あらすじ
地球連邦軍に所属する〈雷獣〉迎撃小隊、通称「脳天気小隊」が遭遇したのは、「?」や「!」や「恥ずかしいもの」に見える不審な物体だった。やがてそれは敵対する水星軍の平行宇宙移動探索機マーキュリーと思考装置・迷惑一番であることが判明するが、その影響で小隊の五名は平行宇宙へと飛ばされてしまう……
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Posted by ブクログ
最初に断っておきます。
これから書く感想は、個人的なノートに書いたものを転載しているだけなので非常に分裂的な文章になっているが、オレの頭は正常である(はず)のでご安心ください。
神林作品の登場人物たちは皆、何かしらの独特なユーモア感覚を持っているのだが、この作品に登場するキャラクターは全員共通して「能天気」だ。この脳天気という性格、つまりは個人の希望的観測をポジティブな方向に考えられる人間と言うのは、神林作品では次第に強調されていくことになる。
例えば、初期作品では「踊っているのでなければ踊らされているのだろうさ。」と言う文に代表されるように、自身が何か別の存在に操られていたり、自意識は幻想であり、それらを悲観的な形で表現する話が多かった。
しかし、徐々にそういう状況下においても「それがどうした。」と、開き直り、自分が納得できるように力強く生きていくキャラクターが目立つようになってくる。
つまり、能天気なキャラクターが異常な世界に対する対抗策になるのだ。
今作もまさにその通りの話である。物語序盤で主人公たちは死ぬ。そして平行世界へ飛ばされ、迷惑一番と名乗るタヌキのぬいぐるみと行動を共にする。状況は実にシリアスである。生きるか死ぬか。自身の存在が危機的状況に置かれているにもかかわらず、主人公たちはギャグを連発し、面白おかしく、臆することなく、突き進んで行く。実に能天気だ。
特筆すべきなのは、主人公たちはなにも冗談を言って眼前の事実から目を背け、思考停止しているわけではないのだ。自分たちの置かれた現実を受け止め、考察した上で、能天気さを失わずに行動する。クーデターを起こし、銃撃戦をしている最中でさえもユーモアたっぷりな思考をし続ける。
結局、飛ばされた並行宇宙から戻ることは出来ないのだが、それでも自分の居場所を作り出し、生きていこうと決意できる強さは見習いたいと思う。
平行宇宙を移動できる迷惑一番から元の宇宙次元へと送られてくる情報は何の信頼性も持たず、SFを自動で書く機械を造っただけだと言うアイデアは面白いなと思った。