あらすじ
リーマン・ショック後、日本を襲う急激な円高。輸出頼み、海外との価格競争では未曾有の不況を脱せない。構造改革論からデフレ論まで、経済政策の迷走を徹底批判。公共性の柔軟な解釈に基づく知的新機軸を打ち出す。国際問題や民主党政策など、2008~10年の社会事象を分析。
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Posted by ブクログ
小泉政権下での構造改革や規制緩和、低金利政策による円安誘導など一連の政策を、輸出企業の国際競争力強化を図る「重商主義」と定義し、輸出企業が稼いできた利益が国民に分配されなかったことや内需が絶対的に弱ってしまったことで実質的には行き詰ったもの、と断じている。
一方で、民主党政権による政策については、結局農家の戸別保障制度や家族手当などのばらまきに終始してしまったために、持続的な成長戦略を全く欠いてしまっているとしている。
その上で、著者としては内需の成長こそが日本経済に必要であると論じ、具体策として、国民にとって本当に必要な公共事業を行うこと、たとえば保育園の整備だったり、人と自然が調和をして国民にとって憩いともなれるような土木事業だったり、文化性をはぐぐむ公共施設の整備などをあげている。ハコモノ、既得権益と癒着渦巻く旧来型の公共事業ではなく、本当に国民にとって必要な「公共」事業によって内需の成長を見直すべきとしている。
また、慢性的なデフレ状態は、世代間の不均衡、いわゆる福祉の世代間格差こそが根本的な原因であることを見抜いている。民主党政権のようなばらまきを行っても、将来不安がある限り国民が消費行動に向かうことは無いとして、不安の解消こそが優先して行うべき政策だと論じている。
非常に論理が明確で言っていることが腑に落ちる内容です。
とくに世代間格差の問題や将来不安について、ここまで一般の国民心理を理解されている人がいるのに、なぜ政治の世界には届かないのだろうと改めて不思議に思う感覚でした。
主張についての賛否はともかく、経済と政治の分野において、現代の日本立ち位置を理解するのに非常に役立つ一冊。お勧めです。
Posted by ブクログ
民主党政権には、国民の歓心を買うためにカネをばら撒くのではなく、将来不安の解消や公共心を培うための公共ストックの充実に向けて使ってもらいたい。それが重商主義時代の終わりに臨む政治の構え方。
Posted by ブクログ
この著者については,朝日新聞「論壇時評」のときから注目していた。経済学者でありながら,社会の動きに広く目配りをして,説得力ある論旨を展開していた。本書はその改稿を含め,現在の日本社会・経済・政治の問題点を指摘し,それに対して(著者なりの)一定の処方箋を与えようとしている。自民党の高度成長期が終了するころまでの政策を一定程度評価しつつ,その晩期における問題の指摘はうなずけるところであり,また一方,現在の民主党政権への政権交代に一定の時代的必然があるとしながらも,個別政策とその背景にある考え方に一定の疑問符をつけている。「コンクリートから人へ」は,現実には「コンクリートからカネへ」ではないかという,著者の指摘はなるほどと思わされる。
著者は,小泉政権時代に取られた「重商主義政策」によって,日本社会の「中間組織」がことごとく破壊され(自民党が依拠していたのはこの層であり,この崩壊が自民党が政権を失う原因の一つとなったという),人々がそれに代わる新たなコミュニケーション回路を模索している時代であるともいう。
こうした時代における政治の役割というものを考えさせる著作である。