あらすじ
グリム童話が不思議に交叉する丘の上の家。"姉がひとり、弟が二人とその両親"――嫁ぐ日間近な長女を囲み、毎夜、絵合せに興じる5人――日常の一齣一齣を、限りなく深い愛しみの心でつづる、野間文芸賞受賞の名作「絵合せ」。「丘の明り」「尺取虫」「小えびの群れ」など全10篇収録。
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Posted by ブクログ
1967~71年に執筆された10作品を収録。65年の『夕べの雲』と比べると、自然の描写が少ないように思われたが、それだけ周囲の開発が進んだということだろうか。長女結婚間近の日常を綴る表題作が最も読みやすく、最も印象深かった。
「静物」や『夕べの雲』に登場した小道具やエピソードが時々再登場していて、気づいたときは「おっ」となる。そして、時の移ろいが心に深く入り込んでいく。
温かな家庭
本の根底に流れているものがとても丁寧な暮らしを営む温かな暮らし。読んでいるこちらまで善い人になって行くような貴重な暮らし。 昭和のとても丁寧な暮らしぶりが浮かびます。
家族のその後が知りたくなる本です。爽やかとは違う温かさを感じます。
Posted by ブクログ
1967年から71年にかけて発表された、著者の短編作品10編を収録しています。
長女の和子と、明夫、良二という二人の息子とともに暮らす家族のすがたがえがかれています。最後に収録されている「絵合せ」では、和子が他家に嫁ぐことがきまっている家族の一コマがえがかれていますが、それ以外の諸編でも、二人の息子の成長していくようすがうかがわれます。いつまでも変わることのないように見える、何気ない家族のひとときのなかにも、意識に上ることのない無数の変化をはらんでいることに気づかされます。
「星空と三人の兄弟」や「さまよい歩く二人」では、家族の日常の出来事を、グリム童話の話になぞらえつつ語られているところが印象的です。著者にその意図が明確にあったのかという点については疑わしいものの、ゆっくりと、しかし確実に変化しつつある現実の家族のありようと、永遠に変化することのない物語のなかの時空が交錯しているかのように感じられました。