あらすじ
何一つ不自由のない家庭に育った子供が起こした「いたずら」。そこには恐ろしい意味が隠されていた――。ホラー短編の最高傑作『魔少年』をはじめ、“顔のない男”に日夜悩まされる『空白の凶相』。女の執念の憎悪を描く『雪の絶唱』。共犯であるはずの男から脅迫される『死を運ぶ天敵』など、人間の心の暗部を映す、現実的ホラー短編集。〈七つの恐怖〉
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Posted by ブクログ
昭和51年に講談社文庫として刊行されてから、そのあと、角川文庫から角川ホラー文庫へと変遷。作者初期の全七編を収めた短篇集である。ホラー小説と呼べるのは、『空白の凶相』くらいではなかろうか。ほかは作者らしい、ひねりの利いたサスペンス、皮肉な結末を用意している人間ドラマと呼んだほうがいいだろう。『死を運ぶ天敵』や『殺意中毒症』のような推理小説仕立ての作品もあり、いずれも面白い。この時期の作者は多作を極めているが、よくも巧みなプロットを次々とひねり出せるものである。
表題作の『魔少年』は、悪魔的な悪巧みを企てる少年に不気味さを感じていた母親が、自らの不貞をきっかけに、驚くべき真相を知らされるもの。ひねりがピリッと利いている。『燃えつきた蝋燭』は人生の無常が強調された作品。寝たきりの老人の生への執着、孤独が生む心の荒廃、若者への嫉妬が引き起こす残酷な結末。読後感は実に重い。『雪の絶唱』は女の独占欲の強さ、執念の恐ろしさが、死して男を追い詰めるという作品。異形の愛の完成には言葉もない。一番の秀作には『殺意中毒症』を挙げておきたい。"意外な真相"が明かされたと思いきや、更なるどんでん返しにはさすがの一言。