あらすじ
彼女はあの年の3月、ビルの屋上から転落し、命を失った。17歳だった。瀬戸和志は留学生として再び香港に戻ってきた。その本当の目的は、かつて恋していた梨欣(レイヤン)の死の謎を追うこと。だが、和志の行く手にはさまざまな闇が口を広げていた。真の自由とはなんだ。志は実現できるのか――。中国返還直前の香港を舞台に、二度とない季節のなかで揺れ動く男女の群像を描く、痛切きわまる青春小説。(解説・瀧井朝世)
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Posted by ブクログ
語学学校で学んだ時の知り合いに、このお話の舞台になった返還前の香港を案内してもらったことがあった。林立する高層ビル群の中を、カイタック空港に降り立ち、物理的な制約の中で、人間がやりたいことをなんでもやろうとするとこんな社会になるんだなあと圧倒された。
しかしただの観光客という立場で、日本好きな友人に案内されながら見た香港の街が、まったく表層的なものだったんだなあということを、本書を読んで感じさせられた。
反日的な感情や、その根っこにある日本がやってきたことについての無知だけでなく、この島に渡ってくる移民たちがどんな生活をしているかといったことも想像力に欠けていた。
作者がこの時期の香港をテーマにしたいと思ったのは、とても共感できたし、出てくる登場人物の一人一人が、それぞれの社会的な位置に応じて、いかにもという感じでつくられているのも、ドラマをとてもわかりやすくしてくれていた。それぞれの立場でそれぞれに動いているのに納得させられた。それらの人物をこのように配して、複雑なストーリーをまとめきった力に感服した。
ただの留学生にすぎない男の子が解決しようとする「個人的な問題」の背景に、こうした「香港返還問題」という大きな社会をいかにからませるかという部分はとても野心的な試みで、最後の落としどころもなかなか良かった。