界の特徴などはわかりやすくサラッと書かれているので、学術研究の分野のことをよく知らない人にも面白く読めます。
時折ニュースで騒がれる論文捏造事件が起きる背景を知るのに絶好の1冊。
なお、この捏造論文のアイディアが実は実現できるようだ、ということが最近になってわかってきたそうです。論文自体は捏造でも、アイディアとしては正しかったのかもしれません

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2020年11月28日

Posted by ブクログ

NHKで放送されたドキュメンタリー番組「史上空前の論文捏造」の
書籍化である。

科学の世界に彗星のごとく現れた若き研究者ヤン・ヘンドリック・
シェーン。世界中の優秀な科学者が終結するアメリカ・ベル研究所
を舞台に、彼は超伝導の世界で次々と斬新な研究結果を発表した。

物理学上の大発見だった。いくつかの科学賞を受賞し、ノーベル賞
受賞も確実視され、様々な研究機関からの好待遇でのヘッドハン
ティングも行われた。

しかし、有名科学誌に掲載された彼の論文を元に、多くの科学者が
再現実験を試みるが誰一人として成功しない歳月が続いた。

そんななか、とある研究者の元に匿名のメッセージが届く。「これは
あなたへの宿題です。シェーンのふたつの論文をよく見て下さい」。

決定的な瑕疵だった。ふたつの論文に掲載されていたデータは、
そのノイズまでもが完全に一致していた。

まるでミステリーを読むようなノンフィクションである。疑惑を持たれ
ながらも、何故、3年もシェーンの不正が発覚しなかったのか。

共同研究者に名を連ねた著名な研究者の権威、企業が運営する
研究所と特許や利益との関係、再現実験が不成功に終わった際
の研究者たちが論文の整合性を疑うよりも「自分の技術が悪い
のではないか」と思う性善説。

この論文はおかしいのではないか。そう思ってもそのおかしさを
明確に立証できなければただの誹謗中傷になってしまうんだよね。

そうして、一番難しい問題は「誰が責任を負うのか」という点。この
シェーン事件は責任を負い、研究の世界から身を引かざるを得な
かったのはシェーン本人のみだ。

論文を掲載した科学誌「ネイチャー」「サイエンス」の両誌には
論文を精査する能力がなく、組織には自浄作用が働かない。

研究室で長時間を過ごしていたシェーン。しかし、誰も彼が実験を
している姿を見たことがなかった。異なる論文への同じデータの
掲載が明るみに出ると「間違って掲載した」とあさっりと言う。

何かに似ていないか?そう、記憶に新しいSTAP細胞問題だ。

尚、シェーンはベル研究所を去った後、故郷のドイツの田舎町で
暮らしていると言う。

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2017年08月21日

Posted by ブクログ

最近起こった論文捏造問題に酷似している、
ヤン・ヘンドリック・シェーンの不正を取り上げていると、
インターネットでみかけて。

NHKの番組を画像を書物に落とし込んだものながら、
素人でもわかるぐらい論文内容の超伝導を易しく説明してあり、
インタビューした人物やその場の雰囲気が伝わってきて
非常に面白かった。

ベル研究所と共同研究者バートラム・バトログの高名さに目がくらみ、
画期的な発見と信じ込んで興奮し、
追試できない自分たちの技術の無さに落ち込み、
実験のノウハウが企業秘密になっているのではないかと疑心暗鬼になり、
誰かが追試に成功したらしいという噂話をメールで飛ばし合い、
画期的な実験マシンがあると思い込んで「マジックマシン」と名付けたり、
論文内容に疑問を抱くようになってからその「マジックマシン」が壊れたという噂に踊らされたり、
世界の研究者さんたち、あなたたちオレオレ詐欺にだまされている被害者とどこが違うの?
という人間ドラマとして。

