【感想・ネタバレ】豆は煮えたかのレビュー

あらすじ

手を重ねて観える未来が心を癒す時代小説

深川佐賀町の水茶屋「ささげや」の女将・お玉。彼女は、人の掌に触れると、その人の「人生の束の間が観える」という不思議な力を持っています。悩みを抱えた人々が「豆は煮えたか」という符牒を合図に彼女を訪れ、その不思議な力に導かれていきます。お玉自身も、悲しい事故で夫を失っています。お玉をはじめ、人知れず特別な力を持つ者たちが織りなす連作短編集です。

ささげやの女将お玉は、名物の豆餅を売る水茶屋を営んでいます。しかし、彼女にはもう一つの顔がありました。訪れる客の掌に触れることで、その人の未来を垣間見る力。それは本人が望んだものではなく、彼女自身も「あまり気の進む生業ではない」と感じています。

しかし、夫と営んでいたささげやの名物、豆餅をお玉はどうしても上手くつくることができません。女の腕で餅をついても目指すものはできず、小豆を煮ても火加減、塩加減、砂糖の加減までまるで見当違いで、恋しい味にならないのです。客の評判も下がるいっぽうで、どのみち来ない客を待つならと、気が進まないながらも求められると占いをしています。

あるとき、親の決めた縁談と想い人との間で悩む娘、おこうが店を訪れます(「豆は煮えたか」)。お玉の力は、ただ未来を告げるだけでなく、相談者が自らの足で幸せな道を選ぶための、ささやかな道標となっていきます。

本作の魅力は、お玉だけにとどまりません。物語が進むにつれて、それぞれ異なる不思議な力を持つ人物たちが登場し、彼らの運命が交錯していきます。不思議な力を通して描かれるのは、懸命に生きる人々の姿であり、彼らを支える温かな人の縁。登場人物たちが紡ぐ優しさに触れるたび、心がじんわりと温かくなる。読み終えた後、ささげやの豆餅が食べたくなるような、滋味深い一冊です。

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感情タグBEST3

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第1話 ささげやの名物豆餅はお玉の夫が亡くなってから、美味しく作れない。一方手相占いは人気で目当てで来る人がいる。夕刻、庭から指のちぎれかけた男性が入ってきて手当して匿う。

第2話 老夫婦がやってきて、娘夫婦はうまくやっているが、娘が遊びすぎてお金を使うので、お金の入った巾着を託された。が、どこにやったかわからないので、占ってほしいときた。街で占いをしているお玉の噂をきき、探し出そうとする。

第3話 花の苗を育てて売っている伊織。息子が出て行ってだいぶになる。ある日お玉に占ってもらう。

第4話 ちょっとばかし未来の見えるおかつは、そのために嫌われていく場所がなく、ささげやに置いてもらって2年になる。新次郎の昔の女がやってきた。

第5話 八斎はなぜか倒れた宝引きとその子供を世話することになった。

第6話 おかつは新次郎と結婚して子供を産んで若女房になっている。

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2026年05月08日

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 『豆は煮えたか』を符牒を合図にちょいと不思議な力で家業の傍ら卜占者をする深川佐賀町の水茶屋「ささげや」の女将・お玉。
看板メニューの豆大福はいつまでたってもうまくはつくれない。
そんな彼女の下に集まってくる人々の織りなす人間模様と縁。

豆は煮えたか
身のほど知らず
いつ咲く
雲隠れ
宝引き
くらぶ者なき

の全6遍の連作短編になっていて『ささげや』に訪れた人にそれぞれクローズアップして展開。
最後、全てがつながるような構成になってます。
不器用だけど優しい人情に癒され、ちょいとドキドキする場面ありつつもほっこりする好きな部類のお話達。
カバー外すと表紙に見返しもついていて柄が豆絞りになっているのもなんとも粋でたまらない。
2編目に占いの仕方がでてくるので、あれはそうやって占うんだと勉強にもなる。
とにもかくにも豆大福が食べたくなる素敵な一冊でした。

