あらすじ
肉親との死別・愛の喪失・転勤・浪人等々、日ごろ馴れ親しんだ対象を失ったとき、その悲しみをどう耐えるかは、人間にとって永遠の課題である。ところが現代社会はいつのまにか、悲しむことを精神生活から排除してしまい、モラトリアム人間の時代を迎えて「悲しみを知らない世代」が誕生し、いたずらに困惑し、絶望にうちひしがれている。本書は具体例によって悲哀の心理過程と悲哀の意味を説き自立することへの関係に及ぶ。
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匿名
対象喪失という最愛の相手を失うということだけでなく、例えば仕事やある種の状況、ある日々、など自分の身に深く根を下ろした何かを失うこと全般について述べられている。喪の仕事を通して、自分の感情を抑圧せずにしっかりと向き合うことの大切さがわかる
Posted by ブクログ
小此木先生の文章は、
本当に接しやすく、
ユーモラスでもあるのに、
どこまでも専門的だ。
悲しむことに寄り添う仕事に、
胸を痛めながら従事している専門家にも、
なにゆえこのような作業が必要で、
我々が何を引き受け、
何をなそうとしているのかということを、
示唆してくださるようでもある。
悲しむという究極的な内的作業を、
いかに自らが達成すべきか葛藤しながら生きているが、
フロイトの生き方に半ば同一化しながら、
学びを深めているのだということを、
自覚できることに感謝する。
Posted by ブクログ
とても面白かったです。
同時に読み進めてたやさしさの精神病理とリンクするものがありました。
悲しんだり苦しんだりする能力の欠如、その裏に隠れる汚れ、醜さ、不快、悲しみを遠ざけておきたいことが発端で現れる形だけのやさしさだったり。
自己愛が強くて自己同一視し誰かを愛するポーズをとること、その錯覚から解かれると傷ついて、誰かを1人の自我と見れないこと、、、
タイトル買いしたけど、とてもあたりでした。
言いようが難しい感覚をこの本でわかっていく、そんな感じがしました。
Posted by ブクログ
初版が79年なので古い本だが、内容は古くなっていない。
どんな人でも、関わりのある対象をなんらかの形で失った時には、「悲哀の仕事」によってその喪失から立ち直らなければならないためである。
対象喪失は死別や離婚だけでなく思春期の親への反発や家族との不和にも適用できる。
悲哀の仕事とは、適切に悲しみ、対象の理想化や悪玉化から脱出し、罪意識を経て、自らの中に居座っていた対象と和解をすることで、人は自然な精神状態に戻ることができるというものである。
この悲哀の仕事のプロセスがフロイトの論を元に分かりやすく書かれている。
悲哀から立ち直るのは自然な心の働きであるが、現代のような全能感の達成された時代では、対象の喪失に気付かないまま悲哀が排除されてしまっているため、その自然な心の働きが育たないままになっている。
その結果として大きな対象喪失が起きたとき、人は立ち直れずうつ病のような病的な心理状態になりやすくなっている。
対象喪失を克服するための仕事として、転移による喪の仕事と投影同一視による喪の仕事ということが述べられている。
現代ではカウンセラーなどの専門家などに転移の相手を引き受けてもらったり、自助グループなどで投影同一視を行なったりして病的な心理状態から立ち直れば良いのだと思った。
自分の抱えるしんどさや辛さをどう解釈すればいいのか分からなかったので、対象喪失とそこからの悲哀の仕事による回復のプロセスという考え方をこの本から得られたのは良かったと思う。
精神状態に問題を抱えている人たちがフロイトに学ぶ理由も少し分かった気がする。
Posted by ブクログ
30年ほど前、陶淵明の詩文における「影」という言葉についていろいろ考えていたときに出会った本です。専攻の如何に関わらずいまの学生諸君にもぜひ読んでほしい書です。
Posted by ブクログ
一時期ずっと携帯していた本。
何かを失うことによるダメージについて書かれたものです。
