あらすじ
格差は、負け組も勝ち組も寿命を縮める。
ハーバードで世界が熱い視線を送る授業がある。日本人教授イチロー・カワチによる健康格差論の授業だ。先進国の中で寿命が短いアメリカと、世界トップ級の日本。この違いは格差にあった。今、格差の広がりとともに日本の長寿は危機に瀕している。格差はストレスを生み、信頼や絆を損ね、寿命を縮める。人々の命を守るには、日本の長寿を支えてきた、格差が少ない結束の強い社会を守るべき――所得、教育、労働、人間関係…あらゆる側面から格差を分析、新たな長寿への可能性を探る。
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感情タグBEST3
健康的な社会を目指して
一部ご紹介します。
・人は、社会経済的状況によって、すむ家や食べ物、医療へのアクセスなど健康状態を左右する要素が決められてしまう。
・所得格差によって、国民の健康状態に悪影響を及ぼすことがある。高所得者が今まで社会で賄っていた教育、医療、警備などの基本的なインフラに関して、自腹を切って、自分たちのためだけに個人で負担するようになる。その結果、高所得者は、自分たちの税金が他の人のインフラを支えることに不満を募らせる。
最終的に、社会インフラの質が低下し、地域全体の健康状態の悪化を招く。
・所得格差の是正、幼児期からの早期の教育、職の安定が必要だ。
・幼児期に100万円の教育投資をすることで、やがて年間17万円分の『利益(健康や年収など)』が入ってくる。
・女性のストレスを少しでも減らすには、男性も家事に参加することが大事。
・体に悪いものに課税する。逆に健康的な商品、サービスに対して、政府が補助金を出す。
・国民全体の健康状態を底上げするには、労働時間に制限を設けたり、地域の治安を良くすることが先ずは必要だ。
・自治体の取り組みを応援する。
・法律や制度の改正に対して声をあげる
・健康的な取り組みを推進する政治家に投票する
・人とのつながりを重視する
Posted by ブクログ
これは名著。
健康格差とソーシャルキャピタル、ポピュレーションアプローチや社会疫学について、分かりやすく丁寧に解説してくれている。
健康づくり政策にとっての行動経済学の重要性まで触れていて、関係者必読の本。
Posted by ブクログ
健康を「上流」から良くしていくパブリックヘルスの魅力、コミュニティの力に感動。特に、社会的格差が上流階級層にも健康に悪影響を及ぼすことに目から鱗が落ちる思い。
Posted by ブクログ
医療関係の活動をしている方にはぜひ進めたい一冊
何故日本が長寿なのか。
健康意識も医療費も高いアメリカの寿命はなぜ低いのか?
環境と格差
格差は絶対に生まれるが、格差が大きいほどすべての階層の人の寿命が縮む。その「命の格差」を縮めるにはどうするべきか?
パブリックヘルスは社会全体の健康を考え、どこにいる人たちに働きかけるか。手段はえらばない。
虫歯を減らすために水道水にフッ素を入れるのもあり
人の行動をどう変えるのか?
Posted by ブクログ
社会疫学書は自然科学書と言ってよいか、という問題はあるかもしれないが、ハーヴァード大学で活躍するもう一人のイチローの名著。臨床医学から公衆衛生学に転身して活躍している研究者は何人もいるが、この人の語り口はとりわけ心地よい。文科系の学生さんにも、いや、にこそ、一読をお勧めする。ポピュレーションストラテジーの意味がよくわからない人にはとりわけ。
Posted by ブクログ
もーめちゃくちゃおもしろい!!そして文章のいたるところからカワチ先生の人柄がにじみ出ていて。いやーとにかく面白かった!!!!