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2026年04月09日

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ネタバレ

そういえば久々に読んだような気がする朝井まかて作品

手を握れば、その人の近い未来が見えてくるお茶屋の女将さんお玉が主人公。お茶屋の名物はその占い…ではなく(そっちは裏家業)、豆大福。しかしあることで豆大福を作っていた旦那を亡くし、お玉には美味しい大福を作ることができずにいた

というところから話が始まり、時系列順6編の短編がお茶屋とお玉と常連たちをつないでいく。
占いやちょっとした超能力の話が出てくるものの、基本的には朝井まかてらしい、洗って干したてのこざっぱりした手ぬぐいのような市井人情モノで、読んで心がさらっろ綺麗になる感じ。

俺自身未来をしってどうなることもなくなったような歳になり、占って欲しいことはないものの、ここの豆大福と番茶は味わいたいなぁと、そんなことを考えていた。

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2026年11月01日

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手を合わせることで相手の近未来を言い当てる力を持っている女将のもとへやってくる、悩みを抱えた人々との交流を描いた少しファンタジー味のある新鮮な時代小説。 淡々と過ぎる日常の中、どのお話にも人間味あふれる温かい場面がちりばめられていてほっこり。上品な甘みの中にほんのり塩気が効いた、まるで作中に登場する塩大福のような味わい深い作品。

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2026年10月29日

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水茶屋の女将・お玉。
彼女には、掌と掌を重ねることにより
相手の人生の束の間が見える異能がある。
その符牒は“豆は煮えたか”。
豆は煮えたか 身のほど知らず いつ咲く
雲隠れ 宝引き くらぶ者なき
参考文献有り。

ささげやの名物は豆餅だったが、亭主が亡くなってからは、
お玉はうまく作れない。そんなときに出会ったのが、新次郎。
それは30歳のとき。それからのお玉の人生の歩みを描く、
人情あふれる江戸時代を舞台にした、短編連作。
お玉から未来を告げられる相手は、
恋に悩む娘たち、先行き不安な役者、
己の運命は占えない易者、倅に出ていかれた種樹屋の主人、
隠居夫婦の老妻、新次郎にも伝えた。
視えるものを言葉にするのは難しい。
しかも見えるのは、せいぜい5,6年先くらいのもの。
それでも掌と掌を重ねることで繋がる縁がある。
ささげやを営むことで繋がる縁もある。
「雲隠れ」での侠客たちから店を守ろうとする人々と、
あの女に幻のどんぐりを礫の如く降らせた椎の木は、
この土地の皆の縁での証。
また、異能を持った人々との縁も生まれた。
「くらぶ者なき」は40歳近くになった、お玉へのご褒美?
まさか生姜大好きな元・将軍にまで縁が繋がるとは。
か細い光る縁が手繰り寄せられて繋がってゆくことに
ある先には、人情という人と心の鎹がある。
だから今日も、お玉は「煮えてますとも」と迎えいれる。
あぁ豆餅が食べたくなってしまう。

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2026年10月24日

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ネタバレ

他人の将来が見えるお玉の話ではあるが、その特異な力のお話というよりは、お玉や周りの人達の人情にほろりとするお話。
新次郎を匿っていたことが分かってしまい、どうなることかと息をのんだが土地の人々の協力で事なきを得る『雲隠れ』がよかった。

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2026年10月22日

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人付き合いっていいものだなぁ。
誠意を持って向き合うと相手も誠意を見せてくれる。
全体的にそんなお話に思えた。
なんだかうまくいく気がする!と思って実際うまくいったり、嫌な雰囲気の場所を感じることはあるが、もっともっと強めたら実際に大きな事件が起きたり未来がなんとなく見えることもあるの…かも…?
私はこう言うお話を読んでもやはり占いに頼りたくないと思うが、占い師も実際に見える見えないは別として、客をより良い未来にするために言葉を尽くしてくれることもあるんだもんなぁ。悪くないイメージになった。
心がほんわり温まるお話だった。

