あらすじ
環境問題はいまや世界的関心事であり、政治・経済・文化(倫理)・科学等の次元から論じられるが、〈自然対人間〉という二項対立を越える議論は数少ない。本書は「環境と人間は生物の進化の織りなすDNAメタ・ネットワークとして一体化する」という立場から、環境問題とは情報の肥大化した文化によって人間が危機に立っていることを意味するとして、コンピュータに希望を見る。生命をめぐる現代思想を軽快に駆け抜けて展開する論考。
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Posted by ブクログ
十五年ほど前の著書になるが、その意見の射程は十分今に届いている。
むしろある程度環境問題の内実や、”エコ”という概念が蔓延した現代だからこそ効果を発揮するように思う。
しかし、最後にコンピュータの環境問題に対する有効性が述べられているが、コンピュータを含む情報環境は当時から予想を上回る進歩をしており、その提案が現在どう現実味を帯びているかを詳しく計れないの、僕たちの知識がないせいか、それともこの提案の有効性が時代とずれてしまっているか。
それでもやはり確実なことは、環境に関して考えるのではなく、”環境問題”という曖昧な問題のあり方を問うべきであるということである。
そこには近代的思想の限界が見えてくる。
Posted by ブクログ
本書は、今から30年前に、環境問題を単なる科学技術的な問題や倫理的な問題として捉えるのではなく、現代社会が抱える根源的な思想的課題として捉え直すことを意図した、意欲的な著作である。
本書は、従来「自然対人間」の二項対立の構図で環境問題を捉える限界を指摘し、これを生物の進化や情報の観点から再構築する試みである。環境と人間は、DNAやメタ・ネットワークとしての生命の営みの中で一体化していると論じ、現代の環境危機は、情報の肥大化を伴う文化の発展によって引き起こされているとする。そして、この危機を打開しうる可能性を、コンピュータや人工生命といったテクノロジーの中に見出そうとする視座を提示している。生命をめぐる現代思想を縦横無尽に駆使しながら、環境問題への新たなアプローチを提示している。
佐倉は本書において、以下の点を強調している。
第一に、自然対人間の二項対立の克服
従来の環境議論が抱える「自然は守るべきものであり、人間は自然を破壊する存在である」という単純な二分法を批判し、人間もまた生物進化の産物であり、自然の一部であるという認識の重要性を説く。しかし、地球温暖化、オゾン層、酸性雨については、提起されている。
第二に、環境問題の根底にある情報と文化の問題
環境問題は、人間の文化、特に情報の肥大化とそれに伴う認知の歪みに根ざしているとする。情報は増え続ける一方で、その意味や行動への結びつきが希薄となるため、環境への危機意識が薄れがちであると指摘する。
第三に、DNAメタ・ネットワークとしての生命観
環境と人間は、DNAや遺伝子レベルから社会、文化、地球システムに至るまで複雑なネットワークとして相互に影響し合っているという「DNAメタ・ネットワーク」の概念を提示し、このネットワークが不安定化している状態こそが現代の環境問題の本質であると位置付ける。この発想がおもしろい。
第四に、ガイア仮説への批判と人工生命への期待
地球を生命体とみなすガイア仮説については、学術的な解明には限界があるとして批判的である。一方、コンピュータや人工生命(A-Life)といったテクノロジーによって、複雑な生命システムの理解や新たな関係性の構築が可能になるという希望を示す。これらのテクノロジーは、人間と環境の関係性を再構築する手がかりとなり得ると示唆されている。極めて、楽天的でもある。いつの時期に実現するかも不明だ。全く、違った方向で、生成AIが生まれている。人工生命が作るにはまだまだ遠い未来だ。提起されている論旨がやや抽象的・観念的に過ぎ、楽天的でもある。ある意味では、テクノロジー至上主義的でもある。
第五に、人間中心主義への問い直し
環境問題が最終的には「人間にとっての環境問題」に過ぎないことを認めつつも、その人間中心主義的な視点を生命の広範なシステムの中で相対化し、新たな倫理観を模索する必要性を説く。佐倉統は、環境問題を多角的に捉え直し、我々の思考の枠組みそのものに問いかけている。
本書は環境問題へ対して深い思想的再考を促すとともに、生命と情報の視点から現代の危機にアプローチする試みである。
Posted by ブクログ
[ 内容 ]
環境問題はいまや世界的関心事であり、政治・経済・文化(倫理)、科学等の次元から論じられるが、〈自然対人間〉という二項対立を越える議論は数少ない。
本書は「環境と人間は生物の進化の織りなすDNAメタ・ネットワークとして一体化する」という立場から、環境問題とは情報の肥大化した文化によって人間が危機に立っていることを意味するとして、コンピュータに希望を見る。
生命をめぐる現代思想を軽快に駆け抜けて展開する論考。
[ 目次 ]
第1章 見取図(現状;思想的背景)
第2章 環境(環境問題複合体における環境、あるいは人間にとっての環境;生態学の環境、あるいは人間を含んだ環境;進化論の環境、あるいは人間に織り込まれた環境)
第3章 エコロジー(二つのエコロジー;エコロジーと環境問題;さらばガイア)
第4章 人間(さまざまな環境世界;霊長類の環境;環境の誕生)
第5章 DNAと文化(DNAメタ・ネットワーク;分化の生物学;人間の文化)
第6章 コンピュータ(コンピュータと環境の三角形;コンピュータと生命)
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