また、ミステリーとしても非常に面白かった。
サンプルを見せてもらえないベル研の同僚が感じる疑念。
研究者にとって子供とも言えるサンプルを全て捨ててしまっているらしいという噂の中、
新しい方法で超伝導の新記録を樹立したという論文が発表され、
その方法が納得できないと多くの人に広がる疑惑。
マジックマシンと思われていた実験装置を他の人が使うことになり、
シェーンが実演してみせたが実験は失敗し、しかも彼の技術が拙いことが露見。
その直後、二人きりで車で移動するシェーンと高名な共同研究者。
矢継ぎ早過ぎる論文発表、またその中身の理論と美しすぎるデータに対する疑問をもとに、
研究所内で行われたシェーンを招いてのセミナー。
セミナーで納得できる説明がなかったことによるの内部告発、
そして本人に直接確認するという研究所上層部の失態。
不正ではなく間違えてしまったというシェーンの申し開き。
ベル研究所の研究者からの他の大学への告発、
そしてデータの使い回しに気付いた他大学からベル研究所を含む関係各位への告発、
調査委員会の設立、ついに捏造と結論付けられた論文。
正直、そんじゃそこらのミステリーよりも面白かった。

最近、日本での論文捏造が問題となった研究についても、
税金が使われていたことに怒りを感じたが、
このシェーンの論文捏造には世界各国で10億円以上の費やされたことともに、
若い研究者たちの時間とキャリアが無駄になったことにも、
問題の大きさを感じた。

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2015年03月15日

Posted by ブクログ

12年前に発覚した,科学史上最大の捏造事件。その経緯と背景,科学の抱える課題について,綿密な取材に基づいて描き出した好著。
現在日本を騒がせている事件との共通点の多さに改めて驚く。若き研究者,権威ある科学者との共著,有名研究所,メディアへの露出,再現実験の不首尾,同業者からの告発,図の使い回し,「単純なミス」との弁解,インパクト重視の学術雑誌の問題,熾烈な研究資金獲得競争,行き過ぎた成果主義…。違っているのは,分野が捏造の起きにくい物理系(超電導)であったこと,三年の長きにわたって発覚しなかったこと,その間ヘンドリク・シェーンは『ネイチャー』と『サイエンス』に計16本もの論文を載せていること,それと,弁護士なんかは登場しなかったこと,くらいだろうか。
12年も経って,なぜ教訓が活かされなかったのか。幸い今回は発覚が早かったが,それはあくまでもネットにおける匿名研究者たちによる検証が功を奏した恰好と思われる。もっと未然に防ぐ方法もあったのではないだろうか。今度の騒動が落ち着いた頃,本書やそのもとになった番組のような形で今一度総括があることを,一国民として期待している。

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2014年05月13日

Posted by ブクログ

学術雑誌を「世界に関して発見された真理を報告する場」「そこに掲載された論文はすべて絶対に正しいものであるべき」と見る(素朴な?)見方は研究者としては賛同できませんが、それ以外の点については非常によく書けている本だと思いました。

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2014年04月26日

Posted by ブクログ

STAP細胞が話題になっていたから読んでみたけど非常におもしろかった

また、今回の小保方騒動と類似している点も多く見られたように思う

組織としての問題
大学の教育体制
悪意の有無
再現性
などなど、今回の騒動を考える上で重要な要素が多く含まれているのでSTAP細胞について興味を持っている人にはぜひ読んでほしい

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2014年03月16日

Posted by ブクログ

世紀の変わり目に起きた,一人の若手研究者による大規模な捏造事件を追ったドキュメンタリー。この事件は解決までに3年を要した。なぜこんなに時間がかかったのか。どうすれば捏造は防げるのか?
エピローグでは執筆の動機について書いてある。急速に変化する世界の中で,科学は,あるいは我々はどのように「わからなさ」に対処すればよいのか。この本の内容は科学界だけにとどまるものではない。

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2013年01月26日

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ネタバレ

タイトルの通り,論文が捏造された事件を追ったノンフィクションです.
捏造は超伝導の開発に関する研究で起きました.
超伝導とは電気抵抗がほぼゼロになるという夢の様な現象で,砂漠地帯に広大な太陽光発電などを作れば,超伝導の技術で世界中にロスなく電気を送れるのです.その砂漠地帯は潤い,世界の電力は非常に安価になるでしょう.
問題は,超伝導はマイナス269℃というとてつもない条件で発見されたことにあります.世界中の研究者がその温度を上げるのに取り組んだのは想像に堅くなく,その一連の研究の中で「捏造」は起こりました.