友人によく「おまえ大学院でなにしてんの?」って聞かれるんですけど、この本がまさに答え!!まだまだ自分の口で上手に説明はできませんが(汗)
Posted by ブクログ
日本出身でハーバード大教授の社会疫学者。専門書では翻訳が何冊か出ているが、新書で著者の研究をわかりやすく解説された書籍。米国は医療費を多額にかけながら、低い健康水準であるが、その大きな要因は経済格差である。低所得層が影響をまず受けるのはわかるが、高所得層にも影響を受ける。資本主義である限り、格差をゼロにする事はできないが、格差を少なくする戦略として、①所得格差の是正②幼児期からの早期の教育③職の安定、が必要と著者は言う。そして社会全体をよりよくするための仕組みを作り、一人一人が行動を変えやすくするための環境を整える事が大切。個人の行動変容は、社会全体の枠組みを形成する中で、はじめて実現可能となるのであり、自己責任論に立つ限り改善はえられない。以上の事を科学的根拠を持って解説されるので説得力がある。まさに『上医は国を医す』である。
Posted by ブクログ
前半は医者なら知っていること(論文に良く患者のsocio-economic statusについて言及があるし)。
5章と6章については「なるほど」と思った。若い医者は知っているんだろうな。
Posted by ブクログ
公衆衛生を具体的にわかりやすく扱った良書です。治療も大事ですが、予防で救える命の数はその比ではないことをよく理解できます。同時にその影響力の大きさと采配の難しさも。
Posted by ブクログ
社会疫学の視点から健康格差の必要性を主張している。かつての日本は地域での絆が強く、健康格差の是正に貢献していたが、経済的格差の拡大などにつれ日本でも健康格差が拡大しているとの著者の主張はうなづける。コロナ危機を受けて格差が拡大基調にある中、健康格差にどう取り組むかについての示唆を与えてくれる一冊。
Posted by ブクログ
ハーバード大学の日本人教授、
イチロー・カワチ氏による社会疫学についての紹介・解説書です。
たとえば、肥満で生活習慣病になってしまったひとがいるとする。
血圧も高い、血糖値も高い、などを改善していくために、
お医者さんが薬を処方し、運動不足を解消するように促したりする。
そういうのは、健康を大きな川の流れに喩えると、
下流での対処のしかただと、カワチ氏はいいます。
社会疫学は、川の上流で対処をするための学問。
上流ではなにが起こっているかを考えると、
貧困によって粗悪なスナック菓子や惣菜などを食べざるを得なくなっていたり、
それらの営業宣伝がうまく感情に訴えることもあって、
食生活に溶け込んでしまっていたり、ということがわかる。
社会全体を鳥瞰図のように見て、
処方箋を考えようとするのが特徴のようです。
なので、個人に責任を帰することはほとんどしない。
あくまで社会の仕組みの問題であり、
個人個人を見ていくにあたっても、
行動経済学の考え方で見ていくことになります。
人間一般の行動原理としてみていくので、
個人を責めることはないのです。
本書に、以下のような引用があります。
「下流」にいるお医者さんを主人公にして、
「上流」をイメージするに適した文章です。
_____________
「岸辺を歩いていると、助けて!という声が聞こえます。
誰かが溺れかけているのです。そこで、私は飛びこみ、その人を岸に引きずりあげます。」
「心臓マッサージをして、呼吸を確保して、一命をとりとめてホッとするのもつかの間。
また助けを呼ぶ声が聞こえるのです。」
「私はその声を聞いてまた川に飛び込み、患者を岸まで引っ張り、緊急処置をほどこします。
すると、また声が聞こえてきます。次々と声が聞こえてくるのです。」
「気がつくと私は常に川に飛び込んで、人の命を救ってばかりいるのですが、
一体誰が上流でこれだけの人を川に突き落としているのか、見に行く時間が一切ないのです。」
_____________
この「上流」を本書では、パブリックヘルスと呼んでもいます。
おもしろかったのが、
肥満は伝染する話です。
細菌やウイルスによって伝染するというのとは違いますが、
調査によって、わかっていることだそうです。
肥満の人が身近にいると、50%の確率でその友だちは肥満になるそうです。
肥満の友だちと直接関係が無くても、
肥満の人の友だちの友だちは20%の確率で肥満になる。
友だちの友だちの友だちにいたっては10%の確率で肥満に。
僕はこれってミラーニューロンが何か
影響しているのではないかなあと思いましたが、
仮に影響していても、たぶん小さい影響で、
なにがしか、脳全体に関わるような影響がありそうに思えます。
心理学的にはもう無意識の領域かもしれない。
また、現行の非正規雇用は不健康を産むだとか、
流れ作業が大きなストレスを産むだとか、
話の流れの中で登場する数々のトピックがどれも興味を引きました。
理想の労働環境について、図を用いて説明してくれたり、
高い教育を受けた者は健康である確率が高いことを教えてくれたり、
人との触れ合い、それが具体的な助けではなくても、
なにがしか助けたり助けられたりしているというソーシャルサポートの話があったり、
200ページちょっとのなかで、盛りだくさんでした。