配偶者の死を始めとして、ありとあらゆる「喪失」、引き起こされる「悲嘆」、その過程についても触れています。
「現代人が悲しみに慣れていない」という警告をしてくれる本です。
Posted by ブクログ
高校生の失恋した頃に読んだ本。
その時は,この著者に会ってお世話になるとは思わなかった。
運命とは不思議なものである。
人は思いをよせる対象を失った時ににどう耐えるのか。
死,失恋,怪我,受験失敗など,
人はいろいろな対象喪失を耐えて生きている。
その心理過程,防衛機制について解説している。
小此木啓吾の代表作とも言える本。
Posted by ブクログ
小此木啓吾 「 対象喪失 」 対象喪失により引き起こされる悲哀 に関するフロイトの研究をまとめた本。対象喪失とは、愛情や依存の対象であった者の死、アイデンティティの喪失など。
著者の主張で 驚いたのは
フロイトの悲哀研究は、父の死を経験したフロイトの自己分析から行われているとした点。悲哀の心理プロセスを、転移、投影同一視、未開人の喪の慣習 から 紐解いている
悲哀を避けるな 克服せよ という 父性的メッセージを感じる
*悲しみを悲しみ、苦痛を苦痛として味わう〜人間にごく自然に与えられた心のプロセス
*人生は対象喪失の繰り返し〜悲哀と対象喪失をどう受容するかは もっとも究極的な精神課題である
山あらしのディレンマ
寒さに凍えた山あらしのカップルが、暖めあおうと近づいたが、近づくほど、トゲでお互い傷つけてしまう。近づいたり離れたり繰り返して、適当に暖かく、お互い傷つけない 距離を見つけた
フロイトの母の言葉「人間は土から作られていて、土に戻らねばならない」
Posted by ブクログ
愛する対象を失う悲しみをカガクする一冊。本書は、愛情・依存の対象を失うこと(「対象喪失」)に対する心のメカニズムを、フロイト研究でも有名な精神科医の著者が一般読者向けに解説したものである。その内容は、精神科医として著者がこれまで診てきた患者を例に「対象喪失反応」について分析した章と、フロイト研究者として彼の精神分析理論が構築される過程を分析した章に分かれる。
著者は、対象喪失に対しては「その悲しみや思慕の情を、自然の心によって、いつも体験し、悲しむことのできる能力を身につけること」(p.156)が大切だとする。一見すると”当たり前“の話に思えるが、実際には、その”当たり前“が非常に難しいことを本書は教えてくれる。即ち、失った対象への悲しみだけでなく、憎しみや罪意識といったネガティブな感情が生じるのは人として必然であり、そうした感情に真正面から向き合う覚悟こそが重要となる。
本書は「悲しみ」に対する特効薬となるような記述があるわけではない。だが、そうした場面に直面した時、人の心はどのような反応を示すのかを知っておくことで、初めて人は素直に「悲しむ」ことができるのではないだろうか。
Posted by ブクログ
失った対象への同一化、排除、理想化……様々な対象喪失反応が事例とともに書かれていて面白かった。後半はフロイトさんの勉強になった。ひとつの決まりきった対象喪失反応の流れが書いてあるのかと思ったら、そんなに単純な話ではないらしい。精神分析的な話(死んだ父への思いを姉の結婚相手に投影うんぬん)は時々屁理屈のように感じてしまうけれど、単純に「こんな風に捉えられるのかあ」と読めば面白い。
Posted by ブクログ
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
Posted by ブクログ
何か自分自身にとってかけがえのないものを失ったときに人は、非常事態においては生命維持を優先して喪失感をすみにおいやり、また日常においても社会という枠組みのなかにおける自分の立場を意識して喪失感をおしつぶしてしまう。このような外からの圧力がない状況においても、失った物や人に対する罪悪感や優越感など、さまざまな感情が入り交じることで、純粋に喪失の対象を悲しむということが実はできていない。
それでは、失った事物を本当に悲しむとは一体どういうことなのか。それをフロイトの研究に沿って、さざまざな例を引きつつ紹介するのが本書。