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2026年10月15日

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実は、占い師である団子屋の女主人公、彼女を取り巻くご隠居さん、役者、庭職人と登場人物たちが魅力的。亡きダンナの味を継いで作る団子が、不味いという設定が、親近感があっておもしろかった。
読後もいい。

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2026年06月24日

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時代物の、不思議なヒューマンドラマ。
ふんわり包むような表現が多く、そこから推察してね、という終わり方から、次に繋がっていく感じ。
続編がありそう。

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2026年06月17日

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深川佐賀町の水茶屋「ささげや」の女将・お玉は、不幸な事故で夫を亡くした。ささげやの名物、豆餅を、お玉はどうしても上手くつくることができない。女の腕で餅をついても目指すものはできず、小豆を煮ても火加減、塩加減、砂糖の加減までまるで見当違い。客の評判も下がるいっぽうで、商売がじり貧状態にある中、お玉にはある隠し玉が。人の掌に触れると、その人の「人生の束の間が観える」という不思議な力を持っている。悩みを抱えた人々が「豆は煮えたか」という符牒を合図に彼女を訪れ、その不思議な力に導かれていく。

 お玉自身は、隠れた力を、金儲けの手段として喜んでいるのではなく、人助けの手段として割り切っている。人生全体が見渡せるわけではなくーというのは、実際見渡せて告げたとしても、未来を聞いた本人が何らかの変更を行えば、ずっと先の未来は変わってしまうから、近未来のみに留めたのだろう。特殊な能力を持っている人たちが総登場する話「雲隠れ」もあるが、必ずしも彼等が幸せではなく、むしろ能力故に普通の人たちとの隔たりを感じる寂しさもある。

 歴史上の人物が登場する作品が続いて、本作は全くのフィクションかと思いきや、「くらぶ物なき」で大物が登場。とはいえ、出会い自体はやはりフィクションで。世間からは「子づくりしか能がないお気楽な人物」と思われていたが、自分がどう思われていたかを知りたいと考えていた、という設定が新鮮である。

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2026年10月13日

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第1章から、登場人物が続いていく所が面白かった。
茶屋を切り盛りする女将が、実は人の未来が見え、「豆は煮えたか」という符牒を合図に、その人を占う(先を見る)という大変興味ある内容に惹かれました。

実際、やって来る人たち、各章の登場人物たちの人となりや織りなす様子が面白かった。
ただちょっと、独特な言い回しや言葉が多く感じたせいか、全体的にかたい印象を持ちました。

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2026年07月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

豆は煮えたか

著者:朝井まかて
発行:2026年4月10日
文藝春秋
初出:オール読物
「豆は煮えたか」(2021年8月号)
「身のほど知らず」(2023年1月号)
「いつ咲く」(2023年9・10月号)
「雲隠れ」(2024年5月号)
「宝引き」(2025年2・4月号)
「くらぶ者なき」(2025年9・10月号)

朝井まかての新刊本。豆餅が名物の水茶屋「ささげや」の経営者、お玉は、亭主が堀川に落ちて死んだ後、店をきりもりしているが豆餅の味が落ち、客は減る一方で経営がピンチだった。実は裏稼業があり、占い師をしている。客は一見さんお断りで、「豆は煮えたか」という符牒を口にする者だけを占った。しかし、筮竹(ぜいちく)と算木(さんぎ)を使う正統な易者ではなく、筮竹と算木で占いを装ってはいるが方法がまるで違う。相手の掌と自分の掌を重ねることで、夢のようにその人の将来が見えてくる。ただ、それが何年先のことかは不明だった。

一方で、修行を積んで看板を揚げている易者たちからは、そんな裏稼業はぶっ潰すべし!と反感を買っている。これは第2話の内容。

連作短編の形式だが、第1話はまずシチュエーションの話となり、しかし、何人かの占い客の事例が、見事に3話以降につながっている。長編の要素が強い連作短編である。
朝井まかては、毎日新聞夕刊でも連載小説がスタートしたばかり。今、一番面白くよめるエンターテインメント系かもしれない。ただし、柳宗悦の評伝小説「グロリアソサエテ」など、社会批評も強い小説も書いている点が魅力。

