あらすじ
世界で先行していた物価の高騰=インフレーションが、日本でも2022年春から始まった。
それまでの慢性デフレから一転したのはなぜか――。
物価研究の第一人者がその謎を解く。
物価高騰は私たちの生活を圧迫するが、同時に賃上げを達成すれば、市場は価格メカニズムを取り戻し、日本の経済は好循環で回り始める。
どうすれば賃金を上げられるのか?
政策金利は、財政はどうなるのか?
直撃するインフレの実態に迫る。
■目 次■
序 章 新たな時代の始まり
第1章 賃金・物価・金利の正常化
1 本章の論点
2 慢性デフレとは何だったのか
3 賃金・物価・金利の変化
コラム:日銀はなぜ2%のインフレを目指すのか
第2章 インフレは日本経済をどう変えるのか
1 本章の論点
2 価格メカニズムの正常化
3 実質為替レートの正常化
4 政府債務の正常化
第3章 インフレと日銀
1 本章の論点
2 インフレは一過性か
3 物価予測のミスを闇に葬った日銀とエコノミストたち
4 「基調的インフレ」とは何か
5 植田日銀の利上げは機会主義的
6 利下げでトランプ関税に備えよ
7 国際的な「同期」が高インフレをもたらす可能性
コラム:日銀の追加利上げは「全く理解できない」
第4章 インフレと賃上げ
1 本章の論点
2 安いニッポンに賃上げと値上げの自粛は必要ない
3 最低賃金の引き上げはなぜ必要なのか
4 実質賃金改善のために労使は何をすべきか
5 「自然」実質賃金という考え方
6 トランプ関税を負担するのはいったい誰なのか
コラム:賃上げを社会に定着させる方法
第5章 インフレと財政
1 本章の論点
2 賃金と物価を上げるための財政支出をためらってはいけない
3 インフレ率2%経済への移行で得られるインフレ税収
4 消費税減税で潤うのは買い手ではなく売り手なのか?
コラム:高市政権の「積極財政」の可能性とリスク
第6章 インフレの変動要因
1 本章の論点
2 令和の米騒動の原因は需要か供給か
3 黒田日銀総裁が語った70万字
4 パンデミックで迷走した物価統計
5 消費者が「見た」価格と「買った」価格はどう違うのか
あとがき
図表出所一覧
初出一覧
参考文献
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
物価の専門家である渡辺努先生の最新作。物価に関しては、誰よりも洞察が深い。著書は読ませていただいているが、毎回、とても良い勉強になっている。
「2022年春以降のインフレは輸入物価が上昇したことから始まった。海外要因が収まれば日本のインフレも沈静化するとの見方が多かったが、筆者は当初から、今回のインフレは単なる「輸入インフレ」ではなく、賃上げなど国内の化学反応から起きているので、持続性を持つと考えていた」P5
「(慢性デフレのはじまり)2002年に経団連が「春闘の終焉」を宣言し、2003年には連合がベースアップの統一要求を断念した。これにより賃上げは事実上停止し、賃金は毎年据え置かれることとなった」p8
「ソ連では価格が存在しないか、あっても需給を反映せず、資源配分が悪化した。日本では価格そのものは存在したが、それが据え置かれ続けたために、資源の効率的な移動が妨げられた。つまり、形は違えども価格メカニズムの機能不全という点で、慢性デフレ期の日本は旧ソ連と同じ問題を抱えていたのである」p13
「来るべき「インフレの時代」とは、価格メカニズムの復活によって経済のダイナミズムが改善する一方で、その裏側として格差の拡大を伴う時代なのである」p16
「慢性デフレは、① 商品の価格が上がりもせず下がりもせず、毎年据え置かれる、② 賃金が上がりもせず下がりもせず、毎年据え置かれる、という2つの特徴を持っている。価格が上がらないので労働者は賃金据え置きを受け入れる」p25
「(価格据え置きと賃上げ要請なし)筆者が知っている限り、こんなことをやっていた国は日本以外ない」p27
「(第2次安部政権の「異次元の金融緩和」2013~)は、インフレ予想も賃上げも振るわず、そのため輸入物価の上昇を国内物価の上昇につなげることができなかった。それに対して、今回はインフレ予想と賃上げの両方が大幅に上昇し、好循環の条件が満たされた」p37
「労働生産性の高まった企業や産業では、賃金が上がり、それが魅力となって企業や他産業に勤めていた労働者をひきつける。一方で、生産性の振るわない企業・産業は賃金が低く抑えられ、そのため労働力を失い、相対的に縮小していく。このようにして、有望な企業・産業で働く労働者の割合が増え、それがその国の平均的な生産性を上昇させるというメカニズムが働く。これが健全な姿だ」p53
