あらすじ
新聞連載時より話題沸騰! “最後の文士”にして“私小説家の鬼”たる著者が、投稿による身の上相談に答える。妻子ある教師の「教え子の女子高生が恋しい」、主婦の「義父母を看取るのが苦しい」……この問いに著者が突きつける凄絶苛烈な回答とは?
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Posted by ブクログ
「いやあ、今日も車谷先生、豪快に殺したはるわ~」
万城目学による所感。先日、万城目の『ザ・万地固め』の中に本書の”解説”が丸々収録されていた。それを読んで、こりゃ面白そうと読んでみたもの。確かに、面白かった。
人生相談ものは、なんと言っても悩みそのものより回答者の人となりが出る回答っぷりが見もの(読みもの?!)。お題を与えられて答える、いわば大喜利のようなもんだ。
古くは中島らもの『明るい悩み相談室』にハマり、最近読んだものでは、伊集院静の『悩むが花』が痛快だった。楠木健による、いかにも胡散臭い回答だらけの『好きなようにしてください』も、ある意味、こうした人生悩み相談の本質がよく分かる。その楠木自身が引用しているように、「結局は「がんばろうぜ」になる相談(水野タケシ)」ということだ。
が、この車谷長吉は、ちょっと違う。かなり違う。万城目が言うように、ほとんど相談になってない。それどころか「がんばろうぜ」も言ってない。思いっきり相談者へのダメ出しオンパレードだ。 相談者に対して「あなたはxxxな人間だ」と言い切る。曰く、
「あなたはなまくらな人です。」
「あなたは小利口な人です。」
「あなたの夫は駄目な男です。」
「この人は一生救われないな」
万城目じゃなくても、
「いやあ、豪快に殺したはるわ~」
となるわな、こりゃ。
万城目の解説をさらに引用すると
「悩み事と言う精神の暗き淵から発せられた訴えに対し、さらなる奈落から回答する。まったく新しい悩み事相談のかたちを、車谷さんは作り出したのではなかろうか。」
これに尽きる。
が、己の艱難辛苦を舐めた人生の実体験、仏教徒としての、ほとんど悟りの境地から発せられる言葉の数々は、実に重いし、真実を突いているようで、相談者もぐうの音も出ない趣きがある。
とある悩みで、このままでは人生が破綻してしまうという相談には、
「世の多くの人は、自分の生はこの世に誕生した時に始まった、と考えていますが、実はそうではありません。生が破綻した時に、はじめて人生が始まるのです。」
とむしろ破局へ進めと言う。
行動を起こさず、何か良い対処方法を訪ねてくるような質問者には、行動を起こせと言い、
「その結果、重大なことが起きれば、その責任はあなたが取ればいいのです。いやなことに黙って耐えるよりは、ずっと気持ちが楽になるはずです。
人間世界には、楽な道はありません。」
と、喝破。
夫の浮気を相談してきた主婦が、世間に後ろ指をさされないよう上手くやめさせられないかと相談してきたら、世間体を気にする相談者をまず責める。
「だから、あなたの夫はそこにつけ込んで、浮気を繰り返してきたのです。責任の半分はあなたにあります。(中略)まず反省すべきはあなたです。」
すごい!すごいぞ、車谷先生!!!!
ある意味、ちゃんと回答してるとも言える。人生の救いを提示しているんじゃなかろうか。
言われた本人は、相談する前よりもいっそ落ち込みそうだけど(笑)
そんな車谷さんだけど、心を落ち着かせるため、精神の安定を得るために、奈良を訪ねるよう言ってくれるのは、いいね。
「私は仏教徒なので、奈良県の大和盆地のお寺を訪ね歩くのが好きです。(中略)一人で行けば、心静まる時間が得られます。あなたにもぜひお勧めいたします。」
著者の作品は過去1冊しか読んでいないが、人となりを分かった上で、改めて読んでみようと、少し、思った。