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「豆は煮えたか」

お玉:深川の水茶屋「ささげや」女将、5年前に亭主が死んで一人で切り盛り、30歳
喜之助:死んだ亭主、腕が良かった(味が美味しかった)、職人気質
新次郎:秋の夜に太助を求めて来た、2ヶ月いついている、35歳、菓子職人
隠居夫婦:深川佐賀町にある屈指の船宿「上総屋(かずさや)」経営を倅夫婦に譲って隠居、妻は「おとよ」
おさと:船宿「浦栄」に嫁に行った娘

おこう:京橋の薬種商の一人娘、17歳、占い客
弥吉:こうが好いた男、魚河岸の競り人、19歳
おなつ:奈津、付き添いの友達、父は町医者

深川にある水茶屋「ささげや」を一人で切り盛りするお玉。しかし、5年前に亭主を亡くして以降は名物の豆餅の味が落ち、評判はがた落ち、客足は遠のくばかりだった。職人気質だった亭主は、出来が悪いと小豆を煮直して作り直していたが、お玉はなにが悪いのかすら分からなかった。近くに住む船宿経営の隠居夫婦は、お情けで来てくれるが、味についてはまったく評価せず、試食すら断る有様。

5年前の亭主の死については、まだこの話では明かされていないが、お玉は、自分が代わりに配達にいっていればよかったのにと後悔している。

お玉には、裏商売があった。亭主の死の後、占いを初めていた。よく当たると評判だが、その割には自分の将来のことは見えない。符牒は「豆は煮えたか」。この言葉を言ってくる客がいれば、占う。手を合わせるとその人の将来の絵が浮かんでくる。

ある秋、深夜に20代半ばの男が助けを求めて来た。右手の人差し指が途中で切断されている。手当をし、明け方までには出て行ってくれと言ったが、明けてもまだいた。結局、2ヶ月たってもまだいた。豆餅を食べさせたが、なにも言わない。朝餉と夕餉はつくってやった。しかし、ついに出て行くことに。彼は事情を説明した。職人だったが博奕が得意でそちらに走った、そしてやばい女に手を出したため、二度と出来ないようにと指を一本切られた。これでは、もう職人にももどれまい、と悲観していた。お玉は、直前に占いで役者からもらった2両をもたせてやった。

年が明けて亭主の七回忌の夜、その男が再び訪ねてきた。豆を持って来てくれた。実は彼は菓子職人だった。以前、何度かささげやの豆餅を食べに来ていたという。しかし、この前出された豆餅は酷かった、だからこの豆で作ってみるという。


「身のほど知らず」

竹原白斎:江戸屈指の易者、竹原嘉兵衛(先代の名を引き継ぐ)、末吉(本名)
おしま:妻、師匠の娘(に婿入りした)
柳柳泉(やなぎりゅうせん):易者仲間、街角の卜占者から身を起こす、白斎の弟弟子だった
三太:弟子

「ささげや」の近所に住む隠居夫婦が、竹原白斎を訪ね、易を頼み込んだ。白斎は厄介な客ではないかとの予感。案の定、捜し物だという。隠居夫婦の娘は「浦栄」という船宿に嫁いでいるが、その娘が遊び過ぎてお金を浪費してしまった。嫁入りの時に持たせた50両が、気が付けば3両ほどになっている。さすがに反省し、母親に預かってくれと頼んで来た。母親は黄色(松葉色)の袱紗に入った3両を受け取り、家に戻ったが、ある日、煤払いをしていた時に気が付くとその袋が行方不明に。娘のところに行ったのは6日前か7日前。帰りに「ささげや」に寄って豆餅を食べただけ。ささげやは、若い職人が入って勢いを取り戻してきていた。