「(コストカット経済(後ろ向きの経営)は、活力を失わせる)ミクロで見れば、後ろ向きの経営はその企業の利益を改善させる。しかし、ある企業がコストカットの一環として仕入れを減らせば取引先の企業の売上が減ってしまう。つまり、コストカットによる経営はその他の企業の売上を犠牲にしてはじめて成り立つものだ。誰もが同時に後ろ向きに転じるとなると、おたがいにコストを押し付け合うことになり、誰も救われないという事態に陥る」p60
「(「高いニッポン」から「安いニッポン」へ)慢性デフレが始まった90年代半ば、日本の賃金は世界でトップクラスになった。日本と米国の労働者の賃金を比較すると、日本の方が高かったということだ。内外の賃金で実質化した円ドルレートが過度に円高だったと言ってもよい。そうした中で、このままでは日本企業が国際競争力を維持できないとの認識が財界に広がり、円建ての賃金を引き下げる努力が始まった。これが慢性デフレの始まりだった」p66
「(OECD内での賃金順位)1995年、日本は第2位(1位はスイス)と確かに世界トップクラスだ。2000年2位、2001年5位、2002年8位、2003年11位、以後2桁順位」p68
「2000年代に起きた一連の出来事は「密約」の存在を裏付けている。第1は、2002年3月の「トヨタ・ショック」だ。この年の春闘でトヨタがベアゼロの回答をしたのだ。トヨタの収益は決して悪くなく、ベアゼロに追い込まれる状況ではなかった。しかしトヨタは、この先、国際競争で生き残ることを考えると、これまでのようなベアを続ける余裕はないと労組に宣言したのだ。その宣言は他企業にも波及し、多くの企業がベアゼロへと舵を切った」p69
「賃金の正常化が今後順調に進めば、賃金マークダウン(賃金が本来あるべき水準からどれだけ抑制されているかを示す指標)が解消されるので、少なくともその分は、実質為替レートへの円高圧力は和らぐことになる。それに伴い、日本の賃金と物価が海外との対比で安すぎるという「安いニッポン」現象も是正の方向に向かうと考えられる」p75
「名目為替レートは、①実質為替レートと、②日米の価格比で決まるが、今後、物価と賃金の正常化が進む中で、両方の要因が円高化に寄与すると考えられる」p76
「家賃や理美容代など価格粘着性の高い品目に日銀が重点的に注意を払い、金利政策をそれらの品目に強くリンクさせて判断しているのは理に適っている」p128
「(何もせずに待てばよい(植田日銀))利上げをすれば失業が増える。インフレの沈静化は必要だが、そのコストを誰も払いたくない。だったら、何もせずに待てばよい。待っているうちに不況が来る。そうすれば嫌でもインフレ率は下がる。もしその不況で十分にインフレ率が下がらないとしても、もう少し待てば次の不況が来る。そうこうしているうちにインフレ率は所望の水準まで下がるだろう。この方法であれば利上げで十分なコスト(失業)を払うことなくディスインフレを実現できる」p131
「(関税の影響)関税により国内品への代替が進むと、生産効率やコスト競争力に劣る国内品へと切り替えることにより、経済の資源配分効率が悪化し、その結果、マクロ生産性が悪化する」p136
「物価の上昇が先行し、賃上げが追いつかない状況では、物価の上昇を抑え込もうという方向に政治家の議論が迷走しがちになる。しかし進むべきはそちらではなく、一層の賃上げだ。物価は市場メカニズムに委ねる」p144
「日銀はインフレターゲットを設定しています。物価上昇率の足元の数字または見通しがインフレターゲットを上回ったときに利上げするのが経済学のロジックです」p155
「(消費税の増税)3回の消費税増税の経験から学ぶべきポイントは、売り手は、消費税率が変更されるタイミングを、課税前価格を変更する絶好のチャンスと捉えていたという事実である」p223
「フィンランドでは、消費税の増税では、多くが消費税前価格を値上げさせるが、消費税の減税では、さほど消費税前価格を値下げしない、ことが明らかになっている」p225
「フランスの事例では、消費税減税が行われたとしても、消費者が利得を独り占めできるわけではないという事実(レストランが消費税減税に併せて値上げすることによって利益を増やす)」がある」p226
「(ロケット羽根現象)ガソリンなど、原価上昇時には即値上げするが、原価下降時には、値下げは遅らせる現象がある」p227
「エネルギー補助金のように、「物価を下げる」ためにインフレ税収を使うのは本末転倒」p236
Posted by ブクログ