具体的にいうと,捏造を犯したシェーンというドイツ人科学者の開発した,画期的な方法が技術的にとても難しく,同じようにやっても誰も成功しなかったのです.世界中の技術者が多大な費用と時間とエネルギーを使い,その実験に取り組みました.しかしその工程が実際には不可能であり,成功したといって理論値からデータを作り出していたのでした.

この本のポイントは,なぜ捏造が発覚するのにこれほどの長い期間がかかってしまったのか?という点にあります.
同じ研究者から見て,追試実験がうまくいかないとき,「自分の技術や方法が間違っているのではないか?」と疑う気持ちは痛いほどわかります.
「…たかだか数カ月程度では自分のやっていることに確信を持てるようにはならないと思います」と専門家の話が引用されています.
そしてその専門家が「鼻薬」と呼んでいるような,常識的にはできないことにちょっとしたことでできるようになる最後のひと工夫を,シェーンは知っていたのだろうと,皆思ってしまったのです.シェーンはとても優秀で,「実験の限界を超えた」のだと信じたのです.

さらにシェーンの所属していた「ベル研究所」が,世界で最も有名な施設であったことと,最高の科学者の一人であるバトログという科学者が参加していたことが,その論文の信ぴょう性を保証していました.

もう一つ,「確証バイアス」という言葉がありますが,ひとたび相手の言うことを信じこんでしまうと,矛盾や疑問が出てきても,こちらで理屈を作り正当化するようになるというものです.

一方で,多くの捏造論文を載せた「ネイチャー」や「サイエンス」はどういう態度をとったでしょうか.
どちらも同じような対応でしたが,かれらのような科学ジャーナルには,「そもそも捏造を確認するようなことはできず,責任の範囲ではない」と断言します.
つまり,不正のチェックはしていないのです.
そして「これらのジャーナルに掲載されている論文が100%正しいと信じてはいけない.あくまでも問題の部分的な解釈を提示するものであり,いろいろな解釈が可能である」とも言います.
そうでであれば何を審査しているのでしょうか?
それに対しての回答は,「審査の目的は間違った論文を載せないために,著者のミスによる可能性に気づくことです.言ってみれば品質管理です.」

いやここまででも,数多くの気付きに満ちた内容です.

またシェーンのボスであるバトログは事件後のインタビューに答えて言います.
「科学者がベル研究所に来るということは,すでに教育を終えているのであって,もはや1人の独立した科学者なのです.」

う〜ん,自分に甘えがあるのか,共同研究における「責任」とはそういうものなのか?
私の持っているイメージでは,ボスは全体の進行具合や結果を鑑みて,指導や助言,提案などで全体の進行,成長を促す存在なのですが,根本的に間違っているのでしょうか?
今回は特殊なケースで,しかも責任がかからないための発言でしょうから,こういった話になるのだ,と信じたいです.

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2012年12月26日

Posted by ブクログ

タイトル通り論文不正についての話。
研究会では有名な研究不正の話が細かく書かれておりどのように生まれるのかどのように対策するのか述べられている。
学術の世界で不正はあってはならないもので考えされられる本であった。

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2024年03月19日

Posted by ブクログ

平成史ブックガイドから。これは、物語的にハラハラする展開が楽しめる一冊。捏造が発覚した後の、当事者の発言が殆ど聞けなかったのは痛いけど、それはリアルワールドでは仕方ないことかも。これがもう、20年近くも前の話。以降、加速度的に細分化を続ける研究の世界だけど、意外にも捏造乱発は食い止められている?自分が知らんだけかもしらんけど。

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2021年09月10日

Posted by ブクログ

この本が書かれたのが2006年、事件は2000年頃起こって、STAP細胞の問題が起こったのが2014年。二つの事件、構造がそっくりだというのに、まず驚いた。
物理学という馴染みのないものも、とても解りやすく書いてあり、ドキュメンタリーだけども、ミステリ小説のような面白さがあった。
何故捏造事件は起こったのか、その解答に向かって、数々起こる疑問を探っていく。読み手がソコを知りたいという所を、しっかり調べてあり、読むのが止まらなかった。

