あらすじ
1925年、中国・上海で起きた反日民族運動を背景に、そこに住み、浮遊し彷徨する1人の日本人の苦悩を描く。死を想う日々、ダンスホールの踊子や湯女との接触。中国共産党の女性闘士芳秋蘭との劇的な邂逅と別れ。視覚・心理両面から作中人物を追う斬新な文体により不穏な戦争前夜の国際都市上海の深い息づかいを伝える。昭和初期新感覚派文学を代表する、先駆的都会小説。
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Posted by ブクログ
暗く淀んだ路地裏、花売りの声、豚の油の浮いた下水の匂い。刻一刻と変化していくアジアの情勢。上海の息づかいと歴史の息づかいが見事に調和している。
Posted by ブクログ
1920年代の上海。欧州列強に加えてアメリカが中国でのビジネス拡大を狙い、日本もまたそれに対抗する。そしてまた、革命を逃れたロシア貴族が滞留。現地の中国人の多くは、国内外の資本の下で厳しい労働条件に苦しみ、共産党が勢力を伸ばす。その共産党が外国資本に打撃を与えるべく罷業を計画すれば、それを中国の資本家が陰で支援したりもする。街には日々大量の物資が船などで出入りし、それにともなって大量の廃棄物・排泄物がでる。それらがドブとなった運河で発酵し常に泡立つ。著者は、実際にこの時代の上海を訪れ、ほぼ同時代にこの作品を書いている。それだけに当時の「魔都」上海に集まる人びとが生むものすごいパワーとそれらが淀んで渦を巻く、そんな暑く湿った空気感が生々しく伝わってくる。そうした中でこの街に流れてきた日本人たちの様子も様々に描かれ、この時代の上海を知る助けとなった。