物価等研究の第一人者の著者による、とても読みやすく理解しやすい新書。日本の異端性を長く感じていたが、筆者がデータでそれを明らかにしてくれたので、とてもすっきり納得できた。雑誌等からの再録故の答え合わせがあったりして、なかなか面白い構成と感じました。状況はどんどん変わっているので続編も期待します。
Posted by ブクログ
とっっっってもわかりやすかった。
経済のこと全く知らなかったから、失われた30年がなんだったのか理解できた。
たまたまコロナというきっかけで生まれたインフレが良き方向に転換出来ればいいなと思う
Posted by ブクログ
非常に分かりやすい書籍でしたね。渡辺先生の「物価を考える」も目から鱗でしたが、本書はより直近のインフレ動向を踏まえながら、更に簡潔にまとまっている印象です。中でも、物価の将来動向は人の気分が底流にあるという基本的な論調は、個人的にもなるほどなぁと感じる部分があります。
元々デフレに30年浸かった原因は、1990年代日本が諸外国対比賃金が高い一方でクビに出来ない分、賃金を抑える事で、日本独自のシステムが始動したという事実は中々衝撃ですよね。その後、インフレの時代に突入したきっかけ自体は、黒田前日銀総裁の奮闘虚しく、戦争などの外部的な要因でしたが、適度なインフレが今後も維持されるように、政府・日銀・企業が暗黙の了解で動き続けなければならないですね。
Posted by ブクログ
渡辺先生の本を読むのは、「物価とは何か」「世界インフレの謎」「物価を考える」に続く4冊目。
オビの「インフレは日本にとって正常化への前向きな変化だ」という言葉に勇気づけられます。
失われた30年はまさにデフレの時代でした。
しかし、2022年春から日本でもいよいよインフレが始まったようです。
賃上げも少しずつ定着しつつあり、物価上昇と賃上げの好循環により、緩やかなインフレのサイクルが定着していくことを期待しています。
確かに物価上昇に賃上げが追いついていないのも事実ではありますが、物価上昇を許容するマインドが定着しつつあるのは、経済正常化にとっては好材料。
慢性的なデフレは経済の活力を削ぐだけなので、経済の局面が変わりつつあることを歓迎したいと思います。
渡辺さんの物価の本は本当に勉強になります。
経済については、メディアに登場するエコノミストやコメンテーターの見立ては信用ならん部分が多く、為にする悲観論ばかり垂れ流す人たちも多いので、自分なりに勉強して判断力を養っていきたいと思います。
Posted by ブクログ
面白かったところ
■正のインフレ
労働者が賃金の低下を受け入ることにに大きな抵抗を示す賃金の下方硬直性がある場合は、正のインフレを受け入れざるを得ない。生産性の低い人の賃金を下げずに据え置く必要がある場合、生産性の高い人の賃金を上げるために販売価格を上げなければならないため。
■消費税減税メリットを誰が享受するか
今月の衆院選の論点になった消費税減税。企業による便乗値上げが起きるためヨーロッパの類似の実績では消費者の利益は減税額の20%程度に留まる。その後に税額をもとに戻す際にさらなる便乗値上げが待っている。
Posted by ブクログ
「物価」に関する分析や説明が非常に納得感がある。一つ前に読んだ唐鎌さんと河野龍太郎さんさん共著との比較で、企業の内部留保についての言及が一切なかったことが気になった。インフレや金利に関する本を幾つか読むことで、根拠や常識と呼んで差し支えない普遍的(に見える)情報と、著者独自の視点や解釈の違いが、少しずつだが見えてきたように思う。
Posted by ブクログ
黒田日銀総裁によるアベノミクスの金融政策、異次元金融緩和をもってしてもデフレ脱却ができなかった日本社会。しかし、パンデミック後の2022年から、輸入資材の高騰や人手不足による人件費増のコストを企業が価格に転嫁し始め、賃金も春闘により3年連続でベースアップが実現するなど上昇傾向が見られ、デフレからインフレへの転換が確認されたのではないかと著者は考える。ただし、長きにわたり物価も賃金も上がらないことが常態化し、デフレマインドにどっぷりと染まってきた日本社会では、再びデフレへと歯車が逆回転する恐れがあるという。それは今後の日本社会にとって何としても阻止しなければならないと著者は主張する。
では、そのためには何が必要か。インフレ研究における日本の第一人者である著者は、インフレが日本社会に与える影響、インフレに対する日銀の考えと取るべき政策、デフレ脱却には物価上昇に見合うだけの賃上げ実現が重要であること、デフレからインフレに転換した現時点で政府が行うべき、またチャンスとして行える財政政策、最近の米価高騰の要因分析、黒田日銀総裁がデフレ脱却のために試みた政策とその効果が出なかった理由など、様々な観点からデフレからインフレへと変わる日本社会の様相をわかりやすく論じている。
