あらすじ
天皇はなぜ「武士の時代」といわれる中世を生き延びたのか――その答えは「院政」にある、と著者・岡野氏はいう。「院政」とはたんに、皇位をしりぞいたのちも前天皇が影響力を保ちつづけたといった単純な政治的事件ではない。それは律令体制が完全に崩壊した中世にあって、国家財政を支えた唯一の経済基盤である「荘園」を、「家産」として「領有」した天皇家の家長「治天の君(ちてんのきみ)」が、日本最大の実力者として国政を牛耳った統治システムだった。本書は、摂関家・将軍家・寺社勢力とも対抗し、「権門勢家」のひとつとしてたくましく時代を生き延びた中世皇室の姿を、実証的かつ論争的に明らかにした、著者渾身の力作。中世政治史、経済史、そして皇室史に興味のある読者にとって、本書は間違いなく「目から鱗」の斬新な視点を与えてくれる好著である。
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Posted by ブクログ
研究史が面白い。石母田正の『中世的世界の形成』の呪縛と、それを解き放つ新たな枠組みを提示した黒田俊雄の「権門体制論」。批判される点が多いが未だに生きながらえている権門体制論。これを壊して新たな理論を提示するのは、説明出来ない実証を積み上げるしかないのだろうが、まだ、本質的な反証は出来ていないらしい。
院政は荘園制。荘園制は権門勢家による国土領有権の分割的支配体制。もう少し詳しくいうと最大の荘園領主の天皇一族の家長•治天の君、摂関家の家長•氏の長者、源氏の氏の長者、叡山を始めとする寺社。さらに武家。天皇を筆頭とする太政官制を結束点として権門勢家が領有権を分割して統治する支配体制。院政の力の根元は膨大な荘園を基盤とした治天の君の経済力にある。古代から中世へ変化に律令制的天皇が対応した姿が院政。あまり触れてなかったがそれを唐の滅亡というアジア史の視点からみるのは確かに面白い。日本だと承平•天慶の乱が王朝をかえるほどの規模も質も持てず、王朝が自己変革することで、危機に対応したということだろうか。
Posted by ブクログ
≪目次≫
はしがき
序章 院政とは何か
第1章 日本の荘園はなぜわかりにくいのか
第2章 「権門体制論」とは何か
第3章 さまざまな権門
第4章 院政はなぜ続いたか
終章 中世はいつ始まったか
≪内容≫
タイトルは「院政」ではあるが、第1章の「荘園制」のところのまとめが分かりやすい。そして、著者の意図は「荘園制」こそが『中世』のキーワードである、言いかえれば「院政」を造った目的は「荘園制」にあり、経済的に朝廷を牛耳る必要があったからだ、とする。(現在の歴史学の主説であるが、高校教科書などには反映されていない)大変分かりやすい論旨で、納得できた。
第2章の「権門体制論」はやや難解で、業界(?)の中世史の研究概論となっている。著者は「権門体制論」を支持する立場である。