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2020年01月27日

Posted by ブクログ

NHK制作担当者による、ベル研の空前絶後の捏造乱発の過程と、その後の人々を追うドキュメンタリー。

高温超伝導(本書に沿った記載)において、2001年から誰もなし得ないと予想されていた温度限界を、次々に突破していった、アメリカ・ベル研究所の新進気鋭の研究者ショーン。一流紙に載ったデータはすべて捏造だった…。

物理学という、ちょっと特殊ともいえる研究の世界を描くため、用語や状況を非常に噛み砕いて書かれており、理系ならずとも理解のし易い文章である。今著者の経歴を見たけど、東工大卒?その割には科学的なツッコミが浅い気がするが…。

本編はテレビ制作人らしく、全てにおいて場所や人物の見た目を描写するところから始まる。ビジュアルを想像しやすい、非常に参考になる書き方である。お陰で各章各セクションの導入の理解が素早く出来る辺りは素晴らしい。

また本書の良い点は、とにかく取材取材で世界中の関係者に直に会っている。会った順に記載しているため、ドラマチックに感じるのだ。一つ前に読んだ本とは大違いだ。

また、論文のレフェリーなど、本来ならオープンにされるべきでない部分まで突っ込んで取材しているのも交換が持てる。

ただし、「夢の後」と題して、ひたすら「科学は相互チェックが働かない」とグダグダ愚痴を述べている部分は、ほとんどが本編中に記されているもので、駄長・冗長にしか感じなかった。そこで意味がある文章は「成果主義とは何か」ということだけだ。

また、星をひとつ減らしたのは、NHKという看板であり盾をかざして取材し、関係者の批判"のみ"を繰り返すに終わっているところは、大いに不満だ。

STAP細胞の時もそうだったが、本当に2001年前後のNHKは、ファン・ウソクのヒトES細胞や、件の高温超伝導について、批判的に報道してきたのだろうか?

筆者は「科学誌にチェック機構がない。おかしい」と述べるのなら、NHKを始めとしたマスコミにだってチェック機構がなければおかしいのだ。専門知識が無いというのを盾にするなら、科学誌の編集だって同じだろう。チェルノブイリ関係でメチャクチャな報道や特集をしまくったNHKの反省は一切感じられない。

その部分の反省があれば☆5である。

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2016年12月15日

Posted by ブクログ

NHKディレクターが自ら手がけたドキュメンタリー番組を書籍化したもの。2002年に発覚した名門ベル研究所の研究員シェーンが起こした捏造事件の経緯と関係者へのインタビューで構成されている。ドイツ生まれの科学者はベル研究所に入ってから二年後立て続けに画期的な実験結果の論文を発表する。これまでにない高い温度での超電導が可能になったと。ノーベル賞クラスの内容に、世界中の研究者が追試を行うがだれも再現できない。次々に更に高い温度を更新していき、多い時には8日に一本の割りで論文を発表していくシェーン。そんな彼の栄光と没落は映画のようだ。番組は某動画サイトにある。

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2016年09月21日

Posted by ブクログ

日本はアメリカの10年後ろを走っているとか言われているけど、シェーンの超電導についての捏造から約10年後に小保方さんの問題が起こっているのは偶然ではない気がします。
捏造には科学と経済の結びつき、捏造の立証の困難さ、分野の細分化と色々な問題があるが、
特に経済との問題については受け入れるしかないと思う。特許などの権利が確立された以上それを昔に巻き戻すことはできない。であるなら、やはり学問の自由のことも考えて、事後規制で対応するしかないように思います。

#読書 #読書記録 #読書倶楽部
#論文捏造
#松村秀
#2016年56冊目

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2016年06月19日

Posted by ブクログ

ベル研究所のシェーンによる、有機物+酸化膜による超電導の発見。サイエンスやネイチャーへの何本もの論文掲載により、世界中の研究者が熱狂したが、実験データも証拠サンプルも提示されなかった。。

小保方さん事件より前の2002年に発覚したこの事件について、丹念に掘り起こしたNHKのドキュメンタリーの詳細書籍版。
非常に読みやすい。

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2016年02月06日

Posted by ブクログ

※以前個人のブログで書いたのと同じ内容です。
この本は,高温超電導において次々と画期的な,世界を一新するような成果をあげたと論文を書き続けた人物の登場から,その成果への疑惑が強まり,そして捏造であると断定されるまで―のみならず,なぜそのような事が起こったのか,それを食い止めるための仕組みがなぜ機能しなかったのかを関係者へのインタビューを元に構成したものである.