でも、整理されているので、ごみごみしていない本で、読みやすいんですよ。
最近では受動喫煙制限の話題がありますが、
これなんかは法律でどうにかしようとしている。
つまりは、社会疫学、パブリックヘルスの考え方でやっているってことです。
著者は、日本の絆や繋がりといったものが
どうやら長寿に関係していると見ています。
日本の外にいると、それが顕著にわかるそうなんです。
日本の内側にいると、近所づきあいだとか面倒くさいなあ、なんて
思う人は多いと思うのですが、
そうであっても、長寿の恩恵はそういうところから来ているとしています。
日本の平均寿命は長らく世界No.1でしたが、その座から陥落しているそうです。
格差社会の到来がその原因ではないかと本書は言っています。
この長寿No.1の座に復権するためにも、
健康目線で社会を変えていこう、という志が根底にある本です。
幸せに長生きできて、さらに健康状態であれば個人としてもすばらしいことだし、
国家としても医療費削減は喜ばしいことです。
WinWinの状態に持っていくためには、まだまだ研究も実践も足りないようですが、
こういった分野があるってことは喜びたいですよね。
良書でした。
Posted by ブクログ
格差は「負け組」のみならず、「勝ち組」にも影響する。
女性のストレスを減らすには、家事そのものの時間減らすことではなく、男女比率の割合を減らすこと。
「行動経済学」がキーワード
パブリックヘルスの取り組みを阻むもの・自己責任論・利益重視の民間企業の存在・人々は理性的で計画的という伝統的理論
Posted by ブクログ
事例豊富に、かつシンプルにパブリックヘルスの論点を紹介。技術面で限界的な領域はともかく、平均寿命や一般的な健康に関する課題は、すごく社会環境や構造に影響を受けるとの点は、改めて納得です。
Posted by ブクログ
”格差は負け組だけでなく勝ち組の寿命も縮める。“という衝撃的なメッセージに惹かれ、読み進めた。
医者から研究者への転向は、患者の容態が「目に見える世界」から、社会全体を見渡して健康の要因を探る「目に見えない世界」への転向だった。
医者としてやっていることは傷口にただ絆創膏を貼っているだけ。根本的な解決はできていない!!
問題を上流から解決する!!
→医学だけでなく、パブリックヘルスが大事!!
健康と貧困に焦点を当て、
⭐️日本の長寿
日本の長寿は、人々の絆、隔たりの社会による。
ex向こう三軒両隣、お互い様、情けは人のためならず
しかし、、
最近は、非正規雇用の増加による格差から人とのつながりが薄い、生活習慣病を個人の努力義務とする風潮
非正規雇用の増加による待遇差がもたらした人間関係の溝、経費削減で会社のイベント減少の傾向
→ソーシャルキャピタルの減少
健康はソーシャルキャピタル(社会関係資本、社会における人々の結束により得られたもの)による影響が大きい!!ex 震災
なぜ日本はこうなのか?
稲作文化↔︎欧米は牧畜(いかに多くの土地を確保するかが鍵)
島国であり鎖国してた、多様性のなさ
Posted by ブクログ
命の格差は止められるか
やや、当たり前のことをデータを使用して述べている感じが拭えない本であった。しかし、パブリックヘルスという考え方は示唆に富んでいた。筆者のイチロー・カワチ氏は、どうしたら人々は健康でいられるのかという川上のアプローチをとっている。つまり、医師とは健康から不健康になった人々を救う職種ではあるが、その一歩手前で健康から不健康にならないためにはどのようなアプローチが必要なのかという観点で論が進んでいくことは新鮮であり、多くの場面で応用できると感じた。
Posted by ブクログ
「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)」の観点から健康を考える本。
社会から経済的な格差がなくなることはない、ということを踏まえた上で考えるべきは、それにより生じうる健康の格差をいかに減らしていくかということ。
一つ一つの病に対処していくだけでは、経済的に、教育的に下方にある多くの命が零れていく。
これをどうにかするには、病気の根本となる「上流にある問題」に目を向け、健康の土台となる社会全体の環境づくりに取り組まねばならない。
教育への投資、仕事の裁量度の工夫、地域コミュニティの構築などなど、考えられる方法はたくさんある。
とにもかくにも、全体の水準を上げることこそが、全ての人にとって利になるということ、この考えを共有していくことがまず肝になると思う。一部の上流層の反射的な拒否感はどうしてもあるだろうけれど、そういった人々の協力がとても重要になる。
格差が広がると社会全体にストレスが蔓延していくというのは、感覚的にではあるけど本当に納得できる。逆に、データとしても一応示されていたけど、平均寿命で何とか説明しようとしているのがまどるっこしく感じられた。もうちょっと違うアプローチですっきり証明できるようになることを期待。
人間は思っている以上に、理性的に行動できる生き物ではない。 意外に直感で動いている(有害なタバコへの嗜好が例)。そのため、行動経済学的な、感情・イメージに訴えかけていく取り組みももっと考えていくべきだという言葉も、成程と思った。
要するに、アイデアと交渉力の勝負になるのだろうな(ものすごく大変だろうな)。