あらすじ
★★★第66回メフィスト賞受賞作★★★
「あなたに、この本を」
消えた秘宝と、
五層の物語が織りなす巨大迷宮。
主人公は「本」そのもの。
* * * * * * * * *
【あらすじ】
戦争が国土を焼いた。
大学生の青年エリメは戦火に巻き込まれ傷を負い、
遠い故郷の実家で目を覚ました。
療養で暇を持て余し、手に取った一冊の本。
それは「女王陛下に捧ぐ、王家の宝の在処」という
むかし実在した宰相の筆による小説なのだという。
軽い気持ちで読み始めたエリメを待っていたのは、
九天九地に比類なき物語の迷宮。そして、
歴史の砂に埋められた国家の秘密だった。
最奥へと誘う〈声〉がこだまする。
「あなたに、この本を」──
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Posted by ブクログ
化学専攻の院生である主人公は部分的に記憶を失った状態で目覚める。気晴らしにと渡されたのは『女王陛下に捧ぐ、王家の宝の在処』という五つの作中作が入れ子構造になった本だった。王家の宝の在処を隠した暗号書として存在する本から溢れ出すのは、消されてきた歴史と人々の想いであった─
メフィスト賞受賞作。
五つの入れ子構造、という点に惹かれて買ったけど"いま"が描かれていて重い気持ちに。
信仰を利用した宗教組織の侵略戦争、殺傷武器を作り出すこと、殺される者たちの苦しみ。科学と宗教は善きことを成して欲しいという作者の叫びが聞こえるようである。
月の神を信仰する拝月教を国教とする共和国。科学は発展したものの、いまだに市民は宗教組織の身勝手さに振り回されている。主人公が読むことになる『女王陛下に捧ぐ、王家の宝の在処』は当時の女王が宰相に命じて書かせた暗号書である。とある事件を調査するなか、宰相は吟遊詩人から『本泥棒と少女』という物語を聴き、少女たちは『ヒアヌビレの業績録』というとある軍人の記録を読み、軍人は『砂漠に残された真実』という歴史研究報告書を読み、そのなかでは『水神叙事詩』という詩が存在する。
入れ子構造の物語のなか、拝月教の起こりと欺瞞、殺され隠された人々の想いが一冊の本の表紙から溢れてくる。
471ページという厚い本だが、なんと344ページまでは「序」という構成。344ページを読み終わり捲った瞬間、美麗なフォントと飾りで現れる『女王陛下に捧ぐ、王家の宝の在処』というタイトルが、ここからはじまるんだ、という高揚を誘う。続く第1章から、やっと本作主人公の青年の王家の宝を追う謎解きがはじまる。ルームメイトたちを巻き込んだその謎解きが、主人公の失った記憶を巡る物語に絡みつき、やがて心身を破壊してしまう恐れのある"事実"へと到達する。
そこにあるのは人類の愚かさ、組織の孕む恐ろしさ、組織から切り離された信仰の救いたるもの。まさに"いま"の叫びである。
こう書くと難しそうな印象を持つかもしれないが、文章は平易でリーダビリティが高いので気後れすることはないと思う。が、平易なので「物語を描く物語」という点からすると文章のうつくしさが物足りなくはある。しかし本書の持つ「いまの現実」への叫び(読者のわたしはそうだと感じた)としての側面を強化する、広く読まれることへの期待、としてならこのままの文章でもよいのだと思った。