 まず前提として高温超電導とは何かについてごく簡単に書いてみる.電気が流れるときには抵抗が存在する.この電気抵抗は発電所から家庭・工場へと電気を運ぶ際にも発生し,そのロスは無視できない量になっている.

 この電気抵抗が,超電導体では0となる.他にも多くの事が起こるのだが,問題はこの超電導が発生する温度が極めて低温であることだ.しかし,これが比較的高温でも発生する物質が存在するとしたら,そのメリットは計り知れない.

 この本で取り上げられている「捏造」は,その高温(といっても,氷点下130℃と一般的な感覚では低いのだけれど)超電導についての研究である.



 実際にどのように自体が推移したのかは読んでもらいたい.私はこの本を読んで不正の舞台となったベル研究所の対応と,不正を行った研究者の言動への興味を持った.研究者の不正に対し,研究所はどこまで責任を負うのか.共著者に責任はないという結論は正しいのか.特に,高温超電導の研究で以前から有名であり,この研究において「彼が共著者なのだから」と多くの研究者が信じる要因ともなった人物が,全く何の責任もないと言えるのだろうか,と.

 また,不審な点を指摘された際に「これはミス」「間違えた」と繰り返し,論文の元となった重要なサンプルを「なくした」といい,大学時代から捏造をしていたのではと疑われているこの研究者―彼は,何を思ってこのようなことを起こしたのだろうか,と.

 この本を読んで感じることは他にもある.著名な学術誌はなぜこの捏造を見抜けなかったのか,多くの世界の研究者が疑念を抱きつつなぜ捏造だと指摘する声があがらなかったのか.

 読み終えた時に,今,我が国を騒がせているあの事件が浮かぶだろう

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2015年07月27日

Posted by ブクログ

「捏造の科学者 STAP細胞事件」の中で紹介されていた本。STAP細胞から遡ること10数年、規模さえ違えど全く同じような事件が発生していたことに驚いた。科学は常に真実であるべきである。将来に渡り二度と同じ過ちは繰り返してもらいたくない。

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2017年09月26日

Posted by ブクログ

歴史は繰り返すというか、学ばないというか、近年話題の事件と酷似している点が多いのと、ジャーナル誌の役割については驚いた。
結局捏造した意図は何だったのかわからないままなのが(本書とは関係なく)気になるところ。

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2015年02月26日

Posted by ブクログ

もっとジャーナリスト視点の学会&研究者叩きみたいな論調かと思いきや、著者の(第三者目線で)の取材姿勢は、(取材される側に近い世界に生きている自分から見ても)フラットでフェア。まあ、なんというかこの世界...「同じようなことが何度も繰り返されている」感は否めない。

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2014年12月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

自分自身が清くはないし、人間社会で不正は決してなくならないとは思う。しかし、世界中の研究者を驚嘆させた発表、しかも相次ぐ発表論文の捏造がここまでまかり通るものなのか。論文を重ね重ね掲載した科学ジャーナルの無責任な態度には憤りを感じるが、誰にも増して共同研究者がまったくノーチェックだというのにあきれる。リーダーのバートラム・バトログさえ一度たりとも実験成功の世紀の瞬間に立ち会っていない。実験の生データはなく、サンプルはすべて処分されている。これで不正を否定してもむなしい。

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2014年09月25日

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超電導の分野で次々と画期的な成果を挙げ、将来のノーベル賞受賞は間違いないとされた米国ベル研究所の若きエース、ヤン・ヘンドリック・シェーン。彼の画期的な発見、有機体に金属薄膜を付着する事で実現する「高温超電導」の追試に、世界中の科学者が参加するが、誰一人として再現できなかった。徐々にシェーンの発見には疑惑が浮かび上がり、最終的には全てが実験を行わずに「捏造」された結果である事が判明した。
権威ある研究機関の権威ある研究者がチームリーダーとなり、そのチームで、これまで無名だった若手研究者が画期的な成果を発表する。しかし、実際には実験が行われておらず、実験ノートも存在しない。図表は過去の別実験の使い回し。周囲の研究者も、研究機関とチームリーダーの名前で、この研究成果を信用してしまう。STAP細胞の捏造事件と全く同じに見える構図。正直驚きを隠せないが、この前例があったからこそ、STAP細胞の捏造は数カ月で発覚したのだろう。

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2014年08月20日

Posted by ブクログ

ベル研究所において2002年に発覚した論文捏造事件を題材にしたものです.今回のSTAP細胞事件(まだ真相が完全に解明された訳ではありませんが)とあまりにも共通点が多いように感じます.