「『悲哀の仕事』は、そのような断念を可能にする心の営みである。しかしながら、あくまでもそれは断念であって、失った対象を取り戻すことでも……、悲哀の苦痛を感じなくなるという意味でもない。……それをどうすることもできないのが人間の限界であり、人間の現実である。大切なことは、その悲しみや思慕の情を、自然な心によって、いつも体験し、悲しむことのできる能力を身につけることである。」
本書の構成は、一、二章が導入部を兼ねたさまざまな悲哀の実例の紹介。三、四、五章と続けてフロイトの悲哀研究の話とフロイトの経歴の話が続く。それから末章にかけて悲哀の構造や過程についての説明、解析が続き、最後の最後に「対象喪失」の定義について説明がくる。正直、この構成は読み手からすれば迷惑。また、フロイトの話が冗長で退屈。ほとんどフロイトの夢日記と書簡の紹介。もう少し要約できただろうに。しかも引用される実例はほとんどが海外のもの。それだけ日本国内では満足に同分野の研究が進んでいないという証左にもなろうが、ところどころ日本人の感覚とずれていると感じるところがあった。
本書が書かれた時代からして、戦後の種々の喪失感を埋めようと日本人が仕事やその他の方面で病的に張り切りすぎた反動が顕著に現れ、社会問題となったのが執筆のきっかけだったのではないかと思う。
実例や、鬱病の病理のところは個人的に気づきがあった。ただ、上述の通り構成がいまひとつなのと、引いた実例も日本人と肌感のあわないものがあったのと、構成の所為なのか、全体通してまとまりがない。「対象」の範囲がまたひろすぎて、なんでも御座れ。もう少し絞った方が読み手にはよかったのでは。
Posted by ブクログ
前半の本当にさわりの部分は面白い。後半も少し面白く為になる内容が書いてあるが、全体的に価値観が現代と違っていて今ひとつピンとこない。「そう…かなぁ?」「ぇえ〜?」と思いながら読み進め続けることになったので苦痛すぎて中盤の退屈なフロイト話は全部飛ばした。
終章の、フロイトが母親から死について教えられた時の話が良かった。
「人間は土から作られていて、土に戻らねばならない」
そして母親が団子を捏ねた捏ねカスを見せて、
「人間もこういうカスでつくられているだけ」
あとP66の望郷の一説も良かった。
肝腎要の対象喪失の克服にはどうしたらいいのか具体的な策については自分の中ではボーンヤリ。
Posted by ブクログ
フロイトの「mourning work」を中心にした対象喪失の解説。
初版79年代のため内容はやや古くさいというか全体的に「70年代知識人」と言った感じがする。良い悪いは別として。
内容の新しいモーニングワークの本を読んだ方がよかった気もする。
Posted by ブクログ
近親者の死や失業といった、自己のアイデンティティの喪失を引き起こすような出来事を体験した人びとが直面する危機と、そこからの回復の可能性について考察している本です。本書では、そうした体験を「対象喪失」と呼び、その心理的体験をフロイトにしたがって「悲哀の仕事」(mourning work)と解釈しています。
著者は、精神分析学の創始者であるフロイトが父親や同僚のフリースに対する激しい心理的葛藤を演じていたことについて比較的ていねいに検討をおこない、フロイトの精神分析学の確立が、まさに「悲哀の仕事」として解釈できることを示しています。
また、深刻な現代の対象喪失の経験を持たない現代、新たに生じつつある問題についてもとりあげられています。
Posted by ブクログ
フロイトの唱えた「喪の仕事」とは失った対象へのアンビバレンツな感情の、そのネガティブな側面への洞察である。防衛機制がそれを妨害するという解釈を改めて確認した。社会へ適応しようとする心の努力が逆効果を招く矛盾。
しかし、「モラトリアム」が継続し、すべての私は「仮」の私である、という人間にとっては、リアルな不安や悲哀自体がすでに失われている、これはまったく恐ろしい話で、暴力的衝動が野放しというに近いかもしれない。現代の犯罪や社会問題をこういった視点から捉えなおす、これはとても重要に思える。