あらすじ
商社マンの長男としてロンドンで生まれ、フィラデルフィアで天涯孤独になった朝倉恭介。彼が作り上げたのは、コンピュータを駆使したコカイン密輸の完璧なシステムだった。著者の記念碑的デビュー作。
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Posted by ブクログ
【感想】
本当に面白いかった!!
もう、朝倉恭介というダークヒーローのカリスマ性に、終始痺れっぱなしでしたね~。
アーミーのように屈強で、悪魔のように非情で、ただのワルでは到底追いつかないような頭の回転の速さ。
・・・・白竜かよ!!!!
全6作のシリーズものなので、続編も早く読みたい!!
本作品は、主人公である「朝倉恭介」がどのような経路をもってダークサイドに堕ちてしまったのか。
彼が過ごしてきた生い立ちや留学生活、そして初めての殺人など、彼の人生の振り返りについても詳しく描かれていました。
また、彼自身の哲学や魅力、人生観について惜しげもなく描かれていました。
色んなものに恵まれたパワーエリートでありながら、両親の死によって世間の非情さ、「正義」というものの正体、そんな中で自身が生きていく道。
彼が辿ってきた人生で身に着けざるを得なかったそのハングリーさや野生味は、真山仁の「ハゲタカシリーズ」の主人公である鷲津政彦を彷彿とさせますね。
(ステゴロでは断トツで朝倉恭介が勝つでしょうが。笑)
一介のサラリーマンである私ごときでは、今後も朝倉恭介のような人間になる事は決してないとは思いますが、彼の金儲けへの貪欲さや知識の豊富さ、世の理についての情報量の多さなどは、見習わなくてはいけませんね。
アクション小説として、非常に面白い1冊でした!
【あらすじ】
商社マンの長男としてロンドンで生まれ、父の転勤に伴い渡米し、フィラデルフィアのミリタリースクールで聡明な頭脳と強靱な肉体を造り上げた朝倉恭介。
その彼を悲劇が見舞う。航空機事故で両親が他界し、フィラデルフィアで天涯孤独になってしまったのだ。
さらに正当防衛で暴漢二人を殺害。以来、恭介は、全身全霊を賭して「悪」の世界で生きていくことを決意する。
そんな彼が創出したのは、コンピューター・ネットワークを駆使したコカイン密輸の完璧なシステムだった。
「朝倉恭介VS川瀬雅彦」シリーズ第1弾。
【引用】
1.酒も女もドラッグも、程々にやればこんな楽しいものはない。
快楽を追求するのは人間の本能というものだ、それ自体は決して悪いものではない。
しかしそれに溺れてはいけない。そのいずれもが、一旦溺れてしまうと、そこから抜け出すには溺れる以上の苦労を伴うものだ
2.恭介は、世の中で「まとも」とか「正義」と言われるものの正体がいかに得体の知れないものであるか、そしてこの世の中が実のところそうした人間たちによってのみ動かされているという現実を、はやくも18歳にして垣間見ることになったのである。
3.「信じられるかね?最高の教育を受けた人間たちが知恵と汗のかぎりを尽くして稼ぎ出すよりも、遥かに大きな利益を最低な人間たちが産み出している現実を・・・」
ファルージオは言った。
「群の頂点に君臨していくためには、知性もさることながら、絶対的な指導力、財力、知力、そして恐怖の力、そのいずれをも持ち合わせねばならないのだ。」
4.キャンパスの生活は退屈なものだった。しかし、だからといって恭介は決して勉学を疎かにすることはなかった。
当時の恭介にはこれといった夢もなかったが、どういう道に進むにしても、ここで施される教育が将来役に立つものであることには違いなかったからである。
中でも恭介は、語学の習得により一層の時間を費やした。
同時に恭介は、勉学に割いた残りの時間の殆どを、高校時代から続けていた格闘技の訓練に費やした。
