【感想・ネタバレ】東京都同情塔(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

それは都市を導き、未来を方向付ける塔になる――。建築家・牧名沙羅は、〈同情されるべき人々〉【ホモ・ミゼラビリス】が暮らす新時代の刑務所・シンパシータワートーキョーのコンペに参加する。人は、どこまで寛容で在らねばならないのか。空虚な言葉と正義が支配する東京に、沙羅のデザインしたタワーがそびえ立つ。生成AI時代の到来を預言する衝撃の芥川賞受賞作。文庫化に際し、単行本未収録の短編と、建築家・永山祐子さんとの対談を収録。(解説・青木淳)

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Posted by ブクログ

ネタバレ

序盤で言葉の使い方にどこかはっとするというかおもしろさを感じた。
ストーリーだけでなく、言葉にも引きこまれる。
ミルクレープのようなことば。とても真摯に向き合って探られた言葉なのに、同時にひらひらと多面的というか。初めて彼女の文章を読んだけど、すぐ他の作品も読んでみたい。

そういえば、ザハ案の新国立競技場を扱った岡田利規の作品も印象的な舞台だったな。


p11〝狂ってる。何が?頭が狂ってる。いや、「頭」はあまりに範囲が広いか?〜STOP、主語のサイズに要注意。OK,それなら「有識者」でーと、鍵のかかった私の頭の中に誰も入れるわけがないのに、オートモードでワードチョイスの検閲機能が忙しなく働く。〜〟


p18〝〜本当に「世界を起こす」ために当然、幻視を描き起こすだけでは足りない。建築家の前に出現した美しい幻を現実化するには、実際的な技能も同じくらい必要だ。予算と工期を計算すること。権力にすり寄るのを恥じないこと。その建物がその形状をしていなければならない理由を、素人にもわかる言葉ででっち上げること。これらの技能のうちひとつでも欠けていたら、きっと私は美術館の壁に飾るためのお絵描きでもして暮らしていただろう。〜〟


p24〝〜それにしても、ただの言葉から軽いだの重いだの堅いだのやわらかいだのと、ありもしない想像上の感触を勝手に受け取って、実際に傷付いたりするのはいかにも奇妙で、〜〟

p43〝「牧名さんはこれからの人だ。ザハの教訓を忘れてはいけない。予算をきっちり守り、そして言葉を正しく使うことも重要だ。建築のエラーが、未来のエラーにならないように」〟

p44〝〜そしてこれは比喩ではなく、実際に建築とはそうあるべきなのだと、私はあらためて確認するのだった。建築は都市を導き、未来を方向付けるものでなければならない。〟

p51〝〜既に何度もお話ししたことではありますが、私はあなたがこれまで「犯罪者」にならずに済んでいるのは、私やあなたが素晴らしい人格を持って生まれたからではありません。あなたの生まれた場所がたまたま、素晴らしい人生を育むことが可能な環境だったからです。犯罪と関わりを持たずとも幸福な人生を歩むことができると、信じさせてくれる大人が周囲にいたからです。あなたが良いことをしたり、学校で良い成績をとったりするのを、大人たちが褒め、推奨してくれたからです。彼らがあなたに、「次もまた良いことをしよう」というモチベーションを与えてくれたからです。良いことを繰り返すうちに、目の前に困難な壁が立ちはだかっても、酷い失敗をしても、前を向き、未来に希望を持てるように育てられたからです。幸福な未来への意識が働くと、罪を犯したらどうなってしまうのだろうという予測を立てられるようになります。未来への想像力は、道を踏み外しそうになった時の協力な抑止力につながっているのです。あなたがこれまで罪を犯さず、クリーンに生きてこられたのは、あなたの幸福な特権のおかげに他なりません。〜〟

p54〝〜四十を過ぎてからそれをやろうとすると、おそらく諦観が進みすぎているのと、保身に走りすぎて冷静な判断を下せなくなる。あるいは冷静な判断しか下せなくなる。冷静さと正しさに関連性はない。〟

p69〝〜それに、これは店に来る客からいつも学ぶことだけれど、嘘っぽさはせっかくの本当に上質な服を安っぽく見せる。〜〟

p81〝〜「名前は物質じゃないけれど、名前は言葉だし、現実はいつも言葉から始まる。本当よ。この陸上世界を動かしているのは数学や物理が得意な人間じゃなく、口が上手い人間なんですよ。それで私もずいぶん痛い目に遭って来たんだから。君は違うの?〜〟

