【感想・ネタバレ】みずうみの満ちるまでのレビュー

あらすじ

小川一水氏激賞! 第13回SFコンテスト特別賞受賞作

気候変動と戦争に荒れた未来。富裕層は精神を仮想空間に移し永遠の命を得たが、全財産を次世代に託し死を選ぶ者もいた。彼らを看取る楽園〈ヘヴンズガーデン〉で元難民のコーディネーター・エルムは何を想うのか。人類の過ちと環境破壊の果てを静謐に描く物語

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Posted by ブクログ

誰かの台詞でも「」を用いない文体で描かれる。それが私には、私の声も存在も認識されないような、遠くの場所で人々を見守らされているかのように感じる。それは、私に物語への干渉を許されず、突き放された気持ちにさせる。どんな小説だとしても、それが当たり前なのは重々承知であるが、どこか寂しい。何より、この世界は私達にとっても起こり得る未来で、この世界を自分たちと結び付けておかないと同じ事を起こしてしまうと思う。私も物語の一部にして欲しいのにそうさせてくれない。そんな俯瞰した目線で描かれる本作は、私たちの未来を予言したかのような雰囲気を醸し出している。
と、前半程度を読んだ自分は考えており、少し残念に思っていた。しかしそれは大きな勘違いであった。俯瞰した目線で物語を突きつけられているのではなく、語り手の、エルムの中で世界を共にしているのだった。彼女の中にいるから、外の台詞は台詞に感じ得ないし、彼女の中にいるから、彼女の感動が私に伝わるし、彼女の中にいるから、彼女の悲しみが私に伝わる。寓話のような情景がが目立つ終盤では、エルムに、私に湖の表面が近付いてくるといった表現を用いて、深い悲しみに溺れる様が描かれる。本作において、美しさの象徴としても描かれる湖が、私を悲しみで包み込む。これらの描写を味わい深いと称してしまうと、この世界で暮らす彼女達に対して、無礼であるかもしれない。だがそう感じてしまった。そう感じされられることによって、私とエルムの輪郭は更に近付いていき、彼女が見る世界と似た世界(より純度の高いそれ)を私は見ることになる。美しさの先に、はたまた裏に佇む悲しみに、私は身を預けることになった。

外の世界は混沌とし、嘗てあった自然は何一つ残されていない。そんな世界の片隅に佇む、美しい景色。丁寧に剪定された草花。大きな夕日によって橙の道を作り、煌々と照り輝く湖。そこは生とも死とも隣人で、どちらにもなり得る空間。読み始めて少しの頃、この物語は長篇ではなくて連作短編か中篇にした方が面白いのではないかとも思っていた。しかしながら本作は、長篇であるからこそ出る世界描写の魅力で包まれていると感じた。そこで暮らす人々の流れは大抵同じで、実行する人々はそんなこと思わないが、読者の私からすればどこかワンパターンのように感じてしまう部分もあった。しかし、さまざまな人を送り届けていった後に、またはその過程でこの世界の景色が少しずつ明かされていき、内から外に向かってじわじわと広がるような美しさが感じられた。初めからあったに違いないが、それを美しいと感じていたかは別問題。綺麗な世界が広がっていく様子を体験出来たことを非常に嬉しく思う。

ラストだって非常に好みだった。賛否両論ありそうだと思ったし、自身の考えをまとめた後に読んだ、選考委員さん達の講評でもそこが評価の分かれ目だったみたい。この余韻が物語の美しさを更に増幅させているのだと私は信じている。

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2026年04月02日

Posted by ブクログ

自然環境の崩壊が進む近未来。貧しいものは死に、富めるものがデジタル世界で生きながらえる、そんな中で、永遠の命を放棄した富めるものたち、生きながらえることになってしまった貧しきものたち、意図せず永遠の命を得てしまったものたち、彼らが巻き戻せない現世について考える物語りだったと思います。世界観が完成されていて秀逸と感じました。私個人としてはストーリーのピークが最終盤でなかったように感じてしまい星4つとしましたが、大変深く考察された内容に好印象でした。

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2026年04月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

SFというと、無機質で退廃的な印象があります。けれども本作は瑞々しい木々が並ぶ、
美しい風景を見ているようでした。
それは本作の舞台が荒廃した世界の中の楽園だから。しかしここを楽園と思うかは登場人物によって異なる。仮想空間で永遠の命を得るか、地表で生まれて死を選ぶのか。はたまたどちらも選べないのか。最後まで読むと他の選択肢も出てくるかもしれない。

この荒廃した世界で何かを選ぶことができるのは、一部の人間だけ。それ以外の人間は、選ぶことなく奪われて続けていく。そんな人間が減るように、三毛猫は難民を救い続ける。そんな風に感じられました。残酷な世界なのに、楽園の美しい様と三毛猫の存在により、綺麗な物語に感じるのがすごく印象的。
普段はあまりSFを読まないのですが、すごく好きな作品だと感じました。

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2026年02月03日

Posted by ブクログ

ハヤカワSFコンテスト特別賞受賞作。

地球温暖化と戦争、詰まるところ人の営みの結果終末期を迎える地球を舞台にしたSF小説。

富を持たないものは十分なインフラを得られず、早くに死ぬのに対し、富裕層はデジタル世界に意識をアップロードし、永遠の命を得るという二極化した世界。
そんな中、自治区に設けられたヘブンズガーデンでは富裕層に対して全資産の寄付と引き換えに、望む形の幸せな最期を約束。その施設でコーディネーターとして働いているのが主人公。

永遠の命が得られるのにヘブンズガーデンで死を選ぶ富裕層達が抱えるこの世界への後悔や苦悩、難民として自治区に保護されている側の生への向き合い方、施設管理者側の葛藤。舞台はSFそのものだけど、描かれていることは極めて現実的で、この星で生きるということを深く考えさせられる小説でした。

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2026年02月16日

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