あらすじ
一九五四年、松沢病院の医師として一人の殺人犯を診察したときが、著者の死刑囚とのはじめての出会いであった。翌年、東京拘置所の精神科医官となってから、数多くの死刑囚と面接し、彼らの悩みの相談相手になることになる。本書では著者がとくに親しくつきあった人たちをとりあげてその心理状況を記録する。極限状況におかれた人びとが一様に拘禁ノイローゼになっている苛酷な現実を描いて、死刑とは何かを問いかけ、また考える異色の記録。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
■死刑囚が犯罪に至った経緯を、生い立ちを含めて生々しく聞き取ったドキュメント…ではなく、死刑囚の精神状態をちょっと突き放すくらいの距離感で淡々と観察するレポートです。ですが、初期は若さ?ゆえなのか、まだ突き放しきれてない感じ。嘘で固めて世界を構築しちゃってる死刑囚にまんまと呑み込まれて、それに気づいて憮然としてる記述は、ちょっと面白い。
■著者は最後に死刑に反対だと、さらっと結論づけています。私は死刑反対論者ではないのですが、読み終えて、ちょっと心が動きました。死刑囚は、みんな自分が犯した罪や傷つけた人と対峙はしてない。心穏やかに死んでいく死刑囚すら。ある者は突然圧縮された生に怯え、ある者はその密度に胸を締め付けられ、でもみんな向かい合ってるのも語るのも「自分」。
死刑を告げるのって、こういうことをさせたいんだっけ?という疑問は生まれました。あと、「恥ずべき死」を与える、っていうフレーズにも重くのしかかります。
■凝縮された生を急に突きつけられて、壊れていく様子には、描写が淡々としているのが余計に寒々しくて、ぶるっと来ました。しかもそれがいつまで続くかわからない。逆に弛緩した生を受けるしかない無期刑も。
今のところ反対も賛成もきっぱりとした答えは出せないのですが、この本を読んで、死刑という「罰」の実態を垣間見ることができてよかった、と思います。