【感想・ネタバレ】はくしむるちのレビュー

あらすじ

デビュー作『月ぬ走いや、馬ぬ走い』で群像新人文学賞と野間文芸新人賞をダブル受賞した大型新人が、圧倒的な筆力で描く衝撃の長篇第一作!
暴力が支配する世界に、「ヒーロー」は現れるのか? 戦争の傷が刻まれたこの島で、新しい地図を描くための「戦い」がはじまる。

きみは沖縄に生まれ育ち、ウルトラマンに憧れるオタクになった。小中学校とエスカレートする「いじめ」を生き抜いたきみは、この島を分断する「壁」に向かって、ある「計画」を実行していく――。
沖縄の今を生きる少年少女と、80年前の戦場を生きた少年兵たち。ともに白紙のような彼らを呑み込んでいく巨大で残酷な暴力に、どう立ち向かうのか?現代と戦中戦後の時空を交差させて描く、鮮烈な青春小説にして、新しい世界文学の誕生!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

自分は沖縄出身じゃないから、外様の感想しか出てこないけれど、この本を読んだ沖縄に生きる人たちはどんな事を思うのだろうか。

現代と戦中戦後の時間が交差する手法は前作もやっていたけど本当にこれはすごいと思う。(これは写真表現にも似ているところがあると思っていて、さまざまな時系列の事物を一つの文脈に編んで世に提示する表現だ。写真家によってテーマはそれぞれあれど、この本にも似たものを感じた。)世界が地続きである事が直感的に感じられる。

そこに今回はぼくらやきみといった人称が混じる事で、一体だれがこの現実を見て語っているのかがわからなくなり、俯瞰的でありながら行生や修二など人物に潜っているような主観も持ち合わせていて、今までにない体験だった。その正体も後半で解説されてまだ咀嚼しきれてないけれど、沖縄に眠る魂たち?がずっと見守っていたのだろう。

作中で現代の登場人物たちが抱える問題の解決はされず、暴力はどこかで息を潜めている。人は老いる。それでも誰かが誰かを、誰かの大切な何かを守ろうと、想い行動するということの力を感じた。

個人的に中盤まで読んでいて気がかりだったのは、頼りになる大人はローカルな人たちばかりで、学校の先生や警察みたいなソーシャルな大人は全く登場しないんだということ。もはやそれが普通になってしまった現代なのかもしれないけれど、行生がいじめられているあたりで全く先生や学校の描写がなくてオイオイと思っていたところに、終盤で円鹿が教師になりたいと言っていてそこで繋がってくるんだーとなった。

沖縄という土地、そこに住まう私たちはずっと誰の為にあるんだ?と戦中戦後から現代を貫いて掲げられた疑問に、さっき書いたローカルな繋がりが仄かに結びついている気がする。圧倒的な暴力が降りかかる円鹿と未佑のピンチにマンションの住人が気づいてくれたり、赤インコに波留ちゃんが帰ってきてくれたり。私たちには、私たちがいる、といった解答がある気がした。

タイトルのはくしむるちも内容にリンクしてさまざまなシーンで響きがある。白紙のスケッチブックに絵を描くこともはくしむるちで、沖縄という土地そのものが戦争で一度白紙になり、以後渦巻く暴力や支配の気配もはくしむるちだったりする。どうやったらこんな凄い本が書けるんだ。

一度沖縄に行って、戦争があったその地をこの足でこの目で実感しないとと、強く感じます。誰かを動かし、誰かの明日を照らす力がこの本には収められていました。

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2026年03月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 2024年に『月ぬ走いや、馬ぬ走い』で群像新人賞を受賞した著者の2作目。ファミリー・ヒストリーに沖縄と戦争にかかる歴史を織り合わせていくスタイルは前作と同様だが、ポップカルチャーとストリート文化の援用がより前景化されていることが目を引く。

 ストーリーは、戦時下の沖縄でも沖縄語を使い続ける徴として「赤インコ」と呼ばれた少年と、彼の死によって生きることができた修二の縁から始まった時間を縦軸に、その孫世代の少年少女が「高い壁」が立ちはだかる現代の沖縄の「生きづらさ」に取り込まれ、対峙していくかたちで展開する。酷い苛めの被害者だった行生がグラフィティ・アートの担い手として想像力にこの島に「タグ」を付けられるようになっていく一方で、行生を守るヒーローになりたかった端人、不良グループの末端でちょっかいを出し続けたことで行生に背負い投げを喰らわされたキサキの「出口のなさ」の方が印象に残るのは、若い人間に安直な希望を託さないという著者の固い決意のあらわれなのだろう。
 クライマックスの琉球舞踊の場面で、数百年続く女性たちの苦難を一身に引き受けたように倒れ込む少女のありようは、演じる身体の中に演じられた人々の記憶が流れ込んでいくという点で、町屋良平の『生きる演技』とも響き合う。

 異なる時間を生きた一族の生をサンプリングするようにつなぎ合わせた前作に比べ、息の長い描写や語りも多く取り入れられていて、著者としての挑戦の意気込みが感じられてすがすがしい。語り手が行生を「きみ」、修二を「お前」と名指していく語りの企みはあまりうまくいっているとは思えないが、著者が「書くこと」の地平を拡げたいという努力はひしひしと伝わってきた。

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2026年02月15日

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