道場を経営するのはデービッド・ベイヤーという男で、いろんな格闘技の達人であり本質的な意味でのエキスパートであった。
が、道場に通い始めて2年目あたり、実戦で鍛え上げてきたベイヤーでさえ敵わなくなるほど腕を上げ、同時にその体も鋼のように磨き上げられていった。
【メモ】
Cの福音
p23
人種の坩堝(るつぼ)といわれるニューヨークの社会は、実際のところその言葉が示すほど複雑なものではない。
そこで暮らす人間が置かれるレベル、つまりは成功の度合いによって、所属する社会があからさまに違ってくるからだ。
それはある意味では、近代社会が生み出した新たな階層社会が存在するのだと言っていい。
同列のレベルにある人間が集まれば、価値観や話題も自然とそれ相応のものになる。
こうしたパーティは新たな刺激を求める場というよりは、自分の置かれているポジションを確認し、時としてそうした場で得られるビジネスチャンスやコネクションを利用して、さらに上のクラスへのステップアップのチャンスを得る場でもあった。
p50
「シゲミ、吸い過ぎは体に毒だ」チアーザは冷たく言い放った。
「私の周りにもコークをやっている人間は何人かいるが、皆中毒にならない程度にうまく付き合っている」
チアーザはゆっくりとベッドから立ち上がると、
「酒も女もドラッグも、程々にやればこんな楽しいものはない。快楽を追求するのは人間の本能というものだ、それ自体は決して悪いものではない。しかしそれに溺れてはいけない。そのいずれもが、一旦溺れてしまうと、そこから抜け出すには溺れる以上の苦労を伴うものだ」
p58
「よりによってミリタリースクールでなくとも・・・どうしても手元から離すというのなら、全寮制のプレップスクールでもいいじゃありませんか」
優一朗に対しては滅多な事では異を唱える事のない妻が、この時ばかりは必死に食い下がった。
優一朗にしても、一人息子である恭介をもうしばらく手元に置いておきたい気持ちは同じであった。
それを許さなかったのは、優一朗自身が軍人家庭の一人息子として厳格な家庭環境の下で育てられたことに一因があった。
人格を形成していく上で最も重要な時期に、自由と個性を伸ばす事を尊重する文化や習慣に染まった教育を受けた駐在員の子女の多くが、日本に帰国したのち母国の社会と自己のアイデンティティーの狭間で苦しむものなのである。
組織の中で個を生かす術を身に付けることが、恭介の将来にプラスに働く。
そして恭介は、そうした環境に見事に耐え、聡明な頭脳と強靭な体力を身につけていった。
p59
一人息子の卒業式に参加するためにニューヨークからフィラデルフィアに向かった恭介の両親を乗せた旅客機が、悪天候の中着陸に失敗し、爆発炎上した。
しかし、全くプライベートな旅行で命を失ったというだけで、四半世紀にわたって仕事に文字通り生活の全てを捧げてきた男に対し、会社は冷淡であった。
あれほど会社を思い、身を粉にして働いた男に対する代償がこれか・・・
恭介は勤め人という立場にある人間の悲哀を、いやというほど味わう事になった。
また、恭介が手にした合計300万ドルの補償金額のうち、30パーセントという額を法律事務所は当然のごとく持っていった。
実際に命を失ったわけでも、愛する人間を失ったわけでもないただの法律屋が、単にその知識を活かして交渉代行したというだけで、である。
恭介は、世の中で「まとも」とか「正義」と言われるものの正体がいかに得体の知れないものであるか、そしてこの世の中が実のところそうした人間たちによってのみ動かされているという現実を、はやくも18歳にして垣間見ることになったのである。
p63
キャンパスの生活は退屈なものだった。しかし、だからといって恭介は決して勉学を疎かにすることはなかった。
