あらすじ
暗黒の森の中で銃声とともにこだまするうめき声。「来た。鬼が来たんじゃ」。昭和十三年、岡山県北部で起こった伝説の「三十三人殺傷事件」。おとなしく、利発でええ子だったはずの辰男は、なぜ、前代未聞の凶行へと至ったのか。狂気か? 憤怒か? 怨恨か? 古い村の因習と閉ざされた家族の歪な様相、人間の業と性の深淵を掘り下げながら、満月の晩に異形の「鬼」となって疾駈する主人公を濃密な文体で描き出した戦慄の長編小説。話題の女流作家が切り拓いた圧倒的迫力の新境地!
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Posted by ブクログ
八墓村好きな方はぜひ。
岩井氏の文章は、重たいです。
なんだかとても時間がかかります。
方言も多く、なんというかねっとりというか、ずっしりというかそういう感じ…
なんとなく、後で何が起こるのか分かっていつつもその瞬間が来るのが怖い、でも期待してしまう、そんな感じのホラーでした。
Posted by ブクログ
とにかく読んで不安定になる小説とでも言おうか。
岩井さんのホラーは全てそうなのだけれど、
殺人が行われた村の空間に漂う人々の、
恐怖がそのまま乗り移っているみたいなのだ。
Posted by ブクログ
「津山三十三人殺傷事件」——昭和13年、岡山の寒村で惨劇は実際に起こった。子供の頃は村で一番の秀才と言われた筈の男が、長じてからは挫折してしまった。進学も出来ず、徴兵検査にも落ちた自分を馬鹿にした村人達への私怨をはらすため、老若男女の区別なく村人三十三人を一晩で惨殺したのだ。この実際に起きた事件を題材としているのが本書「夜啼きの森」である。
そもそも題材としているものが非常に衝撃的なものなのだ。ただ普通に描くだけでも充分興味深い話となる筈のものである。これを、ストレートに事件をとらえるのではなく事件の側面を描くことにより、ただ猟奇的な事件の物語とはならず、さらに深い人間の心理の物語となっている。
構成が実に良かった。章ごとに一人の村人に焦点をあてその一人の視点から村の人間関係を描き、次の章へとうつればまた別の人物を中心として他の人々が描かれる。複数の人間をピックアップし、それぞれの視点を中心として描くことにより、深い因習に根ざした村から逃れられない人々の悲哀や苦悩が立体的に構築されているのだ。逆に主人公であるはずの辰男については、直接描かれることはない。各章ごとの中心人物との関わりにおいてか、村人たちの口の端に上る噂話でしか描かれない。そこがまた巧みなところだとも思う。辰男自身の直接の心理描写がないため、凶行に至るまでの精神的な経緯ははっきりとはわからない。しかし、中心人物としておかれた村人たちは、皆、辰男の分身でもあるのだ。彼らの抱えているやるせなさ、悲しみはすべて辰男の心の状態でもある。暗い新月から始まって各章ごとに月は満ちていき、そして月とともに辰男の狂気も満ちていく。
人の心には何かどす黒いものが住んでいる。自分の中にもきっとある。認めたくはない何か嫌なものが。社会に関わり生きていくなら、自分の気持ちと周りとの折り合いをつけ、その「何か嫌なもの」を自分の中から無くそうと努力していかねばならない。しかし、精神の均衡が破れたとき、それはいつか大きく育ち、抱え切れなくなってあらぬ方へ吐き出してしまうのではないか。そんな不安をあおられる、重い読後感だった。彼ら村人すべてを、せつなく悲しく思った。
Posted by ブクログ
本当にあった話はなんでこんなに怖いんでしょう・・。
「八つ墓村」のあの強烈ないでたちを思い出しますが・・。
子供の頃「半日村」と言う本を読んだことがありますが、それにも重なる暗さが・・。
気候に恵まれず、貧困を極める岡山の奥地の村。
戦争の影に、徴兵検査に落ちた”肺病病み”の男、辰男・・。
噂話と苛めと夜這いに似非宗教・・
因習にまみれた村に銃声と悲鳴が・・。
やりきれない気分になりますね・・・
全てがどろどろとして・・。
賢くてお姉さんっ子だった辰男が「鬼」に変貌していくまで・・
ドキドキしながら読みました。
終章は少しくどい気もしましたが、読めば読むほど奈落に落とそうな気分です・・。