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2014年08月11日

Posted by ブクログ

ある国の超一流研究所からそれまでの常識を覆すような発見が発表された。ノーベル賞級だとはしゃぎ、いろんなところで発表する上司。世界中で追試は成功しないが、それはその部下の実験技術が高度だから、と言われている。まさしくどこかで見た光景、ではないか。
雑誌論文の図が別の論文の図とあまりに類似しすぎていることがわかり、結局流用だったことが判明する。ちゃんとした実験ノートは存在せず、実験データの真偽は確定できない。本人は不注意によるミスだと言う。これまたどこかで見た光景、である。
栄光と転落までの過程は一気に読んだ。面白い。
ただ、最終章の説教めいたまとめは必要なかったのではないか。

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2014年06月11日

Posted by ブクログ

tvの方で見ているかも、NHKで放送されたものの文書化です。2000年におきたアルミ酸化物による超伝導の論文不正の事が書かれています。stap細胞の事もあって読んでみようと、もう、そっくり同じ事が起きた感じですね。賢い頭が、人間、学習しないみたいな、なかなか、科学も大変、論文公表する前に内部討論があってもよいのでは????

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2014年05月28日

Posted by ブクログ

常温超伝導のシェーン事件を扱う。

彗星の如く登場した物理界の若手スター。
サイエンスやネイチャーに多数の論文を投稿。
しかし、世界中が追試を試みるも成功する者はいない。
やがて、グラフの使い回しという論文不正が告発され、生データや実験ノートがないことが明らかになる。

捏造が発覚したとき、ベル研調査委に対するシェーンの主張は、「ミスはあったが、意図的な不正行為はまったくやっていない。自分はたしかに実験を行い、実際にデータも得ていた」(同書221-222頁)

共著者は不問に付され、シェーンのみ懲戒解雇。出身大学のPh Dも剥奪。

学問の自由のためには、基本的に性善説に立つ必要があるが、競争、特許、国家予算が絡むと、どうしてもおかしなことになってくる。

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2014年05月12日

Posted by ブクログ

物理学の世界、それもベル研を舞台にした一大捏造事件の顛末を丁寧に追ったルポタージュ。著者とそのチームの仕事には敬意を払います。物理学に遅れること数年で、自分の専門界隈でも捏造がらみで色々起きていて、そのパターンの一致にもめまいを覚えたりもします(スーパー測定器とか天才的な実験屋とか)。でも、でもなー的なところも。

なんかね。捏造が発覚するまでに数年もかかった!科学界はどうなってるんだ!時代の変化に科学のシステムが追いついてないんじゃないか!的なことで盛り上がってるんですが。でもね、警察組織も司法組織も持たない科学社会が、それこそ真実を追求するというその姿勢だけで捏造を数年で明らかにしたわけですよ。それは、科学という方法論がきちんと機能していることを示しているんじゃないですかね?「数年もかかった」っていうけど、どんな発見だって「事実」として確立されるにはそれくらい時間かかるでしょ、科学の世界では。「世間はそうは思ってない」って言うなら、そういう科学のありようを伝えてきてないジャーナリスト様たちの責任はどうなの?そもそもジャーナリズムの世界はそんなに公正明大にやってるの?君たちの領域では怪しい報道について事前チェック機能が万全に働いていているの?闇に葬られた問題は数年以内に業界の良心で暴かれているの?とかいろいろ。

しかしこういう自分の感想って、結局は自分のアイデンティティが攻撃されたことへの反発に過ぎないなーということも分かっております。ただなー、それが「科学」というやり方がヌルいからだって批判されると、いやそれは違うんじゃないかと言いたくなる気持ちがね、どうしても。

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2013年09月27日

Posted by ブクログ

研究者倫理についての理解するための一冊目

reserch ethicsではなくreserch integrityに焦点を絞りたい

読書苦手ですが、すらすら読めるし面白い内容でした
興味あるないようだからかな?

