あらすじ
風呂の攪拌(かくはん)棒を人にあげたがる女、鋸(のこぎり)を上手に使う娘、北の湖を下の名前で呼ぶフランス人、そして空気の抜けるような相槌をうつ主人公……。自覚のない(少しだけの)変人たちがうろうろと、しかし優しく動き、語りあう不思議なユートピア。柔らかな題名とは裏腹の実験作でもある、第1回大江健三郎賞受賞作。(講談社文庫)
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Posted by ブクログ
長嶋先生の書く女の子の淡々とした魅力、朝子さん、夕子さんの描写で改めて上手いなぁ!って思う。ちょっと年上の女性たち、瑞枝さん、フランソワーズさんも。
さりげなく自分をこのフラココ屋のアルバイトに据えながらそして尚且つ正体不明の男にしておきながらも皆から嫌われずかといって愛されもせず確固たる位置を占める人物にしているところ、相変わらず、長嶋先生の人生の楽しみ方を振り返り振り返り見てしまう。
この本を読むのは多分三度目。
Posted by ブクログ
もしかして、夕子ちゃんはこの世のいろんなことがもどかしいなあと思っているのかもしれないけど、本当は最初からできているんだよ。君は、この僕が恐れ敬う数少ない人なんだから、どんな時も泣いたりしないでよ。
夕子ちゃんは作中でほとんど主人公と会話をしない。強いて言うなら知り合いの知り合い、という感じ。なのになぜ上記のようなセリフが出てくるのか。そこが正直分からなかった。
けど、勝手に人を尊敬して憧れを持って、だからこそ泣いてほしくない、負けてほしくないという自分勝手な感情をこんなに綺麗にすっきりと表現した文章は見たことがなかったし、
本当は最初からできているんだよ、というところにこめられた優しさがすごく好き。
あと、上記の文章こそが作者が伝えたかったことなのかなと思う。
だとしたらそれまでの淡々とした日常とかも生きてくる?のかな?
表現とかはすごい好きな作者さんでした。
Posted by ブクログ
古道具屋「フラココ屋」の二階に住み込みで働くことになった「僕」を語り手とする連作短編集。
店長や大家さんの孫姉妹、常連客など、少し変わった個性的な面々との、ささやかな日常の触れ合いが淡々と描かれる。第1回大江健三郎賞受賞作。
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何だか淡々とした作品だった。或いはほのぼの系とでも言おうか。
骨董屋のバイトが主人公であり語り手。彼の周りを取り巻く人達の日常が穏やかに描かれる。
そこに(小さいのはあるが)大きな事件は起きず、バイトの主人公の心象風景や他の登場人物との会話が緩やかに展開する。
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本作の作風、例えて言うならば、小川糸さんの作品や、中島京子さんの作品に似ているかもしれません。こんな感じだと伝わりますかね?ほのぼのした感じ。
そう言えば、「例える」という行為、なかなか難しい作業だなあと突然思い立つ。
世に広く膾炙する事例でもって共通理解を促す、といのが例えるという行為でありましょう。
私、小川糸さんだとか中島京子さんだとかに似ているだとか書きましたが、彼らの本を知らない人にはあまり(全然!)通じないかもなあ、と反省。というより、伝えるってのが難しいなあと改めて感じた次第。
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さて、本作は第1回大江健三郎賞受賞作とのことで、大江健三郎氏本人が3章構成の大掛かりな解説を展開されていました。
内容は、言われてみればそうかもなあと思うこともあり、何だか簡単な事を小難しく捉えているかなあと思うこともあり。
偉い賞を背負うのも楽ではないかもなあ、とちょっと感じました。
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といことで長嶋氏の作品、これで4作目でした。
長嶋氏の作品ではじめて読んだ『パラレル』がかなり男性目線の作品で、うーむちょっと馴染めんかも、と思いましたが、4作も読むとそれぞれ作風が異なり、色々書けるんだなあ、と改めて感嘆。
ほのぼの系だけどみょうちきりんな倫理観の押しつけみたいなのが一切なく、気持ちよく読めました。
結局「僕」は誰だかわからず、語り手不詳なまま終わる点もミステリアスでもありました。