当時の恭介にはこれといった夢もなかったが、どういう道に進むにしても、ここで施される教育が将来役に立つものであることには違いなかったからである。
中でも恭介は、語学の習得により一層の時間を費やした。
同時に恭介は、勉学に割いた残りの時間の殆どを、高校時代から続けていた格闘技の訓練に費やした。
道場を経営するのはデービッド・ベイヤーという男で、いろんな格闘技の達人であり本質的な意味でのエキスパートであったが、道場に通い始めて2年目あたり、実戦で鍛え上げてきたベイヤーでさえ敵わなくなるほど腕を上げ、同時にその体も鋼のように磨き上げられていった。
p71
「信じられるかね?最高の教育を受けた人間たちが知恵と汗のかぎりを尽くして稼ぎ出すよりも、遥かに大きな利益を最低な人間たちが産み出している現実を・・・」
ファルージオは、火を見ながら静かに言った。
「君はカラスの習性を知っているかね?カラスの習性は実に我々の世界に似ていてね、知能が極めて高い上に、悪食で生命力に満ち溢れている。
仲間同士の結束も強いように見える半面、弱った仲間は決して見逃さず、寄ってたかってそいつを共食いしてしまう。
カラスの死体が滅多に見つからないのはそのせいだ。」
「群の頂点に君臨していくためには、知性もさることながら、絶対的な指導力、財力、知力、そして恐怖の力、そのいずれをも持ち合わせねばならないのだ。」
p77
「勝負は相手が完全に戦闘能力を無くした時に初めて決まる」
恭介の脳裏に、ベイヤーの教えがよぎった。
人を殺めるのは初めてのことだったが、不思議なほど恭介は落ち着いていた。
「しがらみ」のすべてから解放された恭介にとって、如何なる事態がその身に降りかかろうとも、すべては自らの責任に帰結し、自らの力をもって解決するしかないのだ。
p192
島国という日本の地理的条件は、ドラッグの国内の持ち込みを非常に困難なものにしていた。
日本の税関はきわめて優秀である上に、南米や東南アジアの一部の国とは違って職務に対するモラルも高く、密輸を行う際に官吏を買収してお目こぼしを願うといった状況を作る事は絶望的だった。
空路でコカインを日本に持ち込むのは発覚する確率があまりに高く、よしんば持ち込めてもその量はあまりにも少ない。最も合理的な方法は、やはり海路で純度の高いコカインを持ち込み、日本国内で増量して販売することだ。
p255
厄介な事になったと恭介は思った。
恭介にとって一番恐るべき事は、「鸚鵡」の暴走だ。
なにかの拍子でコカインが切れ、禁断症状に陥った「鸚鵡」が不測の行動に出る事は、ネットワークの存在そのものに重大な影響を及ぼす。
こういう事態が発生した場合、直ちにコカインを届ける事は、選択の余地がないことは確かだ。
しかし問題は、稲田がアクシンデントと呼ぶ事態が果たして本当に起きたことなのか、恭介には確かめる術がないことだ。
(中略)
恭介の腹は決まった。
やはり危険は冒すべきではない。稲田の住居は都内だ。
速達で送れば、遅くとも明後日には稲田の元に当面十分な量のコカインが届く。あと2日の我慢だ。恭介はそう判断した。
それは、自らが麻薬を使用したことのないドラッグディーラーが犯した、大きな間違いだった。
p285
「いいんですか、やつをそのまま帰しても」
しかし朱は、明らかに気分を良くしていた。
「驚いたな、よく考えたものだ。奴らがコカインを日本に運び込む方法は」
「コカインを運び込む方法ですって?」
葉は眉を少し上げ、驚いた口調で聞いた。
「おそらく稲田が流しているシッピング・インフォメーションの中のコンテナに紛れて、コカインは運ばれてくるに違いない。裏で糸を引いているのは、おそらくアメリカのマフィアだろう」
朱は言うと、そのからくりのあらましを、自らもまた納得するためであるかのように、訥々と喋り始めた。