【感想・ネタバレ】家庭用安心坑夫/猿の戴冠式のレビュー

あらすじ

【家庭用安心坑夫】
夫との平穏にみえる家庭に漠然とした不安を抱えた専業主婦小波が、ある日、日本橋三越の柱に、幼いころ実家に貼ったはずのシールがあるのを見つけたところから物語は始まる。小波はいまも実在する廃坑テーマパークに置かれた、坑夫姿のマネキン人形があなたの父親だと母に言い聞かされ育つが、やがて東京で結婚した彼女の日常とその生活圏いたるところに、その父ツトムが姿を現すようになって……。

【猿の戴冠式】
いい子のかんむりは/ヒトにもらうものでなく/自分で/自分に/さずけるもの。
ある事件以降、引きこもっていたしふみはテレビ画面のなかに「おねえちゃん」を見つけ動植物園へ行くことになる。言葉を機械学習させられた過去のある類人猿ボノボ”シネノ”と邂逅し、魂をシンクロさせ交歓していく。
――”わたしたちには、わたしたちだけに通じる最強のおまじないがある”。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

『家庭用安心坑夫』
ところどころひらがな表記を使用してる。主人公、小波はおそらく受動的な人間。母の死、父の介護を半ば強引に強いられていた過去があり、それを記憶から抹消している。このひらがな使いは、成熟しきれてない小波を表現しているのかな、と感じた。

内容について。
コロナ禍によって仕事がなくなり、無意識下でけろっぴのシール、そしてツトムの幻影を見始め、そこから過去に囚われ、過去に向き合う為に実家に戻るという話運び自体は、既視感が否めない。
だが、そのツトムが廃坑テーマパークのマネキンで、昔、母親から父親だと言われて育ったというエキセントリックな設定が斬新で良い。
前半の少し不穏な空気から、小波がツトムを盗もうとする展開以降は、バカみたいなドタバタ感と不穏さが同居して、面白く読んだ。盗んだ後の謎のおじいとツトムとの鍋での団欒シーンは、バカバカしさすらあって良い。

母が作った虚像に向き合うも、やはりそれは虚像でしかなく、自分自身と向き合ったとはならない。ラストやや後味の悪さを感じ、そこも僕の好みだ。

個人的には、合間に挟まれるツトムの話が、もっと小波の話とあざといぐらいリンクしちゃっても良かったんじゃないかなと感じた。あの塩梅の理由もなんとなく分かるが。

『猿の戴冠式』
好みとしては、『家庭用安心坑夫』より好きだったかもしれない。
読み始め、なんて変な事に挑戦してるんだろう、と驚いた。元実験体とされていたボノボを語り手に据えるなんて、思いついてもなかなか出来ない。いや、そういった小説は存在するのかもしれないが、僕は知らない。この作家さんは、だいぶチャレンジャーさんだなと感じる。

話は言ってしまえば、とある問題を起こした競歩アスリートが、幼少の記憶の片隅にいた、実験台のボノボを自身と重ね、少しだけ前進するだけの話だ。
これを、まずボノボのシネノ目線、そしてしふみ目線にグラデーションしていく話運びも面白く読んだ。双方の語りの中、二人がシームレスに重なり、シネノなのにしふみで、しふみなのにシナノになる所など、集中して読んでないとこんがらがりそうで読むのに多少苦労したけど、僕は素直に凄いなと感嘆した。

ラストの盛り上がり、だいぶ高揚しながら読んだ。二人が並走し、「ありがとう」「どういたしまして」の場面、素直に熱い。勿論これはしふみの妄想の中での話なのだが、ここに至るまでの文章の密度も濃い為、しふみの混沌とした感情の渦の中に入り込みながら読み進められた。
すこーしだけの前進。僕の好みだ。

ただ、小砂川さんの作品はまだこの2作しか知らないが、設定の奇抜さとは裏腹に、物語自体はとてもありふれたものだ。これは別に良い悪いとかではなく、ここにもう一つ真新しい視点が欲しいなぁ、と読者として欲が出てくるのは確か。

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2026年06月19日

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