白斎は箪笥をよく探せと告げ、夫婦は納得して帰った。
探してみると、見つかった。
手土産に水茶屋の豆餅を持って、見つかったと報告に来た。
豆餅は旨かった。

年末、易者仲間の宴会があった。その席で、かつての弟 弟子である柳柳泉が、水茶屋で看板をあげずに裏稼業として占いをしている者がいる、客を取られてしまう、長い修業を積んだ我々としてはなんとかしなければならないと告発した。彼はかつて師匠に可愛がられ、いつのまにか白斎に代わって師匠のお供を務めるようになったが、なぜか跡取りとしては白斎が使命され、婿入りとなった。柳泉は出て行き、町占いを始めた。そういう経緯を持つ間柄でもある。

年明け、熱を出して寝込んだ白斎。霍乱(かくらん)だと子供に言われる。妻と言い合いになり、白斎は妻に対し、本当は柳泉がよかったんだろうと言った。

弟子の三太に深川佐賀町あたりにある水茶屋を探させた。すぐ見つかったので、乗り込んだ。占い師は、自らの将来のことが分からない。「易者、身のほど知らず」。白斎は年始回りのときに顧客から軒並み冷たくされたので不安だった。水茶屋の女将に対し、1年後のことを占ってもらった。今の仕事が転職かどうかも。

手相を見て、目を瞑って占う。筮竹をつかう自分たちの占いとは違う。
結果が出た。
1年後のことは分からない。何年先かは分からないが、卯の花のころは試行錯誤、でも鳥が行くころにはうまくいく。天職であり、町の人の悩みを聞いていることでしょう。

白斎は、今年も軒先に燕の巣をつくることにしよう、と決意した。


「いつ咲く」

伊織:佐伯伊織清継(きよつぐ)、種樹屋(うえきや)「寺嶋屋」五代目当主、39歳、三年前に妻が病死、息子はその時15歳
お絹:女中頭

御前:三河譜代旗本の隠居、元勘定奉行
久庵:日本橋薬種問屋、花に関する町人学者
正蔵:猿若町の役者、成功したければ上方へ行けと2年前(天保2年師走)にお玉に言われる、第一話に登場、この話で上方へ旅立つ

種樹屋「寺嶋屋」は、初代が貧しい武士だったために起こした植木屋だった。先代までは、それぞれに情熱を持って仕事に打ち込み、とくに先代(伊織の父)は黄色い桜草を開発するという快挙を成し遂げたが、枯れてしまって再現はできていない。しかし、翻って自分にはそういうものがなにもない。実績もないし、なにかしようという意欲にもかける。仕事は番頭にまかせ、自分は適度に仕事をして、適度に遊んで人生を楽しむ、というような生活しかしていない。番頭に言われ、少しは畑で育てることをするようになったが・・・

3年前に妻が死んだ時、15歳の倅にそのあたりを突かれた。しばしば口論となり、出て行ってしまった。今、18歳になるが・・・

花の縁で結ばれた人の集まりに出かけることに。その前に、女中頭のお絹に手を出そうとしたが、強くはねつけられてしまった。

自分を含めて4人の集まり。三河譜代旗本の隠居の家に。客は、日本橋の薬種問屋の主人で、花に関する町人楽者でもある久庵と、役者である正蔵、そして伊織。その中で、正蔵から、2年ちょっと前に厄介な占い師にひっかっちまった、成功したければ上方へ行け、といわれたため、今日、出発するという。伊織は正蔵に会ったのは初めてだったが、その占い師のことはしっていた。

以前、しゃがみ込んでいる老婆がいたので、事情を聴いた。どうやら、自分の家が分からないようである。持ち物から、船宿の浦栄という文字が出て来たので、そこの店の人かと思ったが、乗った船の船頭に聞くと違っていて、それは娘が嫁いだ船宿であり、この人は上総屋(かずさや)の隠居だと言われる。背負って送っていくと、大勢の人が出て探していた様だったので、みんな大喜びで感謝された。酒肴が施され、次々に盃が来て、帰りあぐねていると丸顔にそばかすの女が来て、私はこれで帰りますがよろしければご一緒に、と助け船を出してくれた。