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2012年11月09日

Posted by ブクログ

ノーベル賞という存在が裏目に出るとこのような捏造が生まれてしまう。またノーベル賞だけでなくベル研究所のような企業に運営されているところだと科学以外のプレッシャーや圧力がかかり、研究者の純粋な科学への追求が出来ない構造となり得る。
このように大きなことでは無いかもしれないけれど、このようなことは研究者だけでなく、一般の会社勤めしている人にもあてはまるのではないだろうか。自分の成果を認めてもらいたい、また、みんなにカッコよく見せたい、そんな一心から、ついいろんなことを着飾ってしまうことも、一つの捏造では無いだろうか。ましてやSNSで良いところでアップして公開することも同じ心理だろう。

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2021年04月29日

Posted by ブクログ

例のなんとか細胞絡みで読んでみた。
最初は捏造なんてすぐ分かるだろ、とか思ってました。この世界だと再現試行するだけで年単位で時間が浪費されるのね。。。目からウロコ。

結局、シェーンがなぜ捏造したのかは分からず。調査委員会の追求にも全く堪えることもなく。モヤモヤする。

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2014年05月31日

Posted by ブクログ

ネタバレ

有名科学誌に掲載された、それまでの常識を覆すような「コロンブスの卵」的大発見が世間を驚かす。
舞台はかつては「科学者の楽園」と呼ばれた名門研究所。
登場人物は、それまで目立った実績のない若手研究者、野心満々の共同研究者、一発逆転を目論む研究所上層部。
しかし、一向に追試は成功せず、世紀の大発見はほころびを見せ始める。
大発見の興奮が醒め、よくよく考えてみると、「神の手」によってなされた実験が成功した瞬間を見たものは本人以外おらず、実験ノートは存在しない。成果物も行方しれず。再現実験と称する実験データには、本来であれば数十年がかりのはずの結果がしれっと載せられている。本人の実験スキルや知識もどうも怪しい。
遂に発覚した実験データのコピペが動かぬ証拠となり、研究所も重い腰を上げ、徹底的な調査が行われる。
関係者は“実験データの取り違え”を主張して取り繕おうとするが、結局「世紀の大発見」は跡形もなく崩壊する。
当事者は研究所を追われ、ついでに、学生時代からの捏造癖までも疑われ、学位を剥奪される。

途中までどこかで聞いたことのあるような話ですが、これは、本書で描かれる、2002年にアメリカで起きた論文捏造スキャンダルの顛末。
我が国では、スキャンダルにまで独自性がないのかと、なんとも言えない気持ちになりました。
(いや、割烹着だの釈明会見で着ていたワンピースのブランドのといったワイドショー的要素は、オリジナリティがあるか)

考えてみれば、研究者の良心に依拠する科学のあり方は変わらない一方、科学を取り巻く環境が変化したこと(内的には極端な専門分化、外的には国家プロジェクト化や行き過ぎた実績主義)は世界共通の病理であり、科学者とて功名心があることを併せ考えると、スキャンダルのあり方も世界共通なのかもしれません。

本件の捏造者がかくもハイリスクな論文捏造にあえて手を染めた動機については本書では特に語られていません。
研究所上層部は発覚までの間は“成果”を最大限に活用して組織の生き残りを図り、発覚後も共同研究者の多くはお咎め無し、研究責任者とて致命傷までは負わず、捏造者本人に全責任が被せられたという結末からは、本書で捏造者の友人が述べているように、陰謀論に与してみたくもなります。
しかし、捏造者が「自身の思い描いた実験成功の空想を、頭のどこかで現実に起きたこととして置き換えてしまっていたのかもしれない」(本書p206)というのが、何かヒントになるような気もします。

本書は、NHKのドキュメンタリー番組が元になっているそうで、平易で、構成も優れており、まさに良質なドキュメンタリー番組をみているように、一気に読めます。
とくに、科学者たちが、「世紀の大発見」を信じてしまう心の動き(そしてそれは無理もない)を描くくだりは興味深く読めます。

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2014年05月07日

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