p124〝〜「それはマックスさんが「比較」をするからだと思いますよ。あらゆる不幸は他者との比較から始まると、マサキ・セトが言っていました」タクトは業務連絡のようにそっ気なく言った。〜〟

p148〝〜ただの言葉に抵抗するには、反論の言葉を考える前にまず、何が何でもぐっすりと眠らなくてはいけないのだ。〜〟

p150〝でもだからこそ、何の約束もないからこそ、私は私を待ち望み、祝福してくれる新たな世界の期待に応えたいと望む。私はその場所で、偶然によって得た力の全てを、そこに住む人々のために注ぎたいと、強く欲望する。なぜだろう?別に理由なんてない。何か特別な理由があって数式が解けるわけでもないのだ。〜〟

p157〝「マックス。私にとっては、理解も誤解も、あまり違いはないように思えるんだ。〜〟

p158〝「もちろん。それでもね、毎日のように『死ね』と言われ続けたおかげで、ひとつわかったことがある。世の中には、『死ね』という言葉を聞いて、自分の心臓に向かってナイフを突き刺さる感触を覚える人もいれば、単に動詞+命令形と処理する人間もいるよね。短い人生、もっと意味のある言葉を言えばいいのに、とヘイト中毒者に心からの同情をする人間もいる。『言葉』と聞いて葉っぱがざわざわ擦れる音を聞いている人もいれば、無音のテキストメッセージとして『言葉』を扱える人もいるわけでしょ。私はその全部であるべきだと思っている人間なんだけれど、何しろ体の方が足りていない。あなただってそうじゃない?そんな私たちが言葉を通して何かを本当に理解し合えるなんて思わない方がいい。私とマックスの耳を取り換えられるなら話は別だけれど。『手を洗って』と言って手を洗ってくれれば、私としては不満はないの」〟

p166〝「君の知っている建築家のエピソードを適当に入力して、『伝記っぽい文章にして』ってbuiltに頼めばいいじゃない」 「もちろん、何回もやってる。でも僕の目を通した建築家の女の人じゃないと、なんか伝記にならないんだよ。なんとなくだけれど、でも絶対に、『違う』って体が拒否してる。僕の中に住んでいる検閲者が、それは伝記じゃなくてただの文章だって言ってる。フォルムとテクスチャーがない、ただのクソ文、ファッキン・テキストだって」〟

p171〝〜有り得ないことではない。言語的に表現できている時点で、じゅうぶんに現実化の可能性を秘めいている。何といってもそれは、まだ見ぬ未来の語彙の中で起きている出来事なのだ。〜〟


------特別対談 建てること、書くこと 未来を創り出すこと------
p191〝九段 このあいだメディアアーティストの落合陽一さんに「九段さんはロマンチストだ」と言われたんです。落合さんは、一つの建築で人の意識や世界が変わることはないというんです。私は正反対の考えで、もしザハの〈新国立競技場〉が建っていたら人の意識は変容し、社会のあり方はかなり違っていただろうという想定のもと小説を書いたのですが、本山さんはその点どう思われますか?私はロマンチストすぎますか?

永山 そんなことないでしょう。たとえば一つ建築が建つと、その後建てられる周囲の建築は何らかの影響を受けます。特に日本は都市の中のコンテクストを大切にしているし、海外に行くと文化圏ごとにコンテクストの扱い方は違うことを実感します。そして国ごとに文化が異なるように、環境は人の精神性に何らかの作用をするでしょう。〟

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2026年08月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ザハが勝ち取った国立競技場が建設された世界線が描かれたディストピア風の物語。

まわりくどくて飽きが来そうな論調と、テーマの深さのバランスが絶妙でなんだかんだ読み終えてしまう。

AIに対して、回答しないという選択肢が取れない不憫や哀れな存在だと揶揄する描写や、幸せを論ずる上で他者との比較を禁止するというシンパシータワートーキョーのルールだとか、日本人はどんどん日本語を捨ててダサくなってるとか…。物語の核となる刑務所タワーともいうべき「東京都同情塔」も犯罪者は同情すべき存在、「ホモ・ミゼラビリス」としたり、発想はとても面白かった。

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2026年07月02日

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