あらすじ
栄光に彩られた野球人生を全うするはずだった加倉昭彦を肩の故障が襲う。引退、事業の失敗、離婚、残った莫大な借金。加倉は再起を賭け台湾プロ野球に身を投じる。それでも将来の不安が消えることはない。苛立つ加倉は台湾マフィアの誘いに乗り、放水――八百長に手を染めた。交錯する絆と裏切り。揺れ動く愛と憎しみ。破滅への道しか進むことのできない閉塞状況のなかで解き放たれていく狂気……。人間の根源的欲望を描き切ったアジアン・ノワールの最高峰!
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Posted by ブクログ
冒頭から、主人公・加倉の転落の描写の歯切れのよいこと。これで物語にスムーズに入っていくが…。
”主人公”であっても良心の人でも正義の人でもなく、一般的な基準で言えば、どうしようもない悪党。そんな言葉が生易しくなるほどの犯罪者となっていく、その軌跡をつづった物語と言っていい。
しかもバイオレンスも性描写も短いながら、フラッシュのように情景を切り取り、映し出し、嫌悪感すら覚える。
それでいて読み続けるのは、加倉の想いや本能にどこか共感を覚えずにはいられないからだろう。デフォルメされ普通の人だったら抑制される臨界点を軽々と超えて行くところだけが違うのであって、金・欲に対する欲望自体は変わらないのだから。
しかも登場人物は、ほとんどが悪党。最初の臨界点を超える殺人だけがまともな相手だけにあとは加倉を食い物にしようという犯罪者だらけ。もみくちゃにされ血を這いつくばりながらも本能に導かれ屍を乗り越えていく加倉の生きざまはすさまじいばかり。
前半、物語があまり動かないのだが、後半は疾走感もあって一気読み。そして意外なことに余韻の残るラストが今までの殺戮と対照的で見事に物語を締めくくっている。
モラル的には賛否もあろうが、間違いなく傑作。