昨今の経済に関する多くの著書が、著者の立場からのポジショントーク的なものや特定の側面のみを切り取ったフレーム的内容のものであり、何が真実なのか判断に迷うものが多い中、本書は王道の経済理論により大きな枠組みでインフレ・デフレを論じており、大変勉強になる一冊である。
Posted by ブクログ
とても分かりやすい本でした。
筆者の渡辺先生が、2022年春以降のインフレを観察しながら、その時々に書かれたエッセイをまとめたものということです。
私が感心したのは、渡辺先生がその当時エッセイに書かれていたことは、今の時点で振り返れば間違いであった、ということを素直に書かれていることです。
間違いを認めない人がたくさんいますが、渡辺先生はそうではないので尊敬します。
Posted by ブクログ
渡辺先生のお話は、とても分かりやすい。
衆院選間近ということもあり、より経済に対してのアンテナが高まる。
先を見据えられた上でインフレの時代を生きていく為のヒントに溢れた一冊。
PIVOTの動画と併せて読むと更に理解が深まる。
Posted by ブクログ
90年代後半に財界から国際競争力確保のためにベア停止の要求。 2002年3月のトヨタショック 。 連合が受け入れ、賃上げ抑制が定着。賃金マークダウンが貿易財産業で大きく、それが非貿易財価格への下押し圧力となり、実質為替レートが円安化へ。インフレは債務の実質的価値を目減りさせるので債務者に有利、債権者に不利。今の政府に180兆円のインフレ税収。インフレもデフレの人々の信念や気持ちの揺らぎ次第。新型コロナを起点とした海外の激しいインフレ(21年春~)、ウクライナ戦争の勃発、原油の高騰という報に接し、日本人の「インフレ予想」は22年春に、高まりそのまま定着。消費者が逃げなくなった分を企業は敏感に察知し、コスト上昇分を積極的に転嫁。人手不足で強気の賃上げ要求も認められると労働者・組合が判断したのがこれまでとの違い。賃上げ要求へ。賃金の粘着性。インフレに賃上げが追い付かないという実質賃金の低下が問題。最低賃金を長期的に上昇させることが有効。買うか買わないかの意思決定は、価格が昨日から変わっているかどうかによる。ステルス値上げも同じ。消費増税は価格引き上げのチャンス。米騒動の第1ステージは供給サイドが「フェアネス」を考慮して価格を上げなかったから。第2ステージ目は時間も経って「フェアネス」効果が減少し、積極的な値上げへ。
Posted by ブクログ
日本のデフレとインフレの理由と流れ。
物価の上昇に追いつかない賃金の上昇。なぜ追いつかないのか、日本の歴史(デフレ)の影響。
一読の価値あり。本書の知識をベースに今後の日本経済を見ていきたい。
デフレの時代が終焉し、インフレの時代になるとの説明です。経済学の知見がなくても、解り易い説明ですが、やはりある程度の経済学の知見がある方が理解が進むと思いました。
Posted by ブクログ
著者の本はいくつか読んでいるのですっと頭にはいる。
数年前までは日本だけが価格据え置きの傾向にあったがコロナを機に物価上昇と賃金上昇の動きが進んだ。
賃金上昇が追いついていないので今後どうなっていくのか興味深い
Posted by ブクログ
良書。
バブル期からなぜデフレになりインフレになってきたのかが分かる。バブル期、世界二位になった個人所得を抑えないと中国に対抗出来ないと判断し思惑通りになったが下げすぎてデフレになったと作者は言う。
令和の米騒動は、購買者の溜め込みが原因か?
2%のインフレ、3%の給与upの状態がいいらしい。
Posted by ブクログ
渡辺先生の著作は2冊目。同様に印象的なのは、デフレが続きすぎた結果、日本は価格メカニズムが壊れていて、価格が上がりにくかったという論旨。
その結果、日本では見かけを変えないで実質の量を減らすといったステルス値上げに代表される非価格競争が発生し、仕入れのコスト高騰に対して、本来価格を上げて利益を追うべきところをコストを下げて利益を守るようになってしまったのでした。
また、他の本でありましたが、日本は消費者余剰が大きいという特徴があり(価格に対して商品やサービスのクオリティが高い)、その特徴も非価格競争的状況を続けられた理由なのかもしれません。
とはいえ、素人の直感でも、そんな状況では賃金は上がらなそうだし、いつか限界が来そうだと思います。
人手不足や海外からの圧力もあり、インフレになりつつある日本。物価も上がって、賃金も上がる、そんな未来を見てみたいなと興味本位ですが、思います。