【感想・ネタバレ】桜島 日の果て 幻化のレビュー

あらすじ

処女作「風宴」の、青春の無為と高貴さの並存する風景。出世作「桜島」の、極限状況下の青春の精緻な心象風景。そして秀作「日の果て」。「桜島」「日の果て」と照応する毎日出版文化賞受賞の「幻化」。不気味で純粋な"生"の旋律を伝える作家・梅崎春生の、戦後日本の文学を代表する作品群。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

『幻化』
<空気のような狂気>
全体を通してユーモアなのか狂気なのか明確な線引きを拒む軽妙な語り口ですすんでいく。狂気があまりにも透明で空気のように紛れ込んでくるので、ふとするとわたしたちは知らぬ間にそれを呼吸している。
しかし知らぬ間に呼吸し得るということは、普段からわたしたちは同じ種類の狂気を呼吸しているということで、彼の語りはその正常と異常とが溶け合ったわたしたちのごく当たり前の世界を、ただ微視的に描き出しているということになるのだろう。

<おかしさについて>
「天才と狂気は紙一重」と言うけれど、梅崎春夫の作品を読んでいると「笑いと狂気は紙一重」のほうがしっくりくる。
おかしさとは笑えるものでもあり、狂っていることでもある。

<虚無と共にあること>
作品の最後で、主人公と偶然連れ合うことになったセールスマンは自分が飛び込むかどうかを賭け、阿蘇山の火口の周りをゆっくりと歩いていくのだが、その姿はぽっかりと空いた虚無の口のすぐ隣を、たどたどしい足どりで歩いていくわたしたちの姿そのものに思えた。
それを見て主人公は「元気をだせ!」と内心声をかけるが、ぐつぐつ煮えだす虚無が消えうせるわけじゃない。その横を荷物を抱え、汗を拭いながらなんとか歩き続けていくことしかできない。主人公も、わたしたちも、皆等し並みに。

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2021年03月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

『桜島』では、広島への原子爆弾投下を示す「大きなビルディングが、すっかり跡かたも無いそうだ」「全然、ですか」「手荒くいかれたらしいな」「どこですか」「広島」の淡々とした会話が印象的でした。玉音放送は「何の放送だった」「ラジオが悪くて、聞こえませんでした」「雑音が入って、全然聞き取れないのです」は、実際どこもがそのような状況だったのではないかと思わせます。『日の果て』はラストが鮮烈でした。『幻化』は、精神病患者の逃避行なのですが、死の影が絶えず付きまとっている印象を持ちました。

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2016年06月18日

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