あらすじ
1979年夏、44歳の「作家」が、1940年代のアメリカ・オレゴン州での少年時代を振り返る。貧困の中での生存と気晴らし、池の端にソファやランプなど家具を並べて釣りをする夫婦、22口径の拳銃が起こす悲劇、少年の心に落とされた影……。幻想的な光景と死の匂い、風に吹きはらわれてしまいそうな人びとの姿を物語に描き、作者が生前最後に発表した小説。1985年に刊行され品切れとなった後、傑作と評価されながら入手困難となっていた『ハンバーガー殺人事件』を原題に沿って改題、訳者があらたに訳しなおし、復刊文庫化。
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Posted by ブクログ
カウンターカルチャーに多大な影響を与えた著者の生前最後の作品かつ自伝的小説。
1979年の夏、44歳の主人公が1940年代後半のオレゴン州で過ごした少年時代を回想する形で物語は進み、読者は否応なく戦後間もないアメリカの片田舎にタイムスリップさせられる。
ビールの空き瓶を集めたこと、近所の葬式を覗き見したこと、ヘンテコな人々との会話等、断片的な記憶を飾り気のない少年目線で語り、貧困の中で生きる人々の営みを温かな眼差しで描いている。
それと同時に、序盤から「主人公のふとした選択」(ハンバーガーではなく22口径の銃弾を買ったこと)による悲劇が言及され、作中全体を通して死の匂いと暗い影が漂っている。
「ハンバーガー殺人事件」以降、主人公がハンバーガーに取り憑かれてレストランの料理人にインタビューする描写に爆笑した。
ラストでは、池の側でソファに座って釣りをする夫婦の描写にただただ心が温まる。
そんな夫婦を「おとぎ話」と例えながら、著者自身が古き良きアメリカ(失われた時代)への郷愁に浸るp.178-179の文章がとても良かった。
「第二次世界大戦直後のアメリカのゴシック時代には、こんなおとぎ話も生きていた。
やがてテレビがアメリカ中の想像力を破壊していく。人々は家に閉じこもり、尊厳をもって自らのファンタジーを生きることをやめてしまう。
あの時代、人は自分の想像力を自分でつくりあげていた。自分が食べるものを自分で料理するのと同じだ。いま、夢といえばまるで全国チェーンのレストランが立ちならぶアメリカの町並みと変わらない。」
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テレビをスマホと読み替えれば、完全に現代のドパガキ達と重なる。いつの時代も、大量消費コンテンツは人の想像力を奪ってしまうのだ。
透明感のある詩的な文体の中で、「風に吹きはらわれてしまいそうな」人間の儚さを、ノスタルジーとエモさたっぷりに描く傑作。
Posted by ブクログ
ハンバーガーを買うか、銃弾を買うか迷う。葬式をただ興味深い変な儀式として見る。社会通念や知識といった文脈なしに「ただ」見る、「ただ」感じる。少年時代の無邪気で危うい感覚が読んでいて面白かった。
ハンバーガー屋から漏れる美味しそうな匂いがたまたま途切れる。そんな偶然としか言いようのないことで銃弾を買うことになる。人生が変わってしまう。その後狂気的にハンバーガーの歴史や物語を収集することに躍起になる主人公、面白かった(過去の罪からの防衛反応と考えると辛さも感じるけど)
ある友人には嘘をついて偉そうにするし、ある友人には愛想をつかされないように下手に出る。大人的な意図がない子供ならではの感覚も思い出した。
果樹園での事件(事故)が冒頭から仄めかされているのも小説として面白く読めた。
もっと果樹園での事件は狂気的なものかとも思ったが、子供の感覚で描かれる風景や事象の延長で人を殺めてしまったという描写はたしかに恐ろしいし、人生を振り返る上で大きな転換点となる出来事だったことは確か。
戦後のアメリカの風景を知らないが、どこか荒涼と殺伐としている仄暗い雰囲気を感じた。過去を振り返るという形式によるものかもしれないが。
ガレージでただビールを飲み続ける退役軍人、池に家具一式を運んで釣りをする夫婦。出てくる人物が全員一風変わっていて、無邪気な少年との会話それ自体も面白かった。全員、思考が過去に向いた訳ありな雰囲気をもっていたのも、物語全体の雰囲気に繋がっていそう。