この件をきっかけに、寺嶋屋は上総屋や浦栄の庭仕事をもらえた。たまに伊織も現場に顔を出したが、近くの水茶屋で豆餅を食べた。その女将が、酒肴の場を中座するために助け船を出してくれた人だった。そして、正蔵を占ったという裏稼業で占いをしている女でもあった。

伊織は水茶屋に行ったが、ちっとも注文を取りにこない。待ち時間に、蔵の横にある雑草が気になったのでそれをむしって処理した。やっと来たので符牒を言って占ってもらった。自分の先が見えないから、それを見てほしいという漠然としたものだった。お玉は、何年先かはわからないが5年は先だろう、子供が2人見えるとの話だった。伊織は不思議に思った。

戻ると、意外な人物が。なんと、家を出て行った倅が帰ってきた。連れの女は赤児を抱いている。「それは2人目の子か?」と聞くと正解だった。それで瓦解した。息子は結婚して18歳にして2人の子持ちだったのである。聞けば、倅は伊織の草むしりしている姿を見て、その心の優しさを感じて帰ってくることにしたという。


「雲隠れ」

おかつ:「ささげや」の茶汲み娘、12歳から一膳飯屋などで働く、客には人気だが・・父は洗い張りなどをする悉皆屋(しっかいや)をしていてそれなりに客がいた
新次郎:お玉に救われて「ささげや」の菓子職人になった、兄さん

この話の主役は「おかつ」。10歳のときに父親が病気(脳卒中系?)になり、介護をしていた母親は出ていってしまい、12歳から一膳飯屋、居酒屋、仕出し屋などで働く。客には人気だが、何故か先輩や朋輩から意地悪をされるので転々とした。最後の勤め先を出て、飲まず食わずでたどり着いたのが「ささげや」であり、水を一杯求めるとお茶を出してくれ、事情を話してお玉に救われ、長屋の部屋を与えられて茶汲み娘として働く。朝は同じ長屋の奥に住む新次郎が、仕込みに出る下駄の音で起こされて勤めに。

兄さんと呼ぶ新次郎に対する、ほのかな恋心を匂わせる。しかし、指のない事情などなにも知らない。もちろん、お玉が裏稼業で占いをしていることなど全く知らない。茶汲みの他に、豆の選り分けもする。

おかつもまた、将来起きることがなんとなく分かる能力を持っていた。母親いなくなることも、どこかでわかっていた。

「ささげや」を始めたのは亭主だったが、堀川に落ちて死んだ、とお玉はおかつに言った。おかつがお玉に拾われて、2年余りがたっていた。

ある日、女が一人で入ってきた。共連れもなく、煙管を遣っている。新次郎は彼女に豆餅を持っていこうとせず、おかつに持って行けと指示した。女は、30歳は超えているのに化粧が念入りだった。ちろちろと視線を向けている。態度は大きいが、金払いはいい。「新次郎によろしく伝えといとくれ」と言って去った。

雨が続き、店は暫く休むことに。しかし、豆餅のデリバリー注文は多い。だが、女将は新次郎を遣いに出そうとはしない。きっとあの女が原因だろうとおかつは思った。

ある日、おかつが遣いから戻ると、奥で女将と新次郎が手を握りあっている。そういう仲だったのか、とショックを受けるおかつ。新次郎は事情を説明する。お玉にはもう一つの稼業があり、それが占いであること、あの日は新次郎が自分のこの先がどうなるかを見てもらっていたこと、そして、訪ねてきた女についても説明した。博打に手を出し、勝ち続けていい気になり、いかさまにも加わった。すると色っぽいあばずれどもも寄ってきたので、とっかえひっかえした。その内、滅法界の女が途上に現れた。みんな一目置き、別格扱いだった。こいつは俺の女にしようと思った。

上州の侠客の情婦で、新次郎との一件が露呈してから江戸に気安く来られなくなっていたが、男が弱ったか死んだかで思い出したんだろう、ここを嗅ぎつけたんだ、と説明した。

雨があがり、営業再開。すると、例の女が数人の破落戸(ごろつき)を連れてやって来た。客は満杯。おかつは体が動かなかったが、客達は破落戸たちの乱暴狼藉にも拘わらず平然と身じろぎもしない。あの易者(白斎)とその弟子もいる。

新次郎が現れ、女との対決姿勢となった。破落戸たちがいる。

一方で、隠居夫妻、寺嶋屋。浦栄も来ている。それだけじゃなく、表店の干鰯(ほしか)問屋の番頭、魚油屋の手代、春米(つきごめ)屋の職人、長屋の差配人、青物屋の小僧もいる。乱暴されてころがる易者と弟子。しかし、平然としている客たち。その気迫に負けて、去って行く破落戸どもと女。
「新さんがいないと、また豆餅がまずくなっちゃう。それじゃあ困るのよ」と上総屋の隠居は言った。


「宝引(ほうび)き」

八斎:占い師(町占)、白斎の弟子、三太、竹原八歳
お仙:宝引き、八斎は男だと思っていた、
おまり:娘、方引きではサクラを務める、

宝引きとは、振り売りで子供相手の当て物を売る人。束ねた細縄の1本を子供に引かせ、先に橙の実がついていたら当たりで、飴や玩具絵、筆や墨などがもらえる。棒引きについて、当たった!とサクラをしている小さな娘(おまり)が八斎に太助を求めて来た。煮売酒屋で倒れたという。行ってみると、宝引きをしているその子の母親だった。白斎は宝引きは男だと思っていたが、女だったのか。煮売酒屋「ひさごや」の店主や客達は、白斎にその病人の面倒を押しつけた。自分は長屋に一人住まいだからこんな病人を抱えることはできないと拒否しても、運ぶのは手伝うからとみんな強引だった。

結局、白斎はささげやに預けた。白斎自身も足が遠のく。久し振りに覗くと、お仙は少し元気になってきていた。話をするうち、お仙にも裏稼業があることが分かった。八斎も占い師だけに感じてはいた。ただし、お仙は占うのではなく、人の話を聞いて不安を吸い取ってあがる能力があるのだった。人の不安を吸い取るあまり、自分の具合が悪くなることも。おたまは彼女のことを「ねえさん」と呼ぶ。娘ではなく妹か?実はそれも違っていた。

お仙は生まれつき人の心が読み取れた。おしどり夫婦が仲悪かったり、斬りかかる隙を見ている侍だったり、、、みんな分かったが、常時それが分かるのが苦痛でもあったが、月のものが始まってからは、その気になった時だけ能力を発揮できるようになった。いい気になった。そして、調子に乗って唐物屋の若旦那といい仲になった。新造がいたが気にしなかった。その内、新造が首を括った。すると、若旦那も跡を追った。2人の子を引き取ったが、それがおまりだった。私はあんたの両親を殺したんだから、いつでも仕返しをしていいよ、と宣言し、おまりも最初はその気だったが、今は薄れている。

お玉は将来の景色が見える。
おかつは「感じるだけ」だが勘が鋭い能力を持つ。
類は友を呼ぶ状態になり、2日後に集合がかかった。

白斎は気乗りがしなかったが参加。新顔が3人いた。増えているじゃないか!と白斎は思う。
・吉原の遊郭で内風呂の釜番をしている爺さんは、取り憑いているものが見える。
・浪人侍は人の寿命がわかる。7歳ぐらいまでの子に限り、この子はあと1年だろう、90まで生きる・・・などと分かる
・おかつと同じ年頃の娘は、1年ぐらい前に大火などが分かる。1、2年のうちに上方で乱が起きると勘が働いている


「くらぶ者なき」

小太郎:新次郎夫婦の子

お玉は40前となり、益々太り、ぽかをすることが増えてきた。
おかつは6年になり、新次郎の若女房になった。相変わらずしっかりもので、ぽかをするお玉を叱りつける。

寺嶋屋は倅夫婦と孫2人が帰り、伊織は女中頭のお絹を後添えにした。
上総屋の隠居夫婦は、亭主が先に死んだ。3回忌の法要があった。その席で、寺嶋屋夫婦と浦栄のおかつ夫婦が改まった態度で頼み事をしてきた。ある人物の将来を、匿名で占ってくれとのこと。名前も身分も屋敷の場所も明かせない、という条件だった。

当日、駕籠に乗せられた。きっと身分の高い(上つ方)武家だろうと思っていたが、ついたところはお寺のようだった。尼寺だった。そこでいきなり裸にされ、尼僧の装いにさせられた。剃髪だけは勘弁してもらった。珠妙尼という名前まで与えられたが、お茶の一杯も出ぬまま長く待たされた。

目隠しをされ、威張り腐った女中につれられて偉い人の前へ。声を出すなと言われていたらしいが、声を出した。爺さんのようだった。きっと武家に違いない。掌をあわせると、人々の声が聞こえる。45年になるだろう、儲けた子が50人以上もいるという噂だ・・・あとは暗闇しか見えない。おそらく3年後には死んでいるのだろう、この人は。徳川家斉を強く臭わせる。

伊織たち4人も、誰であるのかは知らされていなかった。ただ、尼寺にはいてお玉を出迎えた。経緯として、伊織が元旗本の御前から頼まれたことを説明した。お玉の占いに従い、上方へと旅だった歌舞伎役者が脚本家として大成功したが、その行方を気にしていた元旗本が、占ったお玉の噂をその武家に伝えたところ、どうしても占ってほしいと頼まれたのだった。

喜之助の13回忌があった。お玉は、おかつに、喜之助の死について語った。口げんかをして、亭主にある武家屋敷への豆餅配達をいいつけた。その屋敷は女中の態度が悪くて気分が悪くなるので、その日の精神状態ではいきたくなかったからだった。喜之助はいつものように大人しく従い、配達に行ったが、その後、帰ってこなかった。どうやら、配達を終えた後、仙台堀で溺れかけている子供を助けたものの、自分は流されてしまったようだった。

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2026年07月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

【収録作品】
豆は煮えたか
身のほど知らず
いつ咲く 雲隠れ
宝引き
くらぶ者なき

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2026年06月02日

Posted by ブクログ

私はあまり占いは信じない方なんだけど、「ささげや」の占いならお願いしたい。もはや占いを通り越して、お告げと言った方がいいかも。掌に触れるとその人の未来が見えてしまうのだそう。
すごく先までではなくて、5年くらいまでというのがポイントだなと思う。
これから先、どうやって生きていこうかというときにそっとヒントを与えてくれるような、押し付けがましくないところがいい。
豆餅を買うついでに、「豆は煮えたか」の符牒を言って…ってやってみたい。

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2026年05月20日

Posted by ブクログ

一時は近世の実在人物を描いた歴史小説が多かったまかてさん、2023年の『どら蔵』に続く(間に『グロリアソサエテ』が入ってますが)、原点回帰的な人情物の時代小説~連作短編~です。
主人公の水茶屋・ささげやの女将のお玉は予知能力者。とは言え、ささやかな能力で、手に触ることによってその人の数年後の姿が思い浮かぶと言うレベル。持ち込まれる悩みも左程の事は無く、予知能力はあくまで背景です。物語は亭主を事故で亡くし苦戦するお玉と、それを取り巻く人々の助け合いを描く人情物の時代小説です。違和感を感じさせない話の持って行き方や、季節感の織り込み方など流石に慣れたものです。
ただ、ちょっと人名に苦戦。最初に登場した時に名前が明かされず、次回で明らかになる例が多く、途中で少々混乱してしまいました